• ホーム
  • 基金について
  • 海外医療情報
  • お勧めリンク集
  • よくある質問

ホーム > 海外医療情報 > ニュースレター(機関紙)

ニュースレター(機関紙)

北京の街角から~中国医療現場からの報告~第21章「中国看護師事情 (1元14円)」
NL09110104
医療情報、中国


北京の街角から~中国医療現場からの報告~第21章「中国看護師事情 (1元14円)」

北京天衛診所顧問歯科医
中華人民共和国 歯科認定医
田中健一

誰しも入院したら心細いもの。そんな時、自分の看護してもらう看護師の方から優しくしてもらったら、それだけでも嬉しくなりますね。日本で病院に入院しても、看護師を選択することはできません。誰が担当してくれるかはその時の運に左右されるわけです。

一方の中国では病院および医師にランクがあるのと同じように、看護師においても経験、技術、知識、患者からの評価により明確なランクがあります。つまり、日本のように一度看護師免許を取得してしまえば、一生使えるなんてことはありません。免許取得はあくまでも看護師としてスタートする入り口でしかなく、その後、専門、知識を増やしていくことにより、上級になる試験を受け一般の看護師から副主管護師、主管護師へと資格を上げていくのです。

以前、私は病院の看護師に、日本の看護師の仕組みは努力が報いられる制度になっていない、という指摘をいただいたことがあります。彼女がいうには、「点滴が一発で入る看護師と2,3度必要な看護師が同じ条件であってはならないと思うのです、技術を獲得するためには、獲得するなりの努力をしているわけだから、それに見合った対価も用意しておく必要があります、しかし、日本ではそうなっていないため、外部の人間にとっては非常にわかりにくいと思う。」こんなことが要旨でした。

そして、ここ(北京天衛診所)では長く勤務すれば給与があがる仕組みだけど、一歩間違うと、技術や知識が向上しないのに給与だけが上がる仕組みじゃないの?と言われた時、私ははっとさせられました。当初、私はこの制度を知った時、大きな違和感を持ちました。しかし、今では私もたとえ若くても上のランクの試験をパスしたら、その労苦を報いる仕組みが必要だと思います。そうじゃないと、上の技術を目指そう、より多くの知識を吸収しようというインセンティブにならないと思うようになりました。もちろん、末端の資格しかない看護師が看護部長になることは、いくら歳を重ねていてもありえないことです。この点では実力社会と言えます。

中国では自分がどの位置の看護師であるかによって、勤務できる病院のレベルも規定されてくるし、さらには指名料の半分は自分のボーナスになるから、自身の収入にも直結します。さらに自身が指名を受ければ、仕事の励みにもなります。これこそが競争社会なのだと思い知らされました。

それでは指名を受けられない看護師はどうなるの?と聞く私に対して、指名を受けられないのにはそれなりの理由があるはずです。指名を受けられるよう研鑽を積むか、そのままに甘んじるかですね。しかし、今の中国では猛烈な競争ですから、腕のない看護師を雇用するほど病院も甘くないはずです、とはこの制度を教えてくれた看護師の言葉。

今回、私が訪問したのは、新病院ができあがったばかりの北京朝陽区婦児病院です。この病院は2級病院ですから、受診者サイドは2級である病院に対する付加価値の費用を払ったうえ、入院期間などを勘案しながら指名する看護師を選ぶのです。正面玄関には1級から特級までの看護師の指名料が書いてありました(写真参照)。


◆指名する看護師のランクにより費用が異なる。その分の費用を払えば経験、知識もあることが保証された特級の看護師が、担当してくれる。
表では「1級看護 1日につき 7元」~「特級看護 1日につき 25元」ということが記されている。(手偏に「戸」で「護」という漢字。護理=中国語で看護を意味する。)



この制度をわかりやすいとみるか、えげつないとみるかは私達日本人にとっては判断が別れるところでしょう。でもお金なら払うから腕の良い看護師にお願いしたい、採血やら点滴は一発で入れて欲しい、こんな患者の希望を叶える制度が今の中国の看護事情なのです。ちなみに、この北京朝陽区婦児病院は営利目的の病院ではなく、押しも押されもしない国家が運営する北京市立病院なのです。


随筆○北京の裏道から~ 教育制度(1)

今の中国において人々の関心の高いものをあげると「教育,医療,住居」の3つになるでしょう。今回は中国における教育問題を取り上げます。

世界でも稀な日本の教育制度は、どこでも誰でも教育の機会と質を担保することを目的として全国均一に規定されてきました。理想とはうらはらに県ごとでみれば、教育に力を注いでいる県もあれば、そうでない県もあるものも歴然とした現実でした。教員の管理職への登用や採用試験の不正などは決して大分県に限ったことではないようです。
一般の人に、教育の質が全国同一であることが妄想であったと理解できるようになったのは、小中学生を対象とした全国統一試験の実施です。教育県といわれていた長野県や秋田県は上位にランクされ、大阪府は下位でした。そのため大阪府は橋下知事の教育刷新に拍車がかかることになりました。とはいえ、結果の公表は県単位であり、市町村および個別の学校別、さらにはクラスごとの成績は伏せられています。子供に良い教育を受けさせたいと考えるのは世界どこでも同じです。良い学校なら越境してでも子供を通わせたいと考えても不思議ではありません。しかし、その術は日本では明示化できていません。いくら長野県の成績が良くても、長野県のどの学校に行けば良いか試験の結果は教えてくれないからです。

