• ホーム
  • 基金について
  • 海外医療情報
  • お勧めリンク集
  • よくある質問

ホーム > 海外医療情報 > ニュースレター(機関紙)

ニュースレター(機関紙)

<新シリーズ>悩める海外歯科事情(1)  ―さあ海外へお引越し!でも子供の矯正はどうする?―
NL11120106
海外赴任者、歯科 / / / / / / / / / / /



<新シリーズ>悩める海外歯科事情(1)
 ―さあ海外へお引越し!でも子供の矯正はどうする?―

                      

東京大学医学部国際地域保健学教室
三上ゆう子

海外への転居に際して、子供の健康・医療というのは親にとって最も悩ましい問題かもしれません。ご両親様の関心の高さを示すように、ニュースレターでも子供の医療問題はたびたび記事になっています。

今回は、海外への転居や海外からの帰国と子供の歯科矯正治療(歯ならびの治療)について取り上げてみました。多くの子供が関わる歯科治療といえば、むし歯と歯科矯正治療です。歯科関連の調査や報告によると、昭和50年代にピークだった日本の子供のむし歯は、その後かなり減少しました。一方、矯正治療を受ける子供たちがなんと多くなったことかと思います。小学生の1クラスを見渡すだけで、何人もの子供が矯正治療を受けています。私が小学生だった頃はせいぜいクラスに一人いるかいないかでした。矯正用の装置をつけ始めたクラスメートなんかいると、みんなで囲んで「それ何?」「給食は食べられるの?」と質問攻めでした。日本人に矯正治療が浸透してきたことを考えると、現在海外でお暮らしのご両親様も、これから海外赴任予定という方も、今までにご自分のお子さんの矯正治療を考えたり歯科医院で相談されたりの経験がおありかもしれません。

海外など大きな転居を想定した場合、矯正はとにかく治療期間が長くかかるのが問題になります。治療終了までには年単位の計画を立てなくてはまりません。そこで持ち上がるのが、日本に住んでいた時に矯正治療を始めたら、海外への転居が決まってしまってどうしよう!とか、海外で矯正治療を勧められたがいつ帰国したり他の国へ行ったりするか分からない!といったご相談です。実はほかの歯科治療に関する相談と違って、矯正に関しては患者さんも困るけど現場の歯科医師はもっと困るという大変悩ましい実例がたくさんあるのです。東京都内の歯科医院で、今までに実際にあったケースをいくつかご紹介しましょう。

歯科医師の「困った」その1「ブラケットに合う針金がない!」
ブラケットというのは歯を動かすために、歯の表面に貼り付けるごく小さな部品です。金属やプラスチックでできていて、針金やゴムの力が加わってもはがれないように強力な接着剤で歯に固定します(写真1)。
 
真ん中

写真1:ブラケット
真ん中

矯正の治療を海外で始めてブラケットを装着したまま帰国されたお子さんが受診しました。担当医は矯正治療を続けるためにそのブラケットに合う針金を探しましたが、どの歯科材料専門店に聞いても「そんな規格の針金はありません」と言われてしまいました。東京には数多くの材料専門店があるのですが、結局似たような製品ばかり取り扱っているのかもしれません。仕方がないので、泣く泣くブラケットを全部外して、日本規格(?)につけかえるしかありませんでした。

歯科医師の「困った」その2「見たことのない装置がついている!」
矯正には顎外固定装置、という顔の外側につける器具があります。(写真2)

写真2:顎外固定装置(フェイシャルマスク)

ブラケットとは違い、患者さんは自分で装着したり外したりできます。下の顎や上の顎の成長を促すものもあれば、反対に成長をおさえる装置もあります。治療したい内容でいろいろと使い分けるのです。欧州から帰国したお子さんが顎外固定装置を持って受診しました。ところが、日本国内では使用されていない装置らしく、担当医は見たこともありません。「この装置の目的は、はたして何?」「向こうの歯科医はどういった治療がしたかったんだろう?」とまるでクイズの様な診療となりました。

歯科医師の「困った」その3「紹介状がドイツ語!」
ドイツから帰国されたお子様は矯正の治療が終了していないとのことで受診されました。ドイツでの担当医から今までの経過などを紹介状で書いてもらってある、というので見せてもらったらなんとドイツ語の手紙!今どきの歯医者ですから英文には慣れていますが、さすがにドイツ語は難しい。ドイツ語に詳しい知人の助けを借りて、辞書を引き引き日本語訳してみましたが結局「よろしくお願いします」程度の内容でした。労多くして功少なしとは正にこのこと!

