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ニュースレター(機関紙)

北京の街角から~中国医療現場からの報告~第16章「退職すること」
NL09050104
医療情報、中国


北京の街角から~中国医療現場からの報告~第16章「退職すること」

北京天衛診所顧問歯科医
中華人民共和国 歯科認定医
田中健一


先月、診療所の日本人事務スタッフであるIさんが退職しました。彼女は診療所で受付を仕事をしています。業務が自分自身で完結しやすい私とは比較にならない程、受付の仕事は中国側スタッフとの接点が強いので、彼女が退職に至った経緯を知ることは、中国で働いていくうえで私にとっても非常に示唆に富むものでしたので、今回はここで紹介します。

中国において、新しい職場での勤務が始まる際、周りのスタッフが日本のように「新人がうまく職場に馴染めるよう配慮する」なんて甘っちょろいことはまずありません。業務内容とその流れを責任ある立場の同僚が一回は教えるけど、二度と教えることはありません、あとは自分で試行錯誤していきながら自分の力で覚えていくのです。

病院の受付という仕事は、病院利用者の会計をしたり電話を取次いだりと、私が考えても困難そのものです。さらに、処方箋にかかれた薬の名前から患者の支払う薬代を計算するのは(二百以上の薬の一覧表から該当する薬を探し出すわけですから)、処方する先生の処方のくせがわかるまでは、仕事に自信が持てません。仕事に慣れるまでは、時間がかかるのは当たり前と日本人なら思います。しかし、周りの中国人受付スタッフは、仕事に時間がかかることを、のろい、仕事ができない、と同義で考えています。はじめての仕事なのですから、PCへの入力ミスがあって当たり前、仕事は徐々に覚えるものという日本人的甘えがあるのですが、それを中国人スタッフは能力が低いと考えてしまうのです。ここに摩擦が生じる余地が生まれます。

そして、その緩慢により中国人受付スタッフ自身の業務にまで影響がでた時、往々にして辛辣な罵声をその新入りである日本人に浴びせるのです。発せられる言語が中国語であれば、難解な語句であっても多少中和されるのですが、その言葉の持つ意味が100%理解できる日本語で発せられるため、多くの日本人スタッフはこの言葉が一層心に突き刺さるのです。習慣の違いといってしまえばそれで終わりになってしまいますが、多くの日本人は辛辣な言葉を受ける経験を持っていませんので、傷付き悩むのです。

私が察するに、Iさんは30代ですから、ある程度の社会経験はしているはずなのですが、試用期間の3ケ月がたとうという時、診療所を去る決意をしたのです。駐在員を基準に考えると見過ごしがちですが、海外で勤務するにあたり日本からの派遣でない場合は、そうそう現地国民が日本語で意思疎通をはかってくれる職場はあるものではありません。それでも去ることになったのは、Iさんに対して向けられた中国人受付スタッフの言葉です。

とはいえ、中国人スタッフにも一理あります。自分が勤務しはじめた時、誰も懇切に教えてくれなかった、これが文化なんだ、なぜ自分が丁寧に教えてあげなければならないんだ、という気持ちです。私も自分の努力によって仕事を覚えてここまできたのだから、新入りも自分の努力で仕事を覚えろ!とある種、自己の経験が色濃く影響しているのです。さらに、仕事を教えても後からの見返りがない、一歩間違えば自分が仕事を失う(寝首を取られる)危険性があるのです。これも人口が多い中の過当競争がもたらした悪循環による弊害だと私は考えています。

なぜ他の日本人は手伝ってあげられないのでしょうか?ここで日本人スタッフが中に入って教えてあげられればよいのですが、懇切丁寧にできる素質のある人は、手際が悪い傾向があるから(手際の良い人間は人のことを手伝おうなんて配慮がない)、人の事まで気にかけていられないのです。

さて、このIさんが責任者に「今月で辞めます」と伝えた時、「はいわかりました」とすんなり了承されたのです。この現場に居合わせたスタッフによると、Iさんは責任者から留意されると思っていたみたいだったのですが、そのようなこともなく、そのことに対してIさん自身も動揺していたというのです。このスタッフは「それなら、先に私たちに言ってくれれば何とかできたかもしれないのに・・・と思いましたが、今となっては仕方がありません」と私に連絡をよこしました。結局、こんな背景を私が見抜けなかったのは苦恨そのものです。

今後、日本でも 仕事自体のパイが減少すると、今の診療所で見られるような傾向が顕在化すると私はみています。さて、皆さんの職場は新しい人が入ってきた時、働きやすい職場になっていますか?




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