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ニュースレター(機関紙)

北京の街角から~中国医療現場からの報告~第18章「免許の更新」
NL09080104
医療情報、中国


北京の街角から~中国医療現場からの報告~第18章「免許の更新」

北京天衛診所顧問歯科医
中華人民共和国 歯科認定医
田中健一

先日、ある国際協力の勉強会があり、私も参加しました。
その会で、ある北海道出身の女子学生(ここでは医療系学生ということに留め、学校名や専攻分野は明かさないことにしておきましょう)と懇談する機会を得ました。
私がなぜこの医療の分野を志したの?と聞くと、「母親から腕に職をつけておいた方が良いと言われたから」と答えました。私はなんてまあ今時の学生さんは、良い言葉で言えば純情、悪い言葉で言えばバカ正直なんだろうと思いました。あなたのような有名大学の方がそんな志の低いことでどうするの?もっと将来こんなことをやってみたいという大きな志を語ってくれてもいいんじゃないの?ここは海外を経験している海千山千の医療関係者が集っているから、ためになる示唆が得られると思うのだけど、と思ったのです。初対面のおじさんに正直に語ることの是非は別にし、この志望理由で私達日本人が前提としすぎていて、顧みられることもない点が今回の本題である免許についてです。

医療分野で「腕に職をつける」ために必要なのが免許です。私達医療人は一度国家試験に合格し、それぞれの免許を取得してしまうと、その免許は一生有効であると考えています。厚生労働省の審議会である医道審議会にでもかけられない限り、医業停止・免許取消になることはありません。
医道審議会とは事件や不正や医療過誤を起こした医師などを行政処分を審議する会で、刑事事件の犯罪を犯し罰金・略式・執行猶予などの有罪判決が確定した医療人が審査の対象となります。医業停止でも最長期間が3年、仮に免許取消となってしまった場合でも5年後に再免許の申請をすることができる場合があることからしても、医療系の人間が有しているそれぞれの免許は個人が所有するものであり、刑事事件を起こし実刑判決を受けない限り、国家が介入することがないのが日本における免許に関する考えです。

それに対して中国は免許に対する考え方が全く異なります。免許は医療を行うために国家が提供するものであると考えています。免許は2年毎に更新しなければなりません。私のような外国籍の医療関係者は更新は毎年です。日本のような保持できるというシステムに慣れた人間にとっては、更新する際は毎回、もし更新できなかったらどうしようという考えが常に頭をよぎるのです。

今年から中国籍の医療関係者の更新は5年に延長されました(外国籍は1年)。これを緩和と見ると大間違いです。更新に際し、医療機関に属していることを証明しなければならないのです。つまり、医療に従事していることを証明できないと免許が更新できないのです。このことを教えてくれた王看護師に対して私は、

1.保健所などで公衆衛生などの仕事に従事して治療にあたらない人はどうなるんだ

2.医療とは関係ない医療機器開発などの仕事をしている人はどうするんだ

3.そもそも出産・育児で医療現場を離れた人は更新できないじゃないか

と突っ込んだのです。すると、王看護師は私に

1.更新が必要な免許は臨床医師であり、公衆衛生などの仕事に従事する人が持つ資格は公衆衛生医師といい、免許そのものが異なっている(中国では医療であっても臨床と公衆衛生を区別しているのです。)

2.関係ない仕事をしている人が免許を所持し続ける必要性はない。医療免許とはあくまで医療を行うためのものである。免許を取得した後に、他の分野を志しそれがうまくいかなかったからといってまた医療に戻り仕事ができるなど、医療はそんな薄っぺらなものではないのですよ。なぜか同感。

3.出産・育児などによって臨床を離れる人を考慮したから更新の間隔を5年にした。そもそもこれだけ技術進歩の激しい時代に5年も臨床から離れたら、臨床についていけなくなるんじゃないのか?うーん、これもなぜか合理的のように感じられる。

私はたとえ5年以上臨床から離れていても、ちょっとやれば思い出すんじゃないかな、と素朴な疑問を伝えたのです。だから5年従事してないからといって更新できないのはやりすぎじゃないかな、と聞いてみました。すると、ここの免許を管理する衛生部は、国家が授与した免許は技術を保証するものであり、ちょっとやれば思い出すなどというほど医療は浅はかなものではないし、それだから資格としての重みがあると判断しているはずだと、切り返されてしまったのです。

免許とは技術と道徳を合わせ持った人間が有するもの、この当たり前の考えに行きついた時、腕が悪いのでどこも雇ってくれない人は免許の更新ができない(所属する医療機関が無いため)、2003年SARSの際、日中友好病院に勤務する医師や看護師が勤務を辞めたために免許を没収された(SARS指定病院に勤務しながら恐ろしくなって辞めたスタッフは、それだけで当局のブラックリストに載せられているからあとに雇う医療機関が存在せず)、その結果、免許の更新ができなかった意味が分かりはじめたのです。

免許とは医療を行うためのもの、ステイタスでもなければ、腕に職を持たせるレベルのものでもないのです。国家が医療人に対して免許証という紙切れによって生殺与奪権を持ってしまうのです。

私個人的には中国のやり方にも違和感を覚えますが、日本のように取得してしまえば一生ものという考えは(私にはありがたいですが)今の社会感情にそぐわないと考えています。統一の研修を受けるような仕組みとして5年毎に更新するような仕組みが合理的と考えますが、皆さんは如何お考えですか?




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