• ホーム
  • 基金について
  • 海外医療情報
  • お勧めリンク集
  • よくある質問

ホーム > 海外医療情報 > ニュースレター(機関紙)

ニュースレター(機関紙)

北京の街角から~中国医療現場からの報告~第20章「インフルエンザ予防接種」
NL09100104
医療情報、中国


北京の街角から~中国医療現場からの報告~第20章「インフルエンザ予防接種」

北京天衛診所顧問歯科医
中華人民共和国 歯科認定医
田中健一

新型インフルエンザに対するワクチン接種について官民多方面の場で議論されています。この議論をフォローしながら、ワクチン接種に関して日本ではまず起こりえないことが中国の診療所で起こっていたので、今回はその出来事を紹介します。

■ことの発端は、診療所の事務長が日本人向けのイベントの参加賞として予防接種の無料クーポン券を配付したことに始まります。中国では予防接種に対して診療所の利益を上乗せすることを禁止していますから、事務長は無料クーポン券を150名に配付しても広告効果として十分採算が取れると踏みました。ワクチンの仕入れ値である40元×配付数は販売促進費として計上することになりました。

朝礼で事務長より無料クーポン券を参加者に配付したことが説明され、クーポン券を持参した人にはワクチン接種をするよう指示が出されました。この話を聞いたスタッフの反応(不満)は2つに分かれました。

■日本人スタッフから出た意見は「接種したワクチンによって副作用が生じた時、責任は誰がもつのか?」です。
いくら無料とはいえ接種を受けたものは何かあった際に、責任を診療所か、もしくは接種した医師に取るよう求めてくるに違いない、その場合はどのように対処するのか?という医療人としては当たり前の疑問です。

さらにその場で意見は発せられませんでしたが、燻っていた意見として、医療行為に関することが商品として、それもイベントの参加賞などという形で提供されることがあって良いのか、さらにこの決定が医療人に諮られることなく事務長の独断で行われてしまって良いのか?という根源的なところにありました。そもそも医療現場で行う予防接種が、景品としてそぐわないのではないか(そんなのありかよ!)という違和感に行き着くのです。経済合理性と医療の根本を巡るせめぎ合いが論点でした。

■それに対して中国人スタッフからの意見は、日本人の中に無料券で接種しに来る人間がいるのか?という疑問です。
真っ当な人間なら人体に接種すること、つまり自身の健康に直結するものが、無料のクーポン券なんかで提供されるわけがないことは理解しているわけですから、無料クーポン券に釣られて受診する人は知識レベルが低いわけだし、ここの診療所が本来対象とすべき層ではない、と嗅ぎ取っていたのです。

さらに、ワクチンの質は有料のものに比べ無料のは劣るに決まっているから、こんなのに釣られるのは中国では低所得者階級しかいないよ、このイベントに参加するような人種はまず分別をわきまえている日本人だから、接種しに来ないはずだ。
さらにクーポン券配付というようなやり方で広告効果を狙うなら、こんな低俗な方法を取る診療所の医療に対するあり方そのものが問われ、逆に信頼を失墜することになるのではないか、という危惧の声があがったのです(副作用が出た際には無料なんだから診療所は全く免責という立場にたっており、責任を問う方が間違っていると解釈している)。

これはこれで筋は通っているのですが、責任なんか取る必要がないと思える考え方に日本人とは異なった医療哲学をみた思いがするのです。これらの中国人スタッフからしても接種するワクチンが有料のものと同じ製品だという説明を受けた時には、究極の共産主義だと苦笑していたのです。

■いざ蓋を開けてみると、私達の目の前に起こった現実は日中の医療スタッフの想定をはるかに超えたものでした。
「友達からクーポン券をもらったから接種してくれ」はあるだろうと思っていました。しかし、
・「大人は打たなくてよいから、その分子供を2人打ってくれ(投与量はトータルでは同じでしょうと考えている)」、
・「他の病院ですでに打ったので、その病院での接種代を払ってくれないか?」、
・タクシーで病院まで来たのでそのタクシー代を請求する人、
挙げ句の果ては、
・「ワクチンは接種しなくてよいから、ワクチン分のお金を診療所の治療費から引いてほしい(医療費の割引券と勘違いしている)」、
などなど我々を唖然とさせるような光景が連続で繰り広げられたのです。自分の健康をなんと考えているのか?、日本人もここまで落ちぶれたか、と正直日本人としてほとほと嫌気がさし、さらに悲しくなった出来事でした。

中国人スタッフが私に言った「中国では未発達の農民でもここまではしないよ」に、私の本件にまつわるストレスは頂点となり、「日本人の皆様、あまり医療人をいらつかせない方が良い」という文面の広告を日本人社会に示してやろうよ!とはき捨てるように院長に言ったのです。

今の日本では、給食費を払わない、保育園料を払わないなど一昔前では起こりえなかったことが起こっています。今回の日本人が示したあまりの厚顔無恥さはそれと同じ流れであると感じています。



編集部より:読後の感想、意見、質問などはニュースレター連絡コーナーhttp://www.jomf.or.jp/ninq/index.htmlからご連絡お願い申し上げます。

●「北京の街角から~中国医療現場からの報告」索引コーナーhttp://www.jomf.or.jp/jyouhou/jigyou_iryou2/jigyou_iryou2_4.html#t