• ホーム
  • 基金について
  • 海外医療情報
  • お勧めリンク集
  • よくある質問

ホーム > 海外医療情報 > 海外医療(機関紙) > 3.アトピー性皮膚炎と環境・生活習慣

「海外生活と皮膚の健康」

海外における主な皮膚のトラブル

3.アトピー性皮膚炎と環境・生活習慣

順天堂大学医学部皮膚科 平 嘉也子

■はじめに

 アトピー性皮膚炎とは、痒みを伴い、慢性に経過する特徴的な“湿疹”を主体とする皮膚炎です。加えて、多くの患者さんはアトピー素因と呼ばれる体質を持っているといわれます。これは、喘息、アレルギー性鼻炎・結膜炎、アトピー性皮膚炎などの人が家族や親族にいるといったアレルギー性疾患の遺伝的背景を指します。今のところ、アトピー性皮膚炎の本当の原因は分かっておりませんが、現在では、主に次の2つの要因に大きく分けて考えられています。それは、免疫(アレルギー)の異常と、皮膚のバリヤー機能の異常です。
免疫の異常とは、普通の人であれば、体にアレルギー反応をおこさないダニ、ホコリ、カビ、または一部の食物(卵、牛乳など)により体に湿疹が出てしまう状態です。このようなアレルギーを起こす物質はアレルゲンと呼ばれています。バリヤー機能とは体の中から水分が失われないようにするだけではなく、外からのいろいろな物理化学的な刺激や細菌、カビやダニの侵入をはねかえすバリヤーの役割のことです。そのバリヤー機能が低下しているためにアレルゲンが侵入し易く、それによりさらに炎症が悪化するといった悪循環におちいっていると考えられます。免疫(アレルギー)の異常にしても、皮膚のバリヤー機能の異常にしても、環境が変化すればその影響を直接に受けることは想像に難くないと思います。例えば、気温や湿度が年中高ければ、ダニやカビも増え、体温も上昇し、汗をかき、湿疹も悪化しやすいでしょう。また、逆に湿度が低ければ、皮膚が乾燥し、バリヤーが障害を受け、その結果、皮膚刺激を感じやすくなり、皮膚炎がひどくなるといった具合です。
 ご本人またはご家族にアトピー性皮膚炎があると、これから海外へ赴任されるにあたりご心配の事と思います。本症の発症メカニズム、悪化因子、治療処置について簡単にまとめました。

■アトピー性皮膚炎の悪化因子

◇免疫学的要素の悪化因子

【1】ダニ

 ダニの至適環境は、温度20℃前後(20-25℃)、湿度50%以上(75%)で、湿度50%以下では繁殖しないといわれます。ダニが産卵したり、隠れたり、湿気を周辺に確保してくれるような繊維があるカーペット、ベッド、カーテン(あまり掃除をしない家具)は十分注意が必要です。ダニを減らすためには、換気をよくし、こまめに掃除することが必要です。布団や枕のダニに対しては、よく日光にあて、その後に表面を掃除機で吸い取ることがすすめられています。

【2】カビ

 アレルギーを引き起こす要因としてカビも重要な因子の一つです。カビの繁殖には高い湿度、適当な温度環境、栄養源が必須であり、これはダニの繁殖条件とほぼ一致します。従って、ダニ除去の努力は多くの場合カビの減少をもたらします。しかし、ダニ以上に湿度に対する配慮が重要であり、湿度の高い国では除湿器に加えて、十分な換気に注意が必要でしょう。

【3】花粉や雑草

 アレルギー性鼻炎の代表である花粉症は、地域によって原因となる頻度の多い花が異なります。(日本ではスギ花粉症、大連ではアカシア花粉症、パリではマロニエ花粉症)などです。つまり、地域によってそこに多い花、つまり何の花粉でも起こり得ます。花粉症は一般的には鼻炎そして結膜炎を起こすことが多いのですが、まれに顔面などの露出部位を中心として皮膚炎をおこすこと、アトピー性皮膚炎を悪化させることも多いのです。入浴やシャワーによる皮表に付着した抗原の除去、また、ワセリンの外用による胞子の皮膚への直接的な付着の予防が必要となります(ただし、逆にそのため、たくさんの胞子がワセリンに付着し、皮膚に到達し、よくないという考えもありますので、これはケース・バイ・ケースです)。この時期は多くの花粉が飛んでいるので、衣類やタオル、枕カバーなどは、室内あるいは乾燥機で乾燥することが望ましいと思われます。

