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ニュースレター(機関紙)

海外メンタルヘルスの現場から(87)海外赴任者のストレス~倒れる若手エース
NL10090102
メンタルヘルス、海外赴任、ストレス

海外赴任者のストレス~倒れる若手エース

シンガポール日本人会クリニック
小川原 純子

最近、20代後半から30代後半の優秀な若い海外赴任者が疲労・心労の為に、体調を崩し、心療内科を受診するケースが多くなってきています。日本国内では、周囲からの信頼を得て、その実力が評価されて、海外赴任を任されて来る優秀な人材。実際に海外の職場では、どのような負荷がかかってきているのでしょう。

・ やり手上司との密着しすぎる関係
海外に派遣される上司は、多くの経験と苦労を積み重ねてきています。若手社員に、教えるべきことも、教えたいことも、沢山あるでしょう。「優秀な若手が着任」ときいては、上司の期待も自然と高まります。

ところが、来星してみた当人は、右も左も分かりません。「すみません。日本人会にはどう行けばいいでしょう?」「日本への送金は、どうやってしますか?」から始まって、仕事のいろはを、一から教えなくてはなりません。上司も、ちょっと気を許した折には、「君は日本で、一体、何をやってきてたんだい?」などと、悪い冗談を言いたくなるかもしれません。言われた方は、毎日、必死なのにダメだしばかりで、自信喪失。「たしかに、
自分は、本来期待されている役割の半分くらいしか出来ていないかも・・・」と、考えてしまいます。
海外の職場は、少数精鋭です。同年代の勤務者が沢山いる環境は望めません。上司の指導が、すべて自分に向けられると、本当に“Too Much"。部下としては、言い返す立場も経験もなく、感情抑圧の日々が続きます。相互的な上下関係でなく、一方的かつ抑圧的上下関係が続くと、部下がうつ的気分に陥り易くなります。

「『うつ』とは怒りである」と表現されることがあります。少数の日本人が勤務する職場で、抑うつ的勤務者が存在する場合には、その人にストレスが鬱積する力関係が、必ず存在しています。
仕事の量や言語の問題よりも、日本人同士の人間関係のほうが、大きな精神的ストレスになっていることをお互いに認識し合うことが大切です。

・実力と周囲の期待とのギャップ
「期待の若手エース」は、海外では『世界で活躍する即戦力』を求められるようです。しかし、言語や文化の壁もあって、赴任当初から、業務を完璧に遂行する困難。日本国内では、周囲の期待以上の仕事の成果を残してきた優秀な人材だからこそ、60%の出来ばえの仕事に満足できません。上司もしかり。「折角だから、若手をきちんと育てよう」と、細部に亘って、確認や指導を繰り返します。そうこうしている内に、仕事が停滞。深夜まで職場に残ったり、休日に出勤したりするようになり、倒れてしまうのです。
新しい海外赴任者の仕事が、明らかに停滞している場合には、指導や指示を増すのではなく、周囲の人の介入と援助が、何よりの勤務者のうつ病予防になります。
若手赴任者自身の問題として、100%のクオリティーを初めから自分に課す人や、自分ひとりの力で問題解決しようとする人が多く、他人の援助を得るということが不得意な人もいます。「海外赴任最初の1年は、『ギブアップは、早めに』」と、心掛けてください。

・ 職場での役割の変化
海外の勤務地では、仕事の守備範囲が、日本国内と大きく異なる場合もあります。日本では、一担当者として、全力を尽くしてきたけれど、こちらでは、数人の外国人部下を持ち、指示・指導していかなくてはなりません。発言への責任や部下の意欲を引き出す力なども求められるわけです。自分自身が、業務のすべてを把握し切れていないのに、指示を出すというのは、かなり負担なものです。指示を出した時に、部下に嫌な顔でもされると、それを押し切ることが、とても難しく感じられます。「それだったら、部下に頼まずに、自分でやってしまえ」と思うことも、最初は少なくないそうです。そして、いつの間にか、山のような仕事量を背負い込んでいる人も居ます。現地の仕事・日本からの依頼・問い合わせ対応・出張者のお世話などなど、本当に幅の広い仕事があり、この仕事量そのものに、自分が押しつぶされてしまうこともあるようです。

「習うより慣れろ」といいますが、日々の経験を積み、仕事のリズムを掴むようになれば、自分らしさを十分に発揮できるようになると思います。最初の1年は、赴任者自身も、周囲の人も、お互いのペースを折り合わせるのに、辛抱が必要です。