• ホーム
  • 基金について
  • 海外医療情報
  • お勧めリンク集
  • よくある質問

ホーム > 海外医療情報 > ニュースレター(機関紙)

ニュースレター(機関紙)

海外メンタルヘルスの現場から(90)海外赴任者のストレス~お母さんの気持ち:海外子育て奮闘(1)
NL10120102
メンタルヘルス、海外赴任、ストレス

海外赴任者のストレス~お母さんの気持ち:海外子育て奮闘(1)

シンガポール日本人会クリニック
小川原 純子

このコラムは、お父さんや日本に居る親御さんに、是非読んでいただきたいものです。「子育て中のお母さんの気持ち」は、意外と複雑。子育て中のお母さんの気持ちが分かると、夫婦のコミュニケーションが、断然良好になるかも。家庭に笑顔が増えることが、子供の安定した心の発達につながります。

1:出産直前:充実感・目的を持った緊張期

10カ月間の妊娠期間を終えて、いよいよ出産の時を迎える妊婦さんは、身体的に難渋します。体が重くて、腰が痛くて、床に落ちたものを拾うのもたいへんです。一方、精神的には、次に迎える出産に、不安はありますが、目的意識を持った緊張から、何か覚悟の決まった安定感を見せるようになります。この時期に、大きな精神的問題で、心療内科に相談に来られた患者さんは、当クリニックでは、今までに経験がありません。
ご主人は皿洗いや長時間の家事を率先して行い、奥さんの体を労わる事が肝要です。

2:出産~3週間:高揚期・感謝(感情回帰)の時期

赤ちゃんに会えたことに大きな感謝が生まれます。達成感と安堵感、そして、周囲の祝福。とても幸せな時期です。これで、母乳が出て、赤ちゃんが上手に吸ってくれれば、お母さんとしての精神的満足感は更に上昇します。お父さんは、積極的に、オムツを替えたり、抱っこをしたり、とにかく、「赤ちゃんに関わる努力」をしましょう。おじいちゃん・おばあちゃんは、手や口を出し過ぎて、新米お父さんやお母さんから、赤ちゃんを取り上げないように。適度な距離を保ち、新しい若い家族が、十分な幸福感に浸れるように、サポートに徹することが大切です。

新しい生命を産み落としたことで、お母さんは、「自分を産んでくれた我が親」に感謝の念を強く感じるようになります。奥さんのお母さんもまた、「自分がこの娘を産んだ時の事」を、記憶の深いところから思い出し、感慨に浸ります。世代を超えて、共通体験をすることにより、一時的に親子の一体感が高まる時期です。この時、新米お母さんが自分の両親に抱く感謝や愛情を尊重することが大切です。
例えば、ご主人から奥さん(例:裕子さん)のお母さんに「裕子が無事出産したことに感謝しています。お母さんが、裕子を産んでくれたことにも、本当に感謝しています。」こんなことを伝えたら、その後の、夫婦関係も親子関係もぐっとスムーズになるものです。

ところが、奥さんが、自分を育てた両親に強く感情回帰することに、ご主人やご主人の両親が、不快感を抱いたり、やきもちを焼いたり、危機感を抱いたりしてしまうこともあります。「あんまり、向こうのお母さんを頼るな」「うちの孫だから・・・」等と発言することで、無意識的に奥さんが実家に接近しないように釘を刺してしまいたくなるのです。
この奥さんの実家への急接近を、否定したり、怒りの対象にしてはいけません。これは、一時的なものですし、時間差はありますが、この感情は、「ご主人を産んでくれた義理の両親への感謝」にもゆっくりと繋がってゆくものだからです。
奥さんが、自分の親に感謝する感情を阻害・阻止しようとすると、次の時期に、家族間に、大きな心の溝を生み出すことになります。
奥さんのご両親には、冷静な援助をお願いしたいものです。この時生じる、母子一体感を利用して、娘を実家に引き戻そうとすれば、若い家族がバラバラになってしまうからです。新しい家族の誕生を通して、みんなに感謝できる視点に、新米お母さんを立ち戻すことが、奥さんの親御さんに役割でもあります。

