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ニュースレター(機関紙)

海外メンタルヘルスの現場から(76)海外赴任者のストレス~金融危機その後:海外現場の苦悩
NL09090102
メンタルヘルス、海外赴任、ストレス

海外赴任者のストレス~金融危機その後:海外現場の苦悩

シンガポール日本人会クリニック
小川原 純子

2008年8月に生じた世界的金融危機。その後、海外の現場でも様々な変化がありました。2008年末から2009年春にかけては、人員削減・コスト削減の立場から、多くの勤務者が、海外での業務の取り組みに変化を感じたようです。組織変更・工場縮小や閉鎖あるいはその検討が開始されたり、日本人駐在員数の減少や家族帯同赴任から単身赴任になられたり、予定外の早期帰国となり、シンガポールを離れた人も少なくなかったようです。

海外の現場に残った勤務者も、日本人駐在員の減少で「苦労を分かち合えなくなった」環境での孤独感や自分の責任範囲が拡大し、過労が続いている状況での身体的・精神的疲労感・どうしても期待された営業成績を残せない苦悩などから、心身の不調を訴えて、心療内科の外来を受診されるケースが昨年より増加しています。これ以外にも、今まではシンガポールを拠点に、海外出張を頻繁に繰り返す勤務であったため、家族は日本においてきて、単身赴任で頑張ってきた勤務者が、コスト削減の為に、出張回数を著しく減らされる事態となり、充実してない仕事や家族の居ないプライベートなどから、強い空虚感を訴えられたケースもありました。

この様に、会社本体の経営が難しい中で、海外勤務者にも様々なしわ寄せが来ているのが現状です。経営改善の為に、会社が海外の現場に求める数字・営業成績と現場の実際の景気回復状況とに、大きな格差があり、どうしても期待された数字が出せない焦燥と脱力感が続く人たちの中には、軽度の抑うつ状態が潜んでいる場合もあります。

会社全体から見た海外部門の立場や価値の変化が、当地勤務者にも実感されています。実際に、現地組織の縮小・リストラや工場縮小・閉鎖の業務に当たられている方は、精神的葛藤が大きいことを周囲に理解いただきたいと思います。当地従業員の解雇は、この不況の中で、大変言い出しにくい業務です。現在のある安定した状況に、楔をさす役は本当に難しいものです。そして、この職務遂行は、自らが努力して作り上げてきた立場の縮小を意味するところもあります。「この業務を終えて、日本に帰る自分の評価は、一体、どんなものになっているんだろう・・。」と思われるのは、当然かもしれません。

この夏休み明けから、男性赴任者の過呼吸患者さんが例年より多く受診されています。シンガポールで勤務する方々で、海外出張が非常に多い勤務者のケースです。ここの勤務者が出張する地域は、様々です。「マレーシア・インドネシアを中心に、インドからベトナムなどの南アジアが担当です」という方は、一般的な方ではないでしょうか。「自分は、モーリシャスからニュージーランドまでが担当です」とか、「この2ヶ月間の出張は、ヨーロッパ・日本・アメリカを予定しています」とおっしゃる方もいます。船舶輸送や金融市場を扱う業種などでは、「24時間仕事が動いている状態が普通です」という方もいます。仕事とは、本当に大きなエネルギーを必要とするものです。精神的エネルギーを使い続け、睡眠不足を引きずりながら、「次のスケジュールがあるからどうしても、このフライトに搭乗しなくては・・・」と、義務感や焦燥感が強い時に、初めてのパニックを経験されるケースが少なくありません。

世界的金融危機から1年。海外の現場でも、蓄積されてきた赴任者の精神的疲労感を実感します。重大な精神疾患や自殺行動に発展しないように、お互いが日常の中で支えあう必要性を感じます。