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ニュースレター(機関紙)

悩める海外歯科事情(3)  ―年齢別お口の健康法その2 「大人のむし歯は根元にできる」―
NL12050106
海外赴任者、歯科 / / / / / / / / / / /




悩める海外歯科事情(3)
 ―年齢別お口の健康法その2 「大人のむし歯は根元にできる」―

                      

東京大学医学部国際地域保健学教室
三上ゆう子

今回は、中高年の方によく見られるようになった新しいタイプのむし歯についてご説明します。若い世代のむし歯は、日本では昭和の時代から比べると減少しましたが、社会が高齢化してくるにつれ今までとは違ったタイプのむし歯が出現してきました。

50代からのむし歯は意外なところに発生
 最近、むし歯についてお考えになったことはありますか。ご家族にお子さんがいらっしゃれば、むし歯の予防に関心を持たれていることでしょう。ご自分が「昔から歯が弱くてむし歯になりやすい」という方であれば、定期的に歯科健診を受けて下さっているかもしれません。

 ところで、むし歯はいったい歯の「どの辺り」にできるものなのでしょうか。歯の表面ならどこでも同じように発生するわけではありません。子供など若い世代のむし歯は奥歯のかみ合わせの面にある細かい溝、また隣どうし歯と歯がくっついているところから発生します。ミュータンス菌という口の中にいる細菌が、ショ糖(砂糖)をガツガツと食べて菌体から乳酸など酸を出すのですが、その酸が歯の表面のエナメル質を溶かしてむし歯を発生させます。ミュータンス菌が都合よく潜んでいられるのが、溝だったり歯と歯がくっついているところだったりするのです。健康に問題がなければ、大人になるとむし歯はできにくくなります。年齢を重ねるとともに歯が成熟して、ミュータンス菌が酸を出してもエナメル質は簡単には溶かされないからです。ところが、中高年・高齢者に、今までとは違うむし歯が見られるようになってきました。近年増えてきているそのむし歯は、歯の根元に発生するため「根面う蝕」と病名がつけられています。今までによく知られているむし歯は、歯の上の方にできるので歯冠(しかん)う蝕とよんで区別しています。

なぜ根元がむし歯に?
 根面のむし歯は、なぜできるのでしょう。健康なお口では、歯の根元は完全に歯肉に埋まっています。歯肉(歯ぐき)に埋まっている限り根元はむし歯にはなりません。ところが、歯周病のせいで歯肉の状態が悪くなってくると、歯肉が下がって歯の根元が露出します。露出した歯質はエナメル質で覆われておらず硬度が低い、つまり軟らかいので驚くほど簡単に溶け始めます。根元は一生歯肉に埋まっているはずなので、硬い必要がないんです。さて、口の中は通常中性(pH7.0)~弱酸性に保たれています。むし歯の主犯・ミュータンス菌はショ糖を食べるとすぐ酸を吐き出すので、口の中のpH(ペーハー)が一気に下がり中性から酸性になります。歯冠(歯の上部)のエナメル質はとても硬いはずですが、口の中のpH(ペーハー)が5.4より下がる(酸性が強くなる)と耐え切れずに溶け始めてしまいます。これが今までよく知られている歯冠う蝕です。それがなんと、根面の歯質はpH6.7より下がっただけで溶け始めるのです!pH6.7とは、今までのむし歯の発生の常識を覆す怖い数値なんです。口の中がほんの少し酸性に傾いただけで歯が溶けるということですからね!
 
ご注意下さい!高齢者と男性
 今までによく知られている歯冠のむし歯は、世界のどの地域でも・大人でも子供でも・歴史的にいつ調査しても、男性より女性がなりやすいというデータが得られます。つまり、むし歯といえば女性が気をつけるべき病気と認識されていました。ところが、根面う蝕について調べると、なんと男性が女性より多いという結果が出ました。またまた今までの「むし歯の常識」が当てはまらなくなったのです。根面う蝕が男性に多い理由は、この根面う蝕が歯周病(歯肉や歯を支える骨の状態が悪くなること)がもとで発生するからです。歯周病で歯肉の状態が悪くなると、歯の根元が歯肉から露出し、根面う蝕が発生しやすくなります。歯周病は男性が女性に比べて罹りやすい病気なので、根面のう蝕も当然男性に多く発生します。歯肉が下がるなど進行した歯周病は、50代頃から増えますが、さらに高齢になると、歯を保護する働きのある唾液が減ることもあり、気づかないうちに何本もの歯が根面う蝕になっていた…というケースもよくあります。介護が必要な方の場合、根面う蝕がひどくなりやすく、私も重症の患者さんを目の前にして「いったいどの歯から治したらいいのか」と治療方針に頭を抱えたことがありました。

フッ素で効果的な予防を
 今の時代、むし歯はとにかく積極的に予防しよう!が合言葉です。ミュータンス菌がまき散らす酸から歯を守るために、まずは歯質をフッ素で強くしましょう。フッ素はむし歯予防のために昔からよく使用されていますが、使い方や材料などがどんどん進化しています。歯科医院だけで使えるフッ素もあるし、家庭使用のフッ素もあります。できればその両方を使用していきたいものです。歯周病に罹りやすい中高年とその上の年代の方は歯肉が下がっていないかチェックして、根元が露出してきたらピンポイントでフッ素を使用すると良いでしょう。フッ素でのむし歯予防は、もはや子供だけが対象ではありません。
 また、ご自身の病気や飲んでいる薬の副作用のために、唾液の量が少なくなる場合があります。その場合、歯根う蝕のリスクが大変高まりますので早めの歯科受診をお願いします。


=執筆者略歴=
三上ゆう子  
歯科医師。東京大学医学部国際地域保健学教室所属。
英国留学(エジンバラ大学)および赴任の経験有、現在はJOMF会員用掲示板相談の歯科を担当中。


=編集部より=
三上先生はJOMF会員用歯科掲示板相談の担当医で、相談の中でも矯正についてのお悩みが多いことから今回ご寄稿をいただきました。過去にもニュースレターに、2003年にロンドンで行った在住邦人の小児対象の歯科相談についての報告を頂いております。下記からリンクしています。
英国ロンドンで実施した歯科医療相談会について(1)
英国ロンドンで実施した歯科医療相談会について(2)
英国ロンドンで実施した歯科医療相談会について(3)
今後は、思春期、妊娠中、中高年などライフステージごとの注意事項などの話題を季節ごとに提供して頂きますのでお楽しみに。また、ご質問やご要望、ご感想はニュースレター連絡コーナーhttp://www.jomf.or.jp/ninq/index.html
からどうぞ。

前回までの記事はこちらから
(1)さあ海外へお引越し!でも子供の矯正はどうする? 
http://www.jomf.or.jp/include/disp_text.php?type=n100&file=2011120106
(2)ご存知ですか?年齢でこんなに違う!お口の健康法
http://www.jomf.or.jp/include/disp_text.php?type=n100&file=2012020106