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ニュースレター(機関紙)

北京の街角から~中国医療現場からの報告~第27章「薬価虚高」
NL10100104
医療情報、中国


北京の街角から~中国医療現場からの報告~
第27章 薬価虚高


北京天衛診所顧問歯科医
中華人民共和国 歯科認定医
田中健一

2009年に開始された医療改革により公的保険への加入者は12億人をこえ、大病に対しては制度が確立されつつあります。昨年、中央政府は158億元もの巨額な資金を公衆衛生の6分野に投入しています。人民日報によると、医療衛生に中央、地方政府が投入した額は3902億元で、前年比38.1%もの大きな伸びとなりました。まさに経済成長まっただ中の中国だからこそできる大盤振る舞いです。

一方、このような改革を行なっても基本的な薬物の購入価の下落率は30%程度です。私のような薬物の専門家でない人間からすると「30%も価格が下落すればお買い得で良い状態なのではないか?」と思うのですが、さらなる改革が求められているのです。今回の話題はこの薬物価格(薬価)に関する報告です。

キーワードは「暴利薬」です。先ごろ、ある癌補助治療薬がテレビ局に暴利薬として暴露されました。もともと湖南省の医薬品メーカーがこの薬を15.5元で製造し、卸しに販売しました。その卸しは30-40元の利益を乗せ別の卸しに転売、さらに、その卸しがまた利益を乗せ185元で湖南省の病院に販売したのです。病院は患者に対して納入価格に15%までの利益を乗せていますから、患者への最終価格は213元になり、利潤率は13倍にもなったのです。こういうことが明らかになってしまうと30%下落しても、まだまだ製薬企業にとって利幅は大きいのが実際です。

薬品流通における間接利益、つまり合理的な薬品価格の設定は核心問題といえるのです。では、中国にありがちな国家の強権さでこの病院への納入薬価を下げれば良いか、というと実際の事情はもっと複雑です。

この流通業には多くの人員が雇用されているので(私のいる診療所に入っている卸はたった一箱の薬でも持ってきてくれるという人海戦術をとる)、雇用に打撃を与えることが悩ましいところです。さらに、病院側(例えば北京大学第3病院)も薬品収入が収入のうちの43%を占める(医療収入は53%)ため、納入価が高いほど、15%乗せるため病院の収入になりやすい背景があります(この病院の陳 仲強院長は2008年の優秀院長に選出されているので、病院に経営が薬に傾斜しすぎているとは言えません)。
あげくの果ては医療現場で実際に薬物を使う医師も陰に日に製薬メーカーから便宜を得ているのが実際ですので、薬価を下げる誘因にはならないのです。

結局は持ちつ持たれつという関係が成り立っているのです。最終的に、わりを食うのはこの薬物を購入させられる患者、さらにはこの高い薬物が保険に適用されている場合には、保険財政にも悪影響を与えているのです。


薬品の許認可を巡る新聞記事(最近の話題から)
薬物の利益がこのように高いと、誰でもこの分野に参入したくなるのが世の常です。その際、自分の企業の薬品を市場に流通させるためには、国家食品薬品監督管理局審評部の認可を取得しなければなりません。

浙江中海医薬(浙江省)の願立君社長はある北京の医薬企業を介して審評部の主任であった陳海峰に近づきました。そして、両社で共同開発した2種類の医薬品を申請し、審評部の陳海峰主任に速やかな認可に対し便宜を量るよう依頼したのです。
審評部の陳海峰主任とこの医薬企業の社長である王芳己は密接な関係があったため、認可が通ったのです。この便宜に対し、願立君社長は謝礼として40万元を陳海峰主任の父親の口座に送りました。
しかし、この額は陳海峰主任の満足する額ではなく、さらなる積み増しを暗示したのです。これを受け、願立君社長は今後の協力も加味し40万元を手渡しました(2004年)。

この見返りとして、陳海峰主任は願立君社長に対し、別の製薬メーカーが開発した注射用ブドウ糖、注射用転化糖など3種の薬品の技術資料を渡したのです(2005年)。その資料をもとに願立君社長は架空の会社を設立し、注射用転化糖を申請したのです。この時、陳海峰主任はこの部局の責任者になっていました(2007年)。
申請は認可されたものの、架空の会社であることから足がつき、当局の知るところとなりました。結局、任意の取り調べに対し、逃げ切れないと観念した陳海峰主任は自首(2009年)、願立君社長は収賄の罪で取り調べ中、仲立ちをした王芳己は逃亡しました。

結局、賄賂総額は130万元、北京の地方裁判所は11年の実刑判決を言い渡しました。現在、中国では官僚による不正が後を絶たず、大きな社会問題となっています。倒官と呼ばれる典型的な事件でした。

この記事を巡り10/17日付けの法制晩報は陳某としていたのに対し、18日の京華時報は陳海峰と実名で報じたのです。新聞を読み比べてみると、このような違いが随所に見られて日本との相違がわかり興味深いです。

賄賂総額が130万元に対し、当局が差し押さえたのが20万元なら、その差額はどこにいってしまったのだろう?と診療所の受付をしている陳さんにこの新聞記事をみせました。すると、彼女は「あたり前じゃない、銀行口座なんかにこんなやばい金をおいておいたら、何かの時に没収されるに決まっているから、もっと別のところに隠しているんだよ」とこともなげに言ったのです。



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●「北京の街角から~中国医療現場からの報告」索引コーナーhttp://www.jomf.or.jp/jyouhou/jigyou_iryou2/jigyou_iryou2_4.html#t