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ニュースレター(機関紙)

海外メンタルヘルスの現場からⅡ (4)眠れない
NL12050102
メンタルヘルス、海外赴任、ストレス / / / / / / / / / / /




海外メンタルヘルスの現場からⅡ
(4)眠れない


シンガポール日本人会クリニック
日暮真由美


この2カ月間は過労によるうつで初診された患者さんが普段よりも多かったです。

皆さんに共通の体の症状として不眠は必発でした。深夜の帰宅が普通で、でも朝は7時台には家を出る。疲れてさぞかし夜はよく眠れるだろうと思いきや、1時間も2時間も寝つけなかったり、反対に朝早く目が覚めてしまったり。最近はみずから自分の状態はうつ病だと思うと言ってこられる方もいらっしゃいますが、まだ少数派です。「自分はまだうつ病とまではいってないと思う。でもこのままだとうつ病になるかもしれないので、とにかくまず不眠から治したい。」と話す、実はすでにうつ領域の方は少なくありません。

ある種の不眠症がうつ病につながる可能性も言われています。毎晩4~6時間の睡眠時間が続くとほとんどの人の昼間の集中力が低下していったという研究結果や、ぐっすり眠れない人の方がぐっすり眠れる人よりもうつ病になりやすいという研究結果が出されたこともあります。しかし、現在のところ不眠症そのものがうつ病の原因になるのかどうかの結論はまだ出ていません。誰でも不安なことや大きな悲しみ、苦しみを経験すると眠れなくなることを経験しますが、つまりは辛い状態にさらされているというのが先で、そのために不眠が現れるという順番が最も多いパターンではないかと想像できます。

「自分はまだうつ病ではない」と断言する患者さんは、責任感が強くてまじめで、十分がんばっているのに自分自身はまだまだがんばりが足りないと思っているタイプが多いようです。不眠を治したいというのも、元々睡眠に充てられるたった4時間をとにかくしっかり眠りたいという意味であり、帰宅時間を早くしてもっと睡眠にかけられる時間を増やしたいなんてことではないようです。とりあえず初回は御本人の気持ちに沿う形で睡眠薬を処方し様子を見るのですが、軽めの処方ではまったく眠れないケース、不眠が改善しても気持ちのおっくうさが変わらないケースなどで、自分はただの不眠症ではないと気づいていきます。

睡眠薬処方の時点でも大きな山があることがあります。わざわざ心療内科を受診するくらい悩んでいる不眠なのに、いざ睡眠薬を飲むということには大きな抵抗感を示す人が多いことです。睡眠薬を飲んだ方がいいのかなと思うけれどそんなものを飲むのは怖い、でも医者に飲んだ方がいいと言われたら飲んでもいいと、服用したい気持ちを後押ししてくれる期待を患者さんから感じます。また、せっかく処方を受けても、なるべく飲まないようにがんばってしまう人も多いです。

睡眠薬に頼るなんて自分が情けないと思ってしまう患者さんの気持ちの問題も大きいですが、根源には睡眠薬に対する世間の大きな誤解も影響していそうです。たしかに40年くらい前までよく使われていたバルビツール酸系睡眠薬は依存性や安全性に実際問題があり、自殺に使われるなどして悪名高きものでした。それに比べて、現在主流であるベンゾジアゼピン系睡眠薬は大変安全性が高くなっており、安心して使える薬になっています。しかし、「危険な薬」「一度飲んだらやめられない」「どんどん薬が増えてしまうかもしれない」「薬で頭がボケてしまう」などと、今でも皆に強く誤解されているのが、睡眠薬を処方する側にとってちょっと辛いところです。




*編集部より
昨年11月よりシンガポール日本人会クリニック心療内科担当の日暮真由美先生に隔月で「海外メンタルヘルスの現場からⅡ」を連載頂くことになりました。今回で既に3回目となりました。シンガポール日本人会の会報「南十字星」にはこれまで何度も寄稿されてますので既にご存じという方もいらっしゃると思います。これからもどうぞお楽しみに。

バックナンバーは下記の通りです。
(1)海外医療情報交換会に初めて参加して No.214 (2011.11)
(2)シンガポールの現地精神科医師 No.216 (2012.01)
(3)突然の辞令No.218 (2012.03)