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ニュースレター(機関紙)

海外メンタルヘルスの現場から(86)海外赴任者のストレス~運動
NL10080102
メンタルヘルス、海外赴任、ストレス

海外赴任者のストレス~運動

シンガポール日本人会クリニック
小川原 純子

*個体の平衡
福岡伸一氏の「生物と無生物の間」という本を読んだ。私たちの身体は、外部から取り入れた多くの物質と日々入れ替わっているという事実が、私には、新鮮であった。例えば、ジャガイモを食べる。すると、ジャガイモのでんぷんは、我々の腸で吸収される。そして、その中の、でんぷんを構成している炭素は、細胞の中の重要なパーツに組み入れられ、古い炭素は捨てられているそうである。こうやって、私たちを構成する元素は、常に入れ替わっている。人が口から摂取するものは、本当に大切なわけである。ただ栄養素だけを吸い取って、残りが排泄されるという、単純な流れではない。昨日、あなたが口にしたものが、正しく、今日のあなたの「体」となり、その隅々までを支えているのである。
それなのに、例えば、「山田一郎さん」という体のサイズや表情やその思考、脳の働きは一定なのである。これも、また、不思議である。物質が激しく入れ替わりながら、一つの個体を一定に保つ平衡機能が、「生物」には備わっていることに、感動を覚える。生命とは、一つの平衡体であることを再認識した。

* 身体の平衡
身体には、過度に行き過ぎた場合には、必ず揺り戻しが来る。食べ過ぎれば、次の食事は欲しくない。逆もしかり。ダイエットを続けると、反動ですごく食べたくなる。
寝すぎれば、眠れなくなる。睡眠不足が続けば、眠気に勝てなくなってくる。
身体を一定に保とうとする機能が、著しく安定している人と、年齢に合わず不安定な人があるのも、事実である。例えば、飲酒。「昨日は、本当に飲みすぎた。だから、今日は控えておこう。」というレバーが働かない人。それが、自己コントロールがつかない域に達すると、アルコール依存症になったり、肝臓を壊したりしてしまう。自己の身体平衡を保つ感覚は、病気を予防や安定した生活を作り出すのに、大変に重要である。

うつ病の患者さんは、この身体の平衡感覚が著しく崩れているし、崩れているバランスを元に戻すエネルギーが、絶対的に不足している。
「疲労感がひどいので、一日中ベッドで生活する。」「しんどくて食事も口にしたくない。」「カーテンも開けたくない。」このようなサイクルでは、悪循環からなかなか抜け出せない。

回復期のうつ病患者さんには、規則正しい生活を心掛けて貰う。
疲労感があっても、決まった時間にベッドから一度はきちんと起床する。
着替える。1日中、パジャマで過ごさない。その上で、昼寝はOK。
1日最低2食は、きちんと摂るように、心掛けて貰う。食欲がなくとも、口にするように。
万歩計を身に着ける。就寝時間を一定にする。

万歩計をつけて頂くと、健康な成人男性でも、一日運動量が、1000歩に満たない方にも出会う。元々、運動が好きでなく、コンピューターやゲームを趣味としてきたそうである。海外では、意識をしていないと、簡単に運動不足に陥り易いものだが、運動不足という感覚が鈍化していることも、問題である。
たしかに、職場と住居は接近し、安全面から、運転手つきの車移動。デスクワークに、お客さんとの宴会続きともなれば、運動する合間がないのかもしれない。遠方への出張も同じ。何千キロの遠方に到着しても、実は、自分自身は少しも歩いていないようだ。飛行機とお迎えの車かタクシーが、化石燃料を燃やして、運んでくれる。私たち自身のエネルギーや脂肪は、ほんの少ししか消費されていないのである。

小学校高学年である我が子に、万歩計をつけて登校させてみた。なんと、一日1万5000歩~2万歩。この数字に、驚きと感動を覚えた次第である。子供というものは、本当によく動いているものだ。そして、学校という環境は、子供に心と体の平衡感覚の基盤を教え込んでくれているように思う。

私たちは、本質的に、エネルギーを使い、動き活動することに、快感や充実感を覚えるように出来ているのではないか。現実生活で、この充足感のある運動量を保つことは、うつ病を初めとするメンタルな病気の回復を助ける働きがある。「つらい」「しんどい」から、すぐに布団にもぐりこむのではなく、一定の生活を崩さないことこそが、大切なのです。