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ニュースレター(機関紙)

<新連載>駐在員のメンタルヘルス不調は経営リスク (1)海外メンタルヘルスの現状を知る
NL11040107
海外派遣、メンタルヘルス /6 /7 /8 /9 /10 /11 /12 /13 /14 /15 /16

<新連載> 駐在員のメンタルヘルス不調は経営リスク
(1)海外メンタルヘルスの現状を知る



株式会社MD.ネット代表取締役社長
医学博士 精神保健指定医 精神科専門医 
佐野秀典  

私達MD.ネットは2005年から、海外の日本人のためのメンタルヘルスケア事業を開始し、ちょうど5年が経過したところです。いまでは、世界中で数多くの海外駐在員、留学生、ご家族のメンタルヘルスをサポートさせていただいており、医師が訪問した国はすでに20カ国以上に及びます。

この5年、日に日に強く感じることは、海外事業において、駐在員の精神面の不調はまさに「経営リスク」だということ。
日本企業は、円高や新興国の経済成長を背景として積極的な海外展開にハンドルを完全に切った感があります。それだけに、本社、ならびに経営者の方々には、海外事業を成功させる原点は「駐在員の精神面の健康」であるという認識を改めて強くしていただきたいということです。

●メンタル不調のピークは2度
年間を通じて様々な御相談、また、問題が発生します。ただ、経過をふりかえると、季節により偏りがあることに気付きました。
多いのは、春と秋です。意外かもしれません。次に多いのが冬。
季節で最も少ないのは夏です。 不思議なことに、たとえ地球の反対側の国にいらしても、日本人の方々からの相談件数のピークは日本のこの季節に集中しています。
さらに、これはあくまでも私達の感覚でしかないのですが、各地域の新月、満月にあたる前後に不調者が多いという傾向も見受けられます。
精神状態は自然と密接な関係にあるのでは、と考えさせられることがしばしば起こります。

●駐在員の不調サインは「落ち込み」よりも「痛み」と「不眠」が多い
我々のドクターとスタッフは、海外のお客様と、日頃からできるだけ様々な話題でコンタクトをしております。それでも、調子が悪くなることは、やはりございます。ただ、「おかしいな」のサインを早く察知してくださり、連絡をいただける連携がとれています。また、日頃のコンタクトの中で、私達が、直感でピンとくるサインもあります。
サインというと、みなさん、大抵、「元気のなさ」だと思っておられるかもしれません。しかし、駐在員はタフですので、むしろそのような訴えはほとんどありません。

体の痛み …  胃、頭、肩、腰など
不眠 …  なかなか寝付けない、 熟眠感がない
こうした訴えが初期に多く、国内の社員の方々とは違う海外特有な訴えだと実感しています。


●ケースバイケースの駐在員ストレス
当初は、国、企業規模、業種によってある一定の不調の傾向がありました。

たとえば、

*中国ではこういう問題がストレスになりやすい。
*赴任後1年くらいはストレスを抱えやすい
*中小企業の一人駐在員は不調になりやすい

などといった具合に、大きな括りの傾向はあったのですが、ここ1年、一般化することが難しくなっています。

海外進出企業、事業所数自体は増えていますが、いわゆる
駐在員自体が入れ替えとなって、

これまでの「駐在員タイプ」が変容している、

そんな印象を強くしております。


●外見だけではわからない海外事業への適応性とメンタルリスク
ケア開始当初の事例ですが、

赴任前に自ら現地を何度も視察するほど、海外駐在に意欲的だった方が、1カ月も経たないうちに「帰国したい」と頻繁に私達に電話をかけてきて、ついには帰国に至ったことがありました。

また、「行きたくない」
と言って、空港からも我々に何度も「行ってきますメール」を送っていた方が、着いたとたんに不安が消え、それから半年後、なんと現地の女性とスピード結婚し、現地採用に切り替わったというエピソードも。

一例ではありますが、こうした様々な経験を重ねながら、

『「見かけだけではわからない。海外に行って、実際に仕事をしてみなければわからない」ではあるが、それではあまりに企業にとってリスクが高すぎる。また、我々ケアをさせていただく側としても、可能な限り、事前に、お一人お一人の、メンタル不調の発症や、ストレスからの回復力(レジリアンス)、適応力などを把握すべきで、そうでなければ真のケアができない。』

