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ニュースレター(機関紙)

<新連載>海外勤務者のための渡航医学 その1 海外勤務者候補の健康面からの評価
NL10010105
医療情報、海外渡航

新連載
海外勤務者のための渡航医学 その1 海外勤務者候補の健康面からの評価

渡航医学センター 西新橋クリニック 院長
株式会社 渡航医学センター 代表取締役
日本渡航医学会 副理事長
大越裕文

昨年まで、計17回にわたり渡航医学のABCと題しまして、渡航医学の基本事項について概説してまいりました。読者の方々からより実践的な内容を要望するご意見をいただいたことより、本年からは、海外に進出している企業あるいは団体担当者の方々にすぐに役に立つ内容にしていきたいと考えております。第1回目は、海外勤務者候補の健康面からの評価についてです。

海外出張者、派遣者、赴任者、長期滞在者
海外勤務者、海外派遣者、赴任者、出張者など種々の用語が出てきますので、まず言葉の整理をしておきます。海外勤務者とは、大きく海外出張者と海外派遣者に分かれます。両者は、滞在期間による分類ではありません。たとえ1 週間という短期間であっても、現地の使用者の指揮命令に従っている場合は、労災法上では海外派遣者とみなされます。したがって、疾病や外傷を受傷しても、日本の労災は適応されませんので、労災保険の特別加入制度を検討しなければなりません。海外赴任者は、定義があいまいですが、一般的には派遣者の中で6か月以上現地に転勤して滞在するものを呼んでいるようです。

その他、外務省は、滞在期間が3か月以上の渡航者を永住者と長期滞在者に分けて取り扱っています。2008年度の長期滞在者は、75万5千人で、過半数を民間企業からの派遣者と帯同家族です。

海外勤務者はアスリート しかし・・
出張、派遣のいずれの形であっても、海外勤務者は所属する企業や団体の代表として、きびしい環境の中で競い合わなければなりません。かれらのパフォーマンスの出来不出来は、海外ビジネスの成功に大きな影響を与えます。特に、海外派遣者は、経済活動のグローバル化とともに、従来からの役割である本社とのパイプ的役割だけではなく、現地法人の社員との協調作業や人材育成をも求められるようになってきているため、十分な知識と経験と業務遂行するための健康が要求されます。

スポーツにおけるアスリートに似ていると言えます。しかし、実践には、健康面よりも知識と経験を優先して中高年の社員が選ばれるケースが多くなっています。当然、中高年の社員は、生活習慣病などの健康リスクが高くなります。
海外勤務健康管理センターの調査でたいへん興味深い結果が出ています。赴任前の健康診断の結果では、なんと受診者の22%は肥満に該当し、その4分の3が高血圧、高脂血症、高血糖などの他の心血管危険因子を有していたということです。また、ある企業では、赴任前健診を受けた予定者の5%が海外勤務不適な状態であったと報告しています。海外赴任者はメタボリック症候群を抱えたアスリート、メタボアスリートということになります。

海外勤務者の健康リスク
海外勤務者の健康リスクは、まず、飛行機での移動中のリスクと滞在中のリスクに分ける必要があります。島国である日本は海外に渡航するためには98%以上航空機を利用しますので、滞在期間に関係なくほぼ全員(船舶での渡航者を除く)が機内環境を経験することになります。

そこで問題となるのが、飛行中の環境が地上とは大きく異なっている点です。飛行中の機内気圧は、富士山の五合目と同じで、砂漠並みに乾燥しているということです。実際、このような環境の違いを知らずに搭乗し、持病が悪化したり、新たな病気を発症してしまう方がいらっしゃいます。

まず、航空機内の環境に適さない状態の方は、渡航を中止するか延期する必要があります。航空機内環境に適さない状態は既に紹介しましたので、下記ニュースレターをご参照ください。
なお、この基準は、海外で病気やけがをした際の搭乗基準にも適応されます。
渡航医学のABC その3 航空機旅行をより快適に(II)

海外滞在中の健康リスク
次は、滞在中の健康リスクです。滞在中の健康リスクは、3つの視点から考えるべきです。ひとつは、前述の生活習慣病です。もう一つはうつ病などの精神科疾患、そして感染症です。

生活習慣病については、渡航医学のABCでも述べましたが、滞在中はよほど注意をしなければ確実に悪化します。車による通勤、食生活の変化、夜の付き合いの増加、ストレスの増加など悪化する要因はたくさんあります。また、日本で受けていた治療を中断する方も非常に多いようで、生活習慣病の悪化の重要な要因になっています。したがって、派遣者の人選の際には、生活習慣病の有無とコントロール状態、本人の治療に対する意識、渡航先で適切な治療を受けることができるかどうかを加味したうえで判定すべきです。また、赴任者に対しては、帯同家族の有無も重要となります。

