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ニュースレター(機関紙)

北京の街角から~中国医療現場からの報告~第23章「看護学校に入学基準の巻」
NL10010104
医療情報、中国


北京の街角から~中国医療現場からの報告~第23章「看護学校に入学基準の巻」

北京天衛診所顧問歯科医
中華人民共和国 歯科認定医
田中健一

看護学校に入学基準の巻
中国の医療制度を日本のある研修会でお話する機会をいただきました。日本との制度の相違の1つに看護学校の入学基準に身長という項目があることを指摘したのです。このお話の背景には以下のようなことがあります。

診療所で看護師としている勤務している康さんはある時、黒龍江省(中国東北部に位置する)の看護学校では入学の基準に「身長170cm以上であること」を入れていると私に話してくれました。その話を聞いて私は「それでは170cm未満の学生さんはどんなに成績が良くても入学ができないじゃないですか、その項目は入学基準としては不適切だと思います」と彼女に話したのです。すると、彼女は「オペ室などで患者さんをベッドからベッドに移す際にはある程度の背丈とリーチが必要であること、患者さんの身体移動の際には小柄だとハンディがあること」などの理由から学校の基準は合理的であり不適切とはいえないと反論したのです。

さらに臨床現場で使える看護師を養成できている学校だという評判がたてば、自ずと優秀な人材が集まってくると学校側は判断していると思いますよ。この「臨床現場で即戦力になる」ことこそ学校が打ち出したい特徴と思います。全国画一的に入学基準を設定してしまったら、それこそ学生が分散してしまいそれぞれの学校の特徴が出しにくくなり、学校の発展が阻害されてしまうと思います…こう言われると、学校の入学基準に身長制限をつけるのも一理あると私も納得させられてしまったのです。そう、良い言葉でいえば、異なった理念に則った多様性を認めること、悪い言葉でいえば、排除される層の出現を認めること、この考え方こそが中国と日本に横たわる根源的な相違点だと考えるようになったのです。同じ看護学校であっても、臨床での即戦力を養成する学校もあれば、行政で働くことに主眼をおく学校もある、さらには管理職を養成する学校もあるのです。

説明後の質疑応答において、看護学校の入学基準をめぐって各種各様の意見が出されました。まず口火を切ったのが、聴衆の1人として参加していた中国人看護師です。彼女は「上海では、看護師の身長に制限があるのは病院に採用される時であること、その基準は160cm以上である」と言いました。

中国では上海のような南方の人は黒龍江省など北方の人に比較して格段に小柄ですから、私はその相違が理解できます。私と中国人看護師の間でやり取りしていた論点は身長の大小(170cmか160cmか)であったのに対し、他の多くの聴衆(日本人医療従事者)は、看護師の採用においても身長制限があることに驚いたのです。

往々にして私達は自分の経験をもとに物事を判断したくなりますが、日本の10倍もの人口を有する中国では、このものさしの尺度が大きく異なっていることが間々あるのです。
別の論点として、中国は、入学にしろ就労にしろ、明確なルールが明文化されている、それに対し日本は、まだまだ慣例や明文化による波紋を恐れ、明文化されていない規定を設けている学校や病院も多々あるのではないかと考えています。善し悪しは別にしてこの不明瞭さが外国人に混乱をもたらす元凶だと考えます。



随想○北京の裏道から~ 海外で働くこと

今まで私の属している診療所は多くの日本人医療スタッフを受入れてきました。前事務長はかつて、日本人スタッフは働くことが目的でなく手段であると言いました。つまり、留学中の学費稼ぎ、転勤の同伴としてお小遣い稼ぎ、永住者としての生活費稼ぎなど、賃金を得ることを主たる目的として診療所の門を叩いていたのです。
当地で一からやり直し、自身の専門とする仕事がしたいから免許を取得するのではなく、日本で取得した免許をもとに北京で仕事をしたい、という甘えた本音が透けて見えたというのです。それに続けて、日本での免許が自身の雇用を保証すると誤解している医療人が多いのに驚いたと言います。本来、日本で取得した免許は日本でのみ有効であり、海外では無効なことがわかっていないのです。だから、奮起克己して中国の免許を取得しようという人間はわずかでした。この事務長が求める人材とは、賃金を得たいというのはもちろんですが、それ以上に、中国で自分の技術が通用するか試してみたい、通用することが実感できたら中国での免許を取得するため試験を受ける、という姿勢の人です。

医療人として外国で働くとは、何もない裸一貫で異国に来て、現地に順応するというのが本来の姿です。つまり、他にはない自分の売りを持っていることです。しかし、多くの日本の医療人の場合、日本の免許という水戸黄門の印篭を出してきて、その免許の権威によって周囲のものは納得する、と考えている節があると事務長は考えています。海外ではこの印篭の価値は皆無です。この日本の免許の効用における認識の差のため、中国側との葛藤がよく生じるのです。海外で仕事をする際、日本の免許は必要条件ですが、決して必要十分条件ではないのです。

今までとは違ったコンセプトで診療所に勤務する医療人が出ました。その名を江田明子看護師といい、日本の病院で糖尿病看護療養師として糖尿病治療の前線で働いてきました。定年という1つのゴールが見えだした時、江田看護師は今後、どう生きていくかを考えました。今までできなかった旅行をするのも良い、パートタイムとしてなら雇ってくれる病院は必ずある、現に今いる病院からもオファーを貰っている。その中から彼女が出した結論は、昔からの夢であった“海外で働くことにチャレンジしてみたい”です。そして、定年を半年早めて退職し、北京天衛診療所に履歴書を出したのです。

面接をした中国の担当官は、自分の人生を豊かにするために、技術を持って北京に仕事をしに来る日本人がいることに大いに驚きました。今まで自身の技術を売りに来た人はいなかったからです。現在、中国では食生活の洋風化への劇的な変化の結果、糖尿病の罹患者が急激に伸びています。また、駐在員も日々の生活が日本とは比較にならない程、不摂生をしていますから、糖尿病予備軍は決して少なくありません。

このような背景が江田看護師をして北京に旅立たせたのです。遊びの一環ではなく、自分の人生をかけて仕事をしにくる日本人医療スタッフが増えた時、在外日本人医療機関のレベルは大きく進歩するでしょう。今は中国の内科医師の指示の下、日本の糖尿病治療の進め方と中国のそれについて、比較検討している最中です。

江田看護師のような姿勢を「skill based volunteering」といいます。自分の技術を使って現地に貢献することができます。もちろん免許がないわけですから技術手当てはなく、日本でいただいていた額に比較すれば給与は半減します、でも海外で働くことを選択する日本人医療スタッフが増えてほしいと思います。北京の日本人医療機関はこんなプチ国際協力のお手伝いもしているのです。

定年しても海外で働くことができる、江田看護師は看護の世界に今までにない生き方を吹き込んだといえます。海外における日本人医療スタッフは人材難であることは否めません。皆さんも自分の技術を海外の現場で試してみませんか?



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