【4】食生活の変化

 香辛料の多い料理は皮膚炎を悪化させやすいといわれています。欧米の教科書にも食事療法の第一歩は香辛料を避けることが述べられています。もちろん全ての人が対象ではありませんが、香辛料を摂取することで赤みや痒みが増す人は避けておいた方がよいでしょう。アルコールも同様ですが、身体が暖まり、湿疹があるときには痒みを誘発するのでなるべく控えるようにしましょう。また、牛乳、チーズ、卵、果物(キウイー、バナナ、マンゴ、メロン、オレンジ)、魚介類も人によっては悪化因子になることがあります。

◇バリアー機能の悪化因子

【1】気候(温度、湿度、日光量)

 アトピー性皮膚炎の人には、日光が多く、海の近く、または、比較的涼しい地域がよいとされています。適度の紫外線は皮膚のアレルギー反応を抑えてくれることが分かっており、比較的重症なアトピーの患者さんには紫外線療法もあります。暑く、湿度の高い環境は、皮膚の温度の上昇によって痒みが増強し、発汗が亢進し、皮膚炎が増強、二次感染もおこすことがあります。汗は皮膚への刺激作用によって痒みを生じ、また、汗をかくことにより逆に皮膚が乾燥して、増悪する場合もあります。この場合、シャワーを頻回に浴びることによって、汗を洗い流し、そのあと乾燥をふせぐために、保湿剤を外用してください。これが不可能な場合は汗をよく拭き取り、汗を吸収する綿の下着を使うとよいでしょう。入浴は汗やほこりとともにかき傷についた細菌などを除くうえで重要です。
 また、寒く乾燥した環境もよくありません。乾燥は痒みを強くし、このような皮膚は様々な外界の刺激に対して極めて弱くなります。乾燥によるドライスキンに基づく皮膚のバリヤー障害は、多彩な物理科学的な刺激(発汗、香料、掻爬など)に対する被刺激性の亢進を介しての増悪、また、ダニ、ハウスダストなどの環境アレルゲンの侵入や、細菌、ウイルスなどの微生物感染を容易にします。この場合もスキンケアを十分におこなうとよいです。頻回に保湿剤を外用することをおすすめします。
 適度の紫外線は皮膚のアレルギー反応を抑えてくれることが分かっています。このため、日光浴をできる環境であるのであれば、日光によるアレルギー性皮膚炎を合併していないかぎり積極的におこなうとよいでしょう。しかし、あまり汗をかくような暑い時間を避けたり、汗をかいた場合はすぐ冷たいシャワーを浴びつつ日光浴を少しずつ増やしてください。

■おわりに

 海外に行き、皮膚炎が悪化したり、改善するといった現象がみられることがよくありますが、これは、国内と環境因子(アレルゲン、気候、生活の適応性によるストレスの度合い)が違う場合おこります。自分がアレルギー反応を示す物質がその環境で多いか少ないか、またその国の気候がアトピー性皮膚炎の人の皮膚に適しているかどうかで決まると思います。
 最後に現地に行ってから問題となるのが、あちらの医療施設を受診した場合のコミュニケーションです。言語の問題、医療システムの問題、医療保険制度の問題が出てくると思います。海外に赴任する場合、事前にその国の気候、生活環境などの情報を集め、皮膚科担当医に注意事項などを前もって相談し、アトピーが中等-重症の場合は紹介状を書いてもらうのもよいかと思われます。

参考文献

1. 吉池高志、相川洋介他:アトピー性皮膚炎、難治性皮膚疾患の病態と治療(小川秀興編集).P.70-81.日本医事新報社.1993.
2. 吉池高志、溝口雅也、須藤一、他:皮膚科治療の最前線アトピー性皮膚炎のPUVA療法.皮膚科の臨床 37,8-11,1995.
3. Ogawa H, Yoshiike T: A Speculative view of atopic dermatitis: barrier dysfunction in pathogenesis, J Dermatol Sci,1993. 5: 197-204.
4. Rajka G. Atopic Dermatitis correlation of environmental factors with frequency. International Journal of Dermatology. 1986, 25: 301-304


(c) Copyright :1997 Japan Overseas Medical Fund. All rights reserved.