海外派遣企業にとって、一番頭の痛い問題となっているのは精神科疾患です。精神科疾患の発症因子としては、①風俗習慣の違いによる不自由さ 、②医師の指示理解能力のなさ、③現地人上司との関係の悪さ 、④年休消化日数 、⑤運動習慣 、⑥喫煙習慣 、⑦家族交流のなさ、⑧相談者の不在、⑨単身派遣、⑩現地交流のなさが指摘されています。

したがって、赴任者の人選に際しては、精神科疾患の既往の有無に加えて、海外生活の有無、コミュニケーション能力、帯同家族の有無、日本人の同僚の有無、社交性、本人や家族の希望などを考慮したうえで人選をする必要があります。滞在期間は長いほどリスクが高くなりますが、短期の出張中でも急激に精神科疾患を悪化する場合がありますので、慎重な評価が必要となります。

次は感染症のリスクです。開発途上国に勤務する場合には、感染症対策は欠かせません。感染症のリスクは、感染症にかかるリスクと重症化するリスクの観点から考えなくてはいけません。重症化しやすい人は、基本的には海外勤務は避けるべきです。やむをえず、衛生状態の悪いい地域に勤務しなければならない場合は、短期の出張においても、十分な対策が必要となります。

感染症のハイリスク者は、今回の新型インフルエンザでも取り上げられたハイリスク者と同様に、呼吸器疾患、心臓疾患、糖尿病、腎臓疾患などの慢性疾患をお持ちの方や免疫機能が低下している方、妊娠されている方、小児と考えてください。
感染症にかかりやすい人は、予防接種を受けていない人(A型肝炎、B型肝炎などに感染する人の80%は予防接種を受けていません)、アレルギーなどで予防接種を受けられない人、胃を手術した人やマラリア薬などを内服できない人、基本的な予防法を行わない人です。

定期健診による健康スクリーニング
出張などの海外勤務は、突然発生する可能性があるため、前述のリスクを考慮した上で、あらかじめ社員全員の海外勤務に伴う健康リスク評価しておくことが大切です。ある企業では、海外勤務(出張や派遣)を深夜勤務などと同様に高負荷勤務(負担の大きい業務)として位置づけ、海外勤務の予定に関係なく、定期健康診断の結果判定時あるいは病気から復職した際に、高負荷勤務の可否について評価しています。
ポイントは、下記の通りとなります
1. 疾病のコントロール状態。
2. 急激に悪化するリスクや心血管系の合併症。
3. 航空機の搭乗条件。(これは国内出張にも適応)

また、海外赴任の候補に挙がった際は、下記の事項についても検討しなければなりません。
1. 現地での治療継続。
2. 勤務先の衛生状態や医療レベル。
3. 医療費のカバー。
4. 滞在期間。

表1に海外勤務の取扱い基準の目安を紹介します。例え疾病があっても、内服治療によりコントロール状態が良好で、勤務先が先進諸国であれば可とします。ただし、発作性の疾患や心血管系の合併症などを有している可能性が高い場合は、先進国で不可とすべきです。また、これらの判定結果は、本人や所属長に産業医からきちんと説明し、意見書などで、指示を明確にしておくことが大切です。

表1 海外勤務の制限基準(海外勤務と健康 第10巻 1999より一部抜粋)
 海外赴任
(先進国)
海外赴任
(途上国)
出張
(先進国)
出張
(途上国)
疾患のコントロール不良、治療中断不可不可不可不可
コントロール良好不可不可
症状安定、経過観察


このような取り組みは、多くの企業や団体ではなされていないでしょう。身体検査の基準すら持っていない企業も多いようで、海外勤務健康管理センターの調査では、31%の企業しか健康上の判定基準を持っていなかったと言う結果が出ています。特に、海外出張者については、健康管理スタッフが関知していない場合が多いようです。今後は、出張も含め海外勤務を高負荷勤務ととらえ、対応していく必要があります、

海外赴任者の決定方法
長期に滞在する赴任者の人選は、より慎重に行われなければなりません。まず、業務を遂行できるスキルを有しているかが検討され、その次に過去の健康管理記録を参考に、赴任人事が決定されるべきです。したがって、数か月前から検討が開始すべきでしょう。赴任前健診は、健康状態の最終確認と必要な健康対策の貴重な資料として有効に活用します。
次回は、赴任前健康診断の役割についてご紹介します。



◇編集部より◇ 今まで好評をいただいていた「渡航医学のABC」は、新しい年を迎えて新シリーズ「海外勤務者のための渡航医学」へと衣替えいたします。引き続き大越先生にご執筆いただきますので、どうぞお楽しみに。

読後の感想、意見、質問および今後取り上げて欲しい話題のリクエストなどを受け付けます。
ニュースレター連絡コーナーhttp://www.jomf.or.jp/ninq/index.htmlからご連絡お願い申し上げます。

著者のサイト:渡航医学センター 西新橋クリニック
http://www.tramedic.com
「渡航医学のABC」索引コーナー
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