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ニュースレター(機関紙)

北京の街角から~中国医療現場からの報告~第28章「薬物の再利用」
NL10110104
医療情報、中国


北京の街角から~中国医療現場からの報告~
第28章 薬物の再利用


北京天衛診所顧問歯科医
中華人民共和国 歯科認定医
田中健一

病院を受診し処方された薬により症状が改善したり、飲み忘れたりして、もらった薬の一部が余ったとしましょう。私達がとる行動は、その薬を捨ててしまうか、タンスの中に眠らせるか、はたまた(例外的ですが)家族内で再利用するか(高校時代の同級生であるM君の家庭では子供に出された風邪薬を残しておいて、両親が使っていると私に話してくれた)、どれかでしょう。
そう、M君の例を拡大解釈すると、余った薬を社会で再利用しよう、ということになります。今回は家庭内で余った薬にまつわるお話です。



私は北京市内でたまたま「収薬」と書かれた小さな看板を見つけました。その看板には西薬、冬虫夏草(漢方薬、チベットでとれる)とも書いてあります。これは何を意味するのだろうと訝しく思って、その看板のそばでゲームをしている人に聞くと、「いらない薬があれば買うよ、必要な薬があれば売るよ」と言います。どんな薬でも売ってくれるの?と私が聞くと、そうだと言い、実際にかばんの中から実際の薬を見せてくれました。封が切られていない薬がぞろぞろ。私が「いくら?」と聞くと「**元」と言います(のちに病院にかえって同じ薬の価格を比較すると、その価格は格段に安いことがわかった)。さらに、私が「どんな薬でも買ってくれるの?」と聞くと、「薬の封を切っていなければ買う、箱をあけていなければさらに高く買うよ」と言うのです。これを無資格の簡易薬局とみるか、薬の廃品回収?とみるか、これはどうみても怪しいと私は思ったのです。そんな目でこの「収薬のボード」を探してみると、市内の少なくないところで見かけます、それも注視してみると例外なく病院のそばにあるのです。

近所には病院がある

「頭いい!」が真っ先に思い浮かんだ私の考えです。それに続いて、これって処方せんもないのに薬をわたす、資格もないのに薬を回収する(正確には薬の回収には資格は不要)、完全な違反行為じゃないか、それが夜ならまだしも(正確には夜でもいけないのですが・・・)白昼、それも朝一番でおおっぴらに業を行なう、どう解釈すればよいのだろう?、この国では合法として認められているのだろうか、と疑問に思い、診療所の王看護師(正義感が診療所で一番高い)にこの写真を見せながら「どう思う」と聞いたのです。王看護師はこれをみるなり「非合法だ、田中先生、こんな薬を買っちゃいけない」と言ったのです。そして、この行為は医療法違反、医師法違反、薬事法違反にあたると顔を真っ赤にして言うのです。こう言われてしまうと王看護師がいうのが正論ですから、私はぐーの音もでなかったのですが、でも待てよ、と思いました。欲しい薬がわかっているならそれを買えばいいじゃない、家庭内で使い回している輩は日本にもいるわけだから、それを社会で使い回すのも規模が拡大されただけじゃないのか?法律をこえ、自己責任の範疇だと切り返されたら、どう返答するのだろう?

日本は規制でがんじがらめの国で、競争を阻害しているから規制緩和せよ、と唱える規制緩和論者であっても、さすがに薬の回収・販売まで資格のない人間に自由にせよ、とは言いません。日本の医療法 (第22条)では処方せんの交付義務(医師が薬剤の処方せんを渡す→薬局で処方せんの薬を買う)を規定していますが、なぜそれが医師だけでなければいけないのか?という根拠に対する記載はありません。

私は日本の内科医にこの問題についてどう思うか聞いてみました。答えは「仮にこの薬を服用して調子がおかしくなったら、医師のところに来るじゃないか、なぜそんな人間にまで責任をとらないといけないんだ!」と予想通りの答え。それに対して私は「医師法において応召の義務(診察に来た患者を拒否できないこと)がある」からそれに拘束されるわけだから、この応召の義務を外せば問題は解決できるのでは?と投げ返したのです。すると、「わたしたちに余計な業務が増えるじゃないか、なぜ無資格で買った後始末までしないといけなんだ?」と内科医。「日本は固定給だからそう考えるけど、担当した患者に応じて給与を連動される仕組みにしたらこの不満も解消されるのでは?」と私。結局内科医が「・・・・・」となって話は終わったのです(そんな議論は医師とではなく法学部を出た法律家とやってくれ!と言われてしまった)。
  
高額療養費の制度のないこの国では、高額な抗癌薬ではこういう違法業者から買ってしまう人もいるのではないか、だから当局もおおっぴらに摘発に乗り出せないのではないか、と考えてしまいます。さらに、中国では診察料が高額だから、薬だけを求めるニーズが発生してしまう事情もあります。でも今、日本の医療界として行なわなければならないのは、診断に対して費用が発生する適切な診察料の確立でないのか(明確な診察料という概念が日本の診療報酬体制の中には薄い)、こうしてみてくると、この小さなボードが日本になげかける問題は途方もなく大きいことがわかるのです。

薬を買うことは結局、自己責任ですが、自己責任は自己責任だけど自己責任すぎるよ、が私の解釈です。とはいえ、病院の外で堂々と薬の回収をする業者がいる、 「ニーズがあるところにサービスあり」といいますが、日本では全く考えられないところに商機を見つけること、私は医師法違反、医療法違反、薬事法違反を通り越してこのこの商魂にあっぱれ!と言いたくなるのです。

この小さなボードが私に与えた影響は途方もなく大きかったのですが、皆さんはどう考えますか?おそらく専門が異なれば違った見解、諸説粉々だと思います。



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