3:産後3週間~3カ月:落とし穴期:孤独・感情の交錯
赤ちゃん誕生の高揚感が、一段落し、周囲の興奮が落ち着いてきます。ご主人も、溜まった仕事に追われだし、日本からお手伝いに来ていたおばあちゃんや雇っていた産褥ベビーシッターさんもそろそろさよなら。いよいよ、お母さんと赤ちゃんの二人きりの実生活が始まります。
ところが、この時期、赤ちゃんは、お母さんとコミュニケーションが未だ出来ません。空腹・排尿・睡眠といった生理的欲求に対して、泣いて訴えるのみです。呼び声に反応したり、視線を合わせて交流したりすることは出来ませんから、「二人きり生活」といっても、実質、お母さん「一人」と同じかもしれませんね。
赤ちゃんに風邪をひかせないように、お母さんの行動範囲は、著しく狭小化します。外出は、小児科受診と近所の買い物と毎日の決まったお散歩程度でしょうか。お母さんの会話の相手も、大幅に縮小され、息が詰まりそうです。お父さんだって、1カ月もこんな生活をしたら、どんなに息苦しくなるか、想像できますよね。

特に、第1子誕生のこの時期は要注意。初めての子育てでは、「こんな生活が、あとどの位続くのか・・・」想像もつきません。だから、ものすごく生活の自由を奪われ、自分の人生を拘束された感覚がするようです。海外赴任直後で、十分なお友達が居ないまま、この時期を迎えたお母さんは、極端に孤独になりがちなので注意しましょう。
日本からお手伝いに来てくださる親類には、この時期に来星いただくのも方法の一つですね。

既に,他のお子さんが居る場合には、この子を通して作り上げたお母さん仲間が、大きな心の支えになります。この子達が、持ち込んでくる小学校や幼稚園の出来事やお母さん同士の繋がりが、社会とのつながりを保たせてくれるからです。

時には、お父さんが気を利かせて「俺が面倒みておくから、少し気晴らしでもしてくれば・・・」と、赤ちゃんから離れる機会を作ってくれることもあります。なかなか素晴らしい配慮です。ところが、体が離れても、本能が離れないというのでしょうか。折角、外出させてもらっても、「赤ちゃんが、今どうしているのか。」気になって仕方がないのです。
ご主人に「3時間いいよ。」といわれても、予定時間前に帰りたくなってしまうのです。
これは、お父さんとお母さんの大きな差です。お母さんは、「スパッと」切り替われないのですから・・・。『本能』と書きましたが、子供が十分に大きくなって、安全に過ごせる環境が整うまで、お母さんの心から「子供への心配」は消えないようになっています。

赤ちゃんが泣いても、お父さんは意外と自分の区切りのよいところまで、パソコンに集中できたり、熟睡を続けることが出来ますが、お母さんは、全てを放り出して飛んでいってしまうのです。「本能的に動いてしまう自分」にお母さん自身はイライラすることもあります。ご主人に、「いいじゃない、しばらく泣かせておいても・・・」と言われれば、本当にその通りなのですが、体と気持ちが勝手に動いてしまい、そして、自分だけがヘトヘトになっているのですから、困ったものです。
こんな時、「本能で動くな。もっと、手を抜けばいいじゃない。」といわれると、奥さんのイライラが増悪し「あなたがやってくれないからでしょ!」と衝突を生み出しかねません。「子供がこんなに順調に育っているのは、君のお陰だね。」これが、一番のねぎらいの言葉です。

家族親戚全体の高揚感が落ち着くと、今度は「可愛い孫の取り合い」になることがあります。で書いた感情の交錯が解消せず、実家とのトラブルや嫁姑関係の悪化に発展するのもこの時期です。そして、この感情の混乱は比較的長く遺恨として引きずることもあります。これが、実に厄介です。『写真をどちらに送った、送らない。』『電話を掛けた、掛けない。』『一時帰国は、どちらの実家にどれ位滞在するのか。』等など。夫婦二人だけであった時は、適度に保たれていた両実家との距離が、急速に接近し、若夫婦に大きな心労を与えます。奥さんもご主人も、自分の実家の代表として、意見を戦わせないこと。子供が安心して過ごせるためには、父母がもめないことが、一番です。実家は色々口出しをしたがりますが、上手に聞き流しましょう。親が満足することより、夫婦が円満であることが優先なのです。大事なパートナーともめると、奥さんの孤独感が増しやすく、精神的に不安定になるので、喧嘩は引きずらず、素早く解決することも大切です。
おじいちゃん・おばあちゃんも、やってあげたいこと・赤ちゃんと関わりたいこと・アドバイスしたいことが、沢山あるでしょうが、若い夫婦の要請が出てから、動き出すくらいで丁度いいのです。適度な距離を忘れずに。