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ニュースレター(機関紙)

北京の街角から~中国医療現場からの報告~第24章「海外で働くこと」
NL10020104
医療情報、中国


北京の街角から~中国医療現場からの報告~第24章「海外で働くこと」

北京天衛診所顧問歯科医
中華人民共和国 歯科認定医
田中健一

前回、随想コーナーで江田明子看護師が自身の勤務する病院を早期退職し、北京天衛診療所に勤務したことを紹介しました。今回はその続報です。今回の原稿で皆さんに理解していただきたい内容は、海外の医療機関(有料診療所)で勤務する際に生じる日本との決定的な相違、およびその相違に対する対処法です。

希望に夢膨らませて北京に着任した江田看護師でした。が、勤務後1カ月を経過するあたりから、彼女は夜寝れないなどの体の不調を訴えだし、内科の石先生や中国医学の徐先生の外来を受診するようになったのです。さらに、持病である座骨神経痛も再発しだし、眠れない夜が長くなりました。海外ならずとも職場に勤務する際には自分の健康管理に心掛けましょうね、と言うのは簡単ですが、実践するのは非常に難しいのは読者の皆さんがよくおわかりの通りです。といっても今回理解してほしい内容は健康管理に関することではありません。江田看護師が北京に勤務しだして負担に感じたことは、自身の体調よりも病院の診療スタイルのことです。

一般に海外の日本人診療所は、良い言葉でいえば、医院内を静かに時間が流れ、スタッフがゆとりをもって対応してくれる。悪い言葉でいえば、治療と治療との間に長すぎる空き時間があるため、相当緊張感を保持していないと勤務がだれてしまうのです。下世話な言葉を使えば、一般の日本人医療スタッフにとっては病院がはやっていないように感じられてしまうのです。

就職して以来、日夜休みなく廊下に溢れかえるほどの患者数の中でやってきた彼女にとって、待合い室ががらんとしていることは今までにない経験だったのです。そして、この環境が忙しい日本の病院に慣れた彼女にとっては耐えられないものになってしまいました。

私への相談も「少ない患者しか担当しないで給与をもらうのは心苦しい」というものでした。私は彼女に「病院に着けば待たされることなくすぐ診察してもらえる」点がこの医院の付加価値なわけですから、飲み込んで下さい」とか、「病院が空いているのはそれだけ邦人が元気なことなのだから、それはそれで良いことよ」とか、「患者を増やすようなことは直接には医療現場の仕事ではなく広報と企画が担当すべきことであり、我々は担当する患者に対して最善と考える医療を提供するのが任務である」と伝えましたが、彼女にとっては満足のいく解答ではなかったのです。日本ではこのような体質に慣れていないため、大なり小なり悩まない日本人スタッフはいませんでした。この私であっても病院は技術とともに時間も売っていると解釈できるまでに3年以上の時間を必要としました。

コストはかかるがゆったりと時間の流れる医院が良いのか、低コストだけど慌ただしい医院が良いのか、医療の根源に関わる事項だと考えます。北京の日本人診療所は前者の立場にたっています。この認識をできるかどうかが、海外で働く上で最も求められることです。患者数が日本に比較して少ないことに悩み過ぎても困るけど、「ああ楽だ」と思いこの状態が当然と考えてもらっても困る。このバランス感覚を持つということは非常に難しいのです。

感性を研ぎすまし、日本ではできなかった医療を提供しましょう、そのためにはゆとりある時間が必要なんです、と私は日本人スタッフにお話をするのです。「こんな医療は日本では受けたことがなかった」と言ってもらえるような患者を増やしていきたい。我々のスタンスを理解できる方が私達の病院の対象です、そんなことが今の目標です。この考えは北京に限らず全世界にある日系病院に共通する考えだと私は考えますし、これから海外の日系病院で勤務を考えている方は、まずこの点を理解することがスタートです。異文化医療体験をしてみたい方はぜひ北京の病院の門をたたいてください。結局彼女は、体調不良を理由に着任後わずか6カ月で退任・帰国となったのです。






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