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ニュースレター(機関紙)

海外赴任者のストレス~本人の主張
NL09120102
メンタルヘルス、海外赴任、ストレス

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海外赴任者のストレス~本人の主張

シンガポール日本人会クリニック
小川原 純子

心療内科の外来では、当然のことながら、ご本人の感じている心身の不調や身体的違和感を丁寧に傾聴していく姿勢が必要である。時には、ご本人も精神的に混乱・興奮・困惑し、話が相当に長くなることもあるが、これもまた、致しかたない。「自分は、ここまで仕事を努力しているのに、上司が細部にわたって批判してくるんです。だから、最近では、上司に書類を提出する前の不安感が強くて、仕事が停滞しがちです。」上司の執拗な確認癖に困惑し、自信喪失して来院される方には、医者として「それは、大変ですね。」と一旦は同意することとなるでしょう。

「夫が、結婚してから自分のファッションに口を出し、自由にさせてくれないので、とても窮屈です。」
時には、極度の束縛によって奥さんを自分の思い通りに動かしていたい御主人もいらっしゃるので、「そういうこともありますね・・」と、共感を示した上で、次回、どのようなおしゃれが、お二人の大喧嘩の原因となるのか、写真を持って来て頂くこととしました。
2回目の外来で、奥さんはピンクのフリルの付いたミニスカートとピンクのカチューシャ。持ち物もピンクで統一されています。まるで、テレビのアイドルが抜け出てきた様です。30代前半の女性としては、やはり奇抜すぎて周囲の人の視線は釘付けです。ご本人は「みんなが目を見開いて振り返る=自分が注目を集めている=大変にかわいいファッションである」と認識しているようでした。
「あなた自身に問題があります。」「そのお洋服では、どこに出かけられても、みんなが引いてしまいますよ。」とお話しすると、「先生まで、私に『おばさんの様な格好をしろ!』というのですか?」と泣かれてしまいました。

40代前半の男性が、「上司が、今まで自分が仕事で積み上げてきた成果を認めてくれず、職場での衝突が絶えない。このため、最近は、不眠と頭痛が著しい。」と外来を受診されました。「部下とは、なかなか良いチームワークで働いてきている。」とのこと。そうなると、余程、問題のある上司が着任されたのかな・・・?と、治療者は感じ、患者の苦労に共感しながら治療が進んでいきました。ところが、治療開始1ヵ月後に、この方の直属の現地社員が3人同時に辞表を提出し、大騒ぎとなりました。会社の上司を巻き込んで、事情を伺ったところ、患者さんの職場での態度は、大変に横柄で、方針はコロコロと変わるし、周囲は皆、上司・部下を問わず、辟易しているとのことでした。

30代女性が、極度の疲労と便秘を主訴に外来を受診されました。ご本人によると、しっかり食べているのに体重が減少気味とのことです。「毎日、20種類以上の食品は口にするようにしています。水分も毎日2リットルは飲むようにしているし、健診では異常がないのにどうしてでしょう?」疲労感が強くて、主婦として期待される役割をこなすことが出来ません。昼間に横になっているので、夜間に行動するようにもなり、昼夜逆転気味です。「先生、私は、うつチェックリストに当てはまるんですけど、うつでしょうか?」こんな様子で、外来受診が数回続きました。ところが、より具体的にお話を伺うと、にんじんは30g位、豆腐は10分の1丁、ご飯は数口のみ、後は、こんにゃく少々、他食材も種類は食べていらっしゃいますが、極々少量のみでした。確かに、1日20品目は口にしているし、水分も取っていますが、これは「しっかり食べている」と認識しているとしたら、この認識の方が、相当に問題です。

ご本人達は、医者に相談しなければならないほど、深刻に悩んでいる問題でも、時に、問題の解釈や深刻度の評価、あるいは、問題解決に向けての対処行動が、常識的な範囲から大きく逸脱しているケースがあることを治療者は、常に心に留め置かなくてはならないようです。患者さんの悩みに共感する一方で、こういった現実認知の歪みに対しても、治療者は指摘・指導・修正を促さなくてはならないのですが、実は患者さんの問題点を適確に指摘する方が、「共感」姿勢を示し、患者さんを安心・満足させるよりも、ずっと難しい問題なのです。シンガポールでは、職場の問題や海外赴任者家族の問題に対して、患者さんの周囲からの情報や援助を受け易い環境にあります。治療者が関わることで、患者の属する集団が、安定したバランスを生み出すように考えなくてはなりません。