そうした実感を強く持ちました。

これにより渡航前の海外適応力診断テストを開発。
以降、一貫して、渡航前のアセスメントの必要性を訴えております。

図1


上の図に示しましたように、およそ4人に1人の方が、海外で精神的に不安定になりやすい、あるいは精神的な疾患を発症するリスクを持っていることがわかってきました。

ただし、脆弱性が高いと判定された方であっても、個別フォローにより、悪化したりすることなく、健康に、むしろ、期待した以上に活躍をする方も多いのです。

いまでは、駐在を予定されている数多くの方々のデータを日々拝見するだけで、その方のお姿が見えるようにもなりました。

また、その方が、海外で健康で充実した生活を送っていただくために、何をすべきで、何を注意していただきたいかも見えてくるようになりました。

●メンタル不調や発症の裏にある要因
図2

(出典 外務省)

上グラフは外務省の調査による、精神障害のために援護を受けた日本人数の推移です。
「擁護」という重篤なケースに至らないまでも、現地の病院、我々のようなサポート企業、現地のカウンセリングなどを加えると、さらにこの数は何倍にも増えます。

下の表は、我々会員企業の駐在員の方々のメンタルコンディションを5つのステージに分けて定期的にアセスメントしているものですが、医療的な対応か帰国が早期に必要な方は、お付き合いをさせていただく段階ですでに3%はおられます。



また、体調不良で休養など何かしらの配慮が必要な方が10%。あくまでも推計ですが、13%の駐在員の方が海外生活の中でメンタル不調を抱えているということになります。
実際、ある国の事業所を尋ねると、10事業所中、1事業所にメンタルの大きな問題があり、また、その地域で面談した、約200名の駐在員の方の10名には薬の処方が必要ということもありました。

図3 海外における日本人自殺者数推移

(出典 外務省)

図3のとおり、外務省が把握している数字だけでも50人前後の方が毎年自ら命を絶っています。そして、その方々の背景には、仕事や人間関係など、深い葛藤と悩みの訴えがあります。しかし、悩みがどんなに深いからといって、自殺に至るというのは相当なことです。死にたいほど辛いことは、人生にたくさんおこりますが、それと「死ぬ」ということは、全く質が違い、しかも、そこには大きな隔たりがあります。「死」を自ら選ぶには何かしらの病理性があると思わざるをえません。

体の病気と同じように、どんなに予防をしても発症リスクは厳然として存在します。
だからこそ、海外事業において、国内以上に、メンタルヘルス不調を「経営リスク」と捉える意識、そして万全の体制構築が必要不可欠です。
心のコンディションを健康に維持するための取り組みは、現地スタッフ、日本のスタッフ、経営者との絆も深めます。つまりそれは、事業成功の大きな力となることにほかなりません。 これまでの歩みから我々はそれを確信しています。



覚えておきたい海外駐在員の不調サイン

 1 返事が遅い/言葉が詰まる
  一緒に仕事をしているからこそ築く、「間」。問いかけへの反応。答え方のときに、「え〜」「あ〜」「なんでしたっけ」「しばしの沈黙」など、返答と回答が流ちょうでなくなる=思考抑制のサインでかなり症状が悪化した頃に見られます。


 2 ミスが目立つ
  誤字が多い、言い間違い、会話中に「あれ、あれですよ、何でしたか・・・」とど忘れ、ケアレスミス・・・。ミスが増えてくるということはかなり症状が進んでいるケースが海外駐在員は多いです。


 3 お酒の量と酔い方
  「お酒」は精神的なストレスと実に密接な関係があります。「酔い」で疲れ、思考の混乱、心の不安を紛らわせようとして、酒量は増えます。また、酔い方も以前とは違った酔い方になります。量と酔い方はメンタル不調のサインとして海外では有効です。


(つづく)





◇編集部より◇
今月よりMD.ネット株式会社様のご協力によりメンタルヘルスについての連載を開始します。 同社ではメンタルヘルスケアにとどまらない活動も行っており、先日は原発事故で関心の高まっている「放射線と健康被害」の勉強会を開催、当編集部からも参加しました。今後はシリーズ「駐在員のメンタルヘルス不調は経営リスク」の中で様々な話題をご提供頂く予定です。