歯科医師の「困った」その4「治療のゴールが違う!」
日本で矯正治療を始めたお子様が海外転居となり、止むを得ず治療の経過など書いた紹介状を持たせて送り出しました。その患者さんが一時帰国で受診された時に、担当医は歯ならびを見て驚きました。明らかに自分が計画していた歯ならびとは違う方向だったのです。「できれば自分が最後まで治療したかった。まさか、自分と海外の医師でこんなに治療のゴールが違うとは思わなかった」。

日本の矯正はセレブ志向?
歯科では、むし歯1本であっても歯科医によって治療のやり方が違うことがあります。矯正という、より大がかりで治療期間の長い歯科治療であればなおさら治療の方針が変わることもあるでしょう。日本では、歯科矯正は全額自費です。数十万円から100万円を超えることもしばしばありますので、患者様の期待はものすごく大きくなってあたり前です。その患者様の期待に応えるために、歯科医は、治療には繊細さを極限まで追求します。より完璧な治療結果を出そうとします。一方、欧州の例を挙げるとイギリスはNHS(National Health Services)という国民保険制度があり、子供の歯科治療は無料です。矯正治療であっても例外ではなく、子供の場合はやはり無料です。日本人歯科医師の感覚からすると矯正が無料とは衝撃的なシステムですが、英国人歯科医師には「日本ではむし歯だったら保険診療するわけでしょう?歯ならびが悪いのもれっきとした病気なんだから、子供なら無料で当然」とあっさり返されました。イギリスの親にしてみれば「無料で受けられる治療だから、治療結果もまあこんなものでしょう?」という感情があるのかもしれません。つまり日本のご両親様とは期待が別のところにあるのではないかと思うのです。

日本の歯科医師からのアドバイス
今後、海外転居などある場合にはどのようにしたらいいか?との質問に二子玉川小児歯科院長、松永幸祐氏はこう答えます。「自分が始めた矯正は、患者様がどこへ転居しようと自分が最後まで責任を持ちたいですね」。つまりこのような治療の流れです。日本で矯正治療を始める→万が一転居することになる→今装着している装置を外し、リテーナー(写真3)を使ってもらう→帰国したらまた治療の続きを行う、です。ちなみにリテーナーとは「保つ、とどめる」という意味で、歯が動いたりしないようにする比較的簡単な装置のことを指します。

写真3:リテーナー

また、海外で始めた矯正治療を日本で続けるには?との質問に中島矯正歯科クリニック院長、中島榮一郎氏は「帰国が決まったら、できるだけ早く日本で治療を続けられる医院を探しましょう。まずは知人などの口コミです。それがなければインターネットを活用して下さい。また、現地の先生には詳しい治療内容など書いてもらって下さい」と情報収集を強調しています。


(掲載の写真は中島榮一郎氏にご提供頂きました。)




=執筆者略歴=
三上ゆう子  
歯科医師。東京大学医学部国際地域保健学教室所属。
英国留学(エジンバラ大学)および赴任の経験有、現在はJOMF会員用掲示板相談の歯科を担当中。


=編集部より=
三上先生はJOMF会員用歯科掲示板相談の担当医で、相談の中でも矯正についてのお悩みが多いことから今回ご寄稿をいただきました。過去にもニュースレターに、2003年にロンドンで行った在住邦人の小児対象の歯科相談についての報告を頂いております。下記からリンクしています。
英国ロンドンで実施した歯科医療相談会について(1)
英国ロンドンで実施した歯科医療相談会について(2)
英国ロンドンで実施した歯科医療相談会について(3)
今後は、思春期、妊娠中、中高年などライフステージごとの注意事項などの話題を季節ごとに提供して頂きますのでお楽しみに。また、ご質問やご要望、ご感想はニュースレター連絡コーナーhttp://www.jomf.or.jp/ninq/index.html
からどうぞ。