一方、中国の教育はこんな日本の制度に慣れた人からすると凄まじいの一言です。試験の結果により学校がきれいに序列化されます。上位の学校は重点学校としてより多くの予算が投入されます。さらに重点学校にはより高いレベルの先生が配属されます、さらに、教え方がうまい,クラスの生徒の成績が上昇することを指標とした上位100名の先生の氏名まで新聞で公表されるのです。

とすると、設備の充実した良質の小学校や中学校で自分の子供を勉強させたい、こんな先生に教えてもらいたい、と誰でも考えます。日本でしたらこんな場合、親戚などを頼って住民票を移すか、もしくはしょうがないと諦め近所の学校に行かせるか、です。日本は転校は自由ですし、親が引っ越した先の公立小学校、中学校なら学区内であればどこでも通学できます。例えば、私が育った埼玉県で仮に満足のいく教育が得られないと考えるなら、東京都文京区(教育指数全国1位)に親が引越しすれば私は文京区の小中学校に無条件で(それも合法的に)入学できます。あなたは埼玉県出身だから埼玉県の学校に通え、などということはなん人たりともいうことはできません。現に教育熱心なYさんは、子供を越境させて品川区から文京区の小学校に通わせています。

北京の規則では、北京に戸籍を有さない人(外地人という)は北京の学校に通うことはできません(この問題については次回に紹介します)。さらに、同じ北京市であっても区が異なれば越境はできないのがルール、つまり自分の住む区の学校に行かなければなりません、少なくとも近年の経済発展の前までは。

この制度が改革・解放により大きく変革されました。北京市であればどこの区の学校にでも通えるようになったのです。ただし、そのためには「賛助費」と呼ばれる越境入学費用を学校側に払わなければなりません。教育の市場化といっても良い制度です。

良い先生を抱える学校には、多くの子供達が越境してきますから多くの賛助費が集まります。そのお金を学校整備費として使いますからますます良い教師、良い器材を備えることができるのです。もちろん、越境したいと思っても誰でもができるわけではありません。コネ、金、成績が伴わないと、学校の評価を下げることになりますから、受入れてもらえないのです。先生の給与も子供の学力によって決定されますから、先生も必死になります。こんなところにも競争がおこっているのです。校長の役割はどれだけ良い先生を自校に引っ張ってこれるかになります。良い条件を提示できなければ、良い先生はもっと良い条件を提示できる学校に去ってしまいます。学校がプロ野球チームと重なるのです。

さて、ここで問題、この賛助費として保護者が学校に支払う料金はいくらか? ずばりそれが学校のランクによるのですが、一般には1.5万元(隣接した区)、3万元(遠方の区)です。

地獄の沙汰もなんとか…の前に、入学においても越境が合法で、金で片がつくのです。戦先生の子供は日本籍であったため賛助費として10万元払ったそうです。宋先生の子供は越境する学校の校長と知合いだったため賛助費を安くしてもらったそうです。さらに、看護師の蘇さんの友達は良い小学校に入れる幼稚園に入れるために7万元払ったのです。ちなみに、誤解して欲しくないのは、この賛助費を設けているのは私立学校ではありません。れっきとした北京の公立学校でおこっていることです。

あげくの果ては、学校の放課後に英語、演説、プレゼンの授業が、上乗せ、横出しとして入っていて、生徒はこの授業を別費用で受けることができます。もうこうなると、学校の先生が自分の教室でアルバイトをしていると解釈でき、日本でも議論を呼んだ夜スペ(塾が放課後に学校で教える)なんて可愛いものだよと私は思ってしまうのです。

私は日本でこんなことやったら大問題だと思いますし、アメリカならまだしも社会主義国家のすることかよ、と思うのですが、そこは「中国の特色ある社会主義」の真骨頂です。急激な経済成長がもたらした歪みだね、とは診療所の良心といわれる石先生の言葉。結局、経済成長の果実が教育に回らず、賛助費という外部のお金を使って良い教育が提供されているのです。国家が全て資金を提供するのが良いか?ある程度からは保護者にも負担を求めるのか?私は中国にも一理あると感じるようになってきました。



◆優秀な幼稚園、小学校、中学校の先生は新聞に名前が掲載される。この名前と学校には多くの保護者が賛助費を支払って通学させる。




編集部より:読後の感想、意見、質問などはニュースレター連絡コーナーhttp://www.jomf.or.jp/ninq/index.htmlからご連絡お願い申し上げます。

●「北京の街角から~中国医療現場からの報告」索引コーナーhttp://www.jomf.or.jp/jyouhou/jigyou_iryou2/jigyou_iryou2_4.html#t