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ニュースレター(機関紙)

海外メンタルヘルスの現場から(89)海外赴任者のストレス~現地精神科医との連携:シンガポール
NL10110102
メンタルヘルス、海外赴任、ストレス

海外赴任者のストレス~現地精神科医との連携:シンガポール

シンガポール日本人会クリニック
小川原 純子

当心療内科には、幼児の発達・言語の相談から70代のうつ病や痴呆症の問題など、様々な疾患の患者さんを受け入れてきています。日本からの海外赴任者にとっては、母国語で心理・精神的問題を相談できる機関ということで、担当医師の専門分野を越えた多様な患者さんを受け入れるようになってきました。緊急入院・隔離が必要な症例や緊急の帰国が必要な症例、あるいは、明らかに担当医の専門的経験の不足で、現地の精神科医との連携を要する症例に、年に数例は遭遇します。

長く当地での治療経験を積むことで、当地の精神科医との連携も大変スムーズになってきました。一方で、当地で診療を受ける注意点も気づくようになりました。

精神疾患の緊急入院の施設としては、主に、シンガポール中心部にあるMt. Elizabeth hospital の閉鎖病棟を使用します。アクセスの良いシンガポール中心部には、複数のPrivate hospitalがありますが、閉鎖病棟を持っているのは、この病院だけです。当地Private hospitalには、多くの専門医が賃貸料を支払って、開業スペースをレンタルしています。Mt. Elizabeth hospitalには34の専門分野に分かれた開業医が入っています。精神科専門クリニックは10軒、登録されている専門医は14名です。医局制ではないので、診療方針について、複数の医師が検討しあうことは稀なようです。このため、A先生は薬物療法が得意・B先生は思春期のカウンセリングが得意・C先生は積極的に電気療法を導入している等、精神科専門医個人の技量や治療傾向が、修正されたり、標準化されたりすることは少ないように感じられます。
このため、各精神科医師の得意分野・不得意分野をこちらが情報として把握した上で、日本人患者さんを紹介しています。治療のミスマッチが生じると患者さんに治療が長期化し、患者さん・家族やその派遣元に、大きな精神的・経済的負担をかけることになるからです。

精神的混乱の多い患者で、自傷や他害の恐れがある場合には、まず、当地の精神科専門医に予約を取り、早急な外来受診を依頼します。精神科医は、担当患者の診察料そのものが収入となるため、フットワークがよく、緊急対応にも快く応じてくれます。但し、診療代金は、一定価格ではなく、医師個人が決定していいもの、すなわち「言い値」です。場合によっては、$50となったり$500となったりするわけです。

こんな例がありました。あるPrivate hospital 内に入っている、産婦人科専門医に多膿胞性卵胞で治療を受け続けていた女性が、「紹介状と採血などの検査データを下さい」と依頼したところ、「準備いたしますが、紹介状代として、$200頂きます」と言われました。当クリニックの紹介状代は、$15なので、$200とは、実に法外な値段です。
医師の力量云々よりも、このような、不誠実な対応をする医師には患者さんは紹介できません。当クリニックと長年の付き合いがあり、今後も良好な治療連携関係を結んでいきたいと願っている医師を選択することが、適切な価格での診療を保証する事にもなります。

精神的に混乱している患者と担当医師との通訳に、私が入ることも多くあります。会社の方々が、通訳をしてくださることもありますが、やはり、医学用語や精神的状態を英語で表現することには困難を感じられることも多いようです。急性せん妄・精神錯乱状態で、夜間に会社の方々の判断で、救急センターを受診し、緊急入院となった単身赴任男性の患者さんがありました。入院3日目に患者さんから「甘い薬を飲まされて、何回も採血されて・・・。なんなんですか?」と日本人会クリニックに問い合わせを受け、私が通訳として、治療に参加することになりました。担当医に聞いてみると、「持病の検査で75gOGTT(糖負荷試験)を行った。」そうです。糖尿病の既往もなく、HbA1c/空腹時血糖も正常の患者さんに、なんで??と、当方からかなり抗議をしました。この他にも、ハウスダストや食物アレルギーの検査・腹部超音波など、不必要と思われる検査も多く行われていました。日本人の海外赴任者は、企業や海外保険に守られているということは周知の事実です。このため、「念のため」と称して、過剰診療が行われている場合も少なくありません。患者さんによっては、「あの先生は詳しく検査してくれて、良い先生だ。」と感じる方もあるようです。
日本人医師として、誰かが責任を持って現地医師の入院治療に関わることで、治療のバランスを図る効果はあると思います。

閉鎖病棟の入院代は、1泊$800にもなります。看護者の対応も良好ですが、入院が長期になれば、治療費は著しく高額となります。海外赴任者の場合、「現地での治療は、最短期間で、本格的な治療には、日本で落ち着いて取り組みたい」と願っているケースがほとんどです。飛行機搭乗許可をなかなか出さない医師もいます。いたずらに長期入院を促されないようにすることも重要です。

次に処方薬について。同じお薬を処方されても、Public clinic or hospital/Private clinic or hospitalで値段が違うということも、日本と大きく異なる点です。原価が1錠¢20のお薬を、公立病院で処方されれば、¢30。1日1錠 30日分で$9です。この全く同じお薬を、私立病院に入院中に看護婦さんから渡されると、なんと1錠$4に跳ね上がります。このため、入院中には、既に処方されているお薬や持病のお薬は全て持参した方が良いわけです。
本当に良心的な医師は、「手持ちのお薬があったら、病室にもっていらっしゃい。」といいます。「御心配なく。今、内服中の持病のお薬も入院中にご用意いたしますので、何も持たないで出来てください。」と言われたら、いかにも親切なようですが、実は注意が必要なのです。

金銭的な話ばかりで申し訳ありませんが、シンガポールという海外の医療現場で、患者さんに、安全で適切な治療を受けてもらうためには、私たち日本人医師と担当する現地専門医との相互的信頼関係が基本にある治療構造を提供することが重要なようです。