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ニュースレター(機関紙)

海外メンタルヘルスの現場から(83)海外赴任者のストレス~診療室から感じるシンガポールの変化
NL10040102
メンタルヘルス、海外赴任、ストレス

海外赴任者のストレス~診療室から感じるシンガポールの変化

シンガポール日本人会クリニック
小川原 純子

2008年夏のリーマンショック以降、シンガポールの海外赴任者の動向にはいくつかの変化期があったように感じます。2009年春は、赴任期間を大幅に短縮された予定外の帰国者が多くありました。世界経済の急激な変化に対して、早急に対処しなくてはという企業の焦燥が、診察室の私にも肌で感じられました。「日本に戻っても、どんな仕事を担当するのか、どの部署に配属されるのかも決まっていません」という帰国者も少なくなかったように思います。誰もが急激な変化に不安を覚えたことでしょう。この時期には、赴任者や家族の希望や都合を、異動の考慮に入れることが出来ない雰囲気がありました。

そして2010年春。シンガポールやアジアでの経験が長い海外赴任者が当地から異動していかれているように感じます。当地では、日本人小学校の生徒数も若干の減少に転じたそうです。一方で、シンガポール周辺のアジア、ジャカルタやバンコクの日本人小学校では、生徒数が増加の傾向にあると聞いています。ある企業では、当地の事務所を縮小し、アジアの業務をバンコクの拠点に移すことになりました。また、ある企業は、こちらでの製造ラインの閉鎖を決定。今後は、中国工場に移動するそうです。

一方、シンガポールの消費市場には、日本企業の進出が続いています。日本の農産物は、当地では大変高価の食材に当たりますが、地元の人への人気は根強いものです。日本食レストランの進出も目覚しいものがあります。ファミリーレストラン・居酒屋・焼き鳥・焼肉・しゃぶしゃぶ・回転寿司・高級寿司店など、広いジャンルでの進出があり、地元の人に受け入れられています。また、衣料品の分野でも、日本ブランドの進出を感じます。
世界の経済やアジア市場の大きな変化が、海外拠点の診療室でも感じ取れるのですから、私には大変勉強になります。そして、こういった大きな潮流が当地で働く患者さん一人ひとりに波動してゆくのですから、診療にも十分に反映されなくてはならないのです。

2008年夏前までは、企業に不満を抱える若い世代の患者さんには、「転職」「起業」という大きな切り札が握られていました。当時、シンガポールも非常に好況で、『転職=キャリアアップ=収入アップ』という図式が想定できていましたので、強気の選択を口にする人は、実は、少なくなかったのです。
2009年~2010年の外来は、全くちがいます。如何に、問題を大きくせず、自分らしさを失わずに現状を受け入れてゆこうかという姿勢です。「転職」という解決法を口にする人もほとんどいらっしゃらないのです。

私が9年前に、日本人会クリニックで勤務を始めた時は、もう少しちがう「ゆったりとした空気」がシンガポール赴任者の中にありました。時間に追われる感覚や数字に追われる日々・仕事に対する切迫感や不安を、言葉で表現するのは容易ではありませんね。以前は海外に赴任すると家が一軒建つほどの収入上の優遇が期待できた時代もあったようですが、現在は、海外勤務もそこまでの好待遇ではなくなってきています。現在の海外赴任者は、「仕事を目的として海外に居住している」ということが、第一義の目的です。当地での、仕事の充実感や満足感を欠いていては、この滞在の根幹が揺らいでしまい、心身のバランスをも揺らがすことになるようです。「仕事が充実してこそ、プライベートにも更なる充足感がある」多くの患者さんの共通の意見です。