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ニュースレター(機関紙)

海外メンタルヘルスの現場からⅡ (3)突然の辞令
NL12030102
メンタルヘルス、海外赴任、ストレス / / / / / / / / / / /



海外メンタルヘルスの現場からⅡ
(3)突然の辞令


シンガポール日本人会クリニック
日暮真由美

3月、4月は日系企業の人事異動の季節です。
通院している患者さんから、「今日で先生に会うのも最後になりました。」と突然告げられることが先月から激増しています。辞令が出てから1カ月後、なかには2週間後に日本へ帰国、あるいは他国へ移動というケースもあり、それは何とも落ち着かないことだろうとお察ししております。

特に今年は、かなり長い年数を当院とおつきあいしてくださった患者さんたちの本帰国が多い傾向を感じています。前医の小川原先生の方が私よりもずっと長い年月診てこられた患者さんたちで、日本への紹介状を作成するために分厚くなったカルテをじっくり読み返す日々が続いています。カルテからは、患者さんの人生の辛酸と、小川原先生の熱い思いと格闘ぶりが伝わってきて、なんとも感慨深いものがあります。

ほとんどの方が現在もまだ最高の体調とは言えないのですが、初診のころのとても悪かった時代と比べればそれでもずいぶん元気になっているんだなあと感じられます。薬の量や種類も試行錯誤の変遷を経て、現在はいずれもずいぶん減っているケースが多いです。なにより、本人が病気を受け入れている、病気と付き合う気持ちになれているのが大きな違いのように思われます。初診の頃の大きなこだわり、自分自身を苦しくていた何らかのこだわりが今は影を薄くしている印象です。

一方、ようやく受け入れられるようになったシンガポール生活のあれこれだったのに、突然の転勤辞令で、自分の人生が再び根本からひっくり返されたように感じて、心の不調をぶり返す人もいます。

Aさんは30代後半で初の海外赴任で来星されましたが、まもなく職場のローカルスタッフをマネジメントする困難さから不安や抑うつ状態に陥り、適応障害と診断されました。しかし、その後徐々に回復を見せ、数年たった現在は、時折顔を出す軽い不安に対して少量の薬で対応しているくらいの状態でした。来星当初はとにかく早く日本へ帰りたい気持ちでいっぱいだったようですが、現在はローカルスタッフともそこそこうまく付き合えるようになり、仕事にやりがいも感じてシンガポールでまだまだやっていきたいと考えていました。

ところが、半年くらい前に内辞が出るのが普通な会社なのに、Aさんには突然1カ月後の日本帰国の辞令が出ました。帰国後のポジションは明らかに今のポジションからの昇進を意味しているのに、Aさんには何の喜びも感じられません。これまで携わってきたプロジェクトの責任、ずっと温めてきている構想、築き上げてきた職場やプライベートの人間関係など、大事なものを突然すべて奪われてしまうという喪失感にただもう打ちのめされてしまったのです。

会社には会社の事情があるとは思いますが、せめてもう少し前もって辞令が出ていてくれればなあと、第三者の私としてはやっぱり思ってしまいました。Aさんは辞令が出てから帰国準備のあまりの忙しさのために、出国3日前に私の外来に現れたのが精いっぱいだったのです。「突然ですが、今日で先生に会うのも最後になりました。この1カ月間、毎晩全然眠れなくなって本当に辛いんです。」と告げたAさん。初診の頃に出ていたのと同じ睡眠薬を処方し、日本への紹介状をあわてて書いてお渡ししましたが、いったい効き目はどれくらいあったのでしょうか・・・・。




*編集部より
昨年11月よりシンガポール日本人会クリニック心療内科担当の日暮真由美先生に隔月で「海外メンタルヘルスの現場からⅡ」を連載頂くことになりました。今回で既に3回目となりました。シンガポール日本人会の会報「南十字星」にはこれまで何度も寄稿されてますので既にご存じという方もいらっしゃると思います。これからもどうぞお楽しみに。

バックナンバーは下記の通りです。
(1)海外医療情報交換会に初めて参加して No.214 (2011.11)
(2)シンガポールの現地精神科医師 No.216 (2012.01)