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ニュースレター(機関紙)

北京の街角から~中国医療現場からの報告~第15章「農民の医療」
NL09040104
医療情報、中国


北京の街角から~中国医療現場からの報告~第15章「農民の医療」

北京天衛診所顧問歯科医
中華人民共和国 歯科認定医
田中健一

今までの中国医療に関する連載で、医療機関を受診する際の制限(フリーアクセスでないこと)、保険を使う際の制限(保険により給付される医療費に上限があること)について説明してきました。ここで一つ前提があります、これはあくまでも労働者を対象にした保険であり、人口の半数以上を占める農民はこの保険の枠外です。章をあらためて説明しますが、中国には戸籍制度があり、都市戸籍と農村戸籍という2つのどちらからに中国国民は分類されます。この戸籍は進学、就職をはじめとした人々の一般生活に大きな影響を与えています。

農村は電気の通じていない地区もあり、100年前の中国そのままです。医療にいたっても満足に学校を出ていない医師(医士と書き中国では区別している)が診療にあたっている農村も少なくありません。病気になっても満足に病院にも行けないし、行ったとしても治療費を経済的理由から支払うことができないのです。

NHKの番組で「明るい農村」という番組が私が子供の頃にありましたが、私が垣間見る中国の農村は-明るい-とはほど遠いのが実際です。リンゴを作っても1つ10円にもなりません。天候に左右されるうえ、せっかくできた農産物も仲買人に買い叩かれ、満足のいく収入が得られないのが実際です。可処分所得が少ないから、自ずと医療を受診できる機会が制限されてしまうのです。中国の農村(特に内陸の農村)が克服すべき問題は深刻です。共産党執行部も三農問題(農業、農民、農村)として問題は把握していますが、まだ有効な手立てが打たれていないのが実際です。

農民の医療問題の改善のため、作られた制度が「新型農村合作医療制度」です。2006年、農民一人当り10元/年を出し、地方政府が10元(豊かな地方は20元)拠出し、これを財源とした医療保険です。とはいっても、受診できる病院には限りがあり(農民が居住する地区にある衛生所)、診察後に全額治療費を負担し、その後に支払いを受けるため、まだまだ農民にとって負担は大きい制度です。

日本の医療保険が皆保険ですごい(素晴らしい、という意味ではない)と思うのは、低所得者層まで保険に入れたこと、1960年代当時所得の低かった農民まで「国民健康保険」として保険に加入させたことです。70、80年代を通じ3K(米、国鉄、国保)として大きな問題となりましたが、国庫負担の増加と組合健保からの拠出金によりどうにか保険制度を維持してきた経緯があります。しかし、中国では都市労働者の保険が農民の保険に拠出金を払うことはまずないと思います。整合性が取れないからです。

農民に対する医療制度の構築が求められている、しかし、肝心のお金を、国も地方もそして農民自らも、誰もが出し渋っている、それが「新型農村合作医療制度」そのものなのです。7億人の農民のうち、「新型農村合作医療制度」に加入しているのは20%に満たないのです。こんなことから、私は日本で皆保険を行うことができたのは、富の分配が国民に広く行き渡ったことにより、まがりなりにも誰もが保険料を負担できるような仕組みを作ったからだと考えるようになりました。世界の多くの国では今でも貧困にあえぐ人が多く存在し、保険すらありません。でも全体でみれば、こちらのほうが通常であり、日本の例のほうが稀なのだという目で「新型農村合作医療制度」を見ると、また違った見方(いたしかたない)ができます。



このような農民が病気になったらどうするのだろう(北京郊外の農村で)



北京首都医科大学付属口腔医院の受付。4文字の中国語の意味は「あなたのために働きたい」



○北京の裏道から~北京腐敗事情 (1元14円)

4月9日付の京華時報は元海淀区長であった周 良洛の告白を伝えました。今の北京をはじめとした中国の一端を理解できる事柄であるため、今回は「腐敗・汚職」についてこの記事をもとに紹介します。海淀区は人口1600万人を要する北京市の中で19ある行政区の一つで、ここ10年で外資の導入やITブームにのり大きく発展した区です。以下、事件の概要です。

北京市規律委員会は2007年より周 良洛区長周辺の財務調査の内偵をはじめ、ある一時期、一日で40万元もの資金が提供されていることを突き止めたのです。そして、最も多い時には800万元の資金が不動産業者から渡されたのです。現金の他に、企業は周 良洛区長に対し一見さんお断りの専用のクラブで美酒、美女を伴った接待が行われたのです。美女に支払われる給与は企業が出し、さらに、その額は周 良洛区長を満足させた程度によりさらに手取りがかわるという、まあ、何ごとも競争原理を取り入れた中国らしい非常にわかりやすい仕組みでした。
周 良洛区長の堕落のはじめは93年に遡ります。有能と誉れ高かった周 良洛区長は情報収集のため、多くの人と交わりました。そのため、昇進につれてより多くの人が周 良洛区長との接点を求めたのです。ここに、落とし穴がありました。

開発のためには当局の許可が必要であり、その全権を持っているのが区長です。ここに腐敗が入り込む余地が構造的に生じるのです。

この事件で私が注視したのは、もともとの腐敗のはじめは、単純な資金提供であったことです。決して、企業に便益を提供した見返りとして企業から周 良洛区長に裏金が提供されたのではないことです。まず先に企業は現金を周 良洛区長に提供し、後で企業に返してもらう(便宜をはかってもらう)という考えです。このあたりは、これから政権を取ろうという党首の周りとそう大きな違いはなく、人の国のことをとやかく言う筋合いではないのですが、私はその動く額の大きさに驚いたのです。
今回、明らかにされた額は氷山の一角であり、その裏にはもっと多くのお金がアメリカドルなどの形で海外に秘匿されていることは想像に難くないでしょう。

結局は「関係作り」にお金が必要であり、関係ができれば、自ずとあうんの呼吸で話ができるのです。まあ、このあたり日本でもが似たようなことが間々ありますので、私にとってはわかりやすいです。いみじくも王先生は私に「中国では権力は金、日本では金は権力」です、どっちの国が良いのでしょうね?と言いました。中国では権力を握れば金は自然についてくる、それに対して日本は金がないと権力は握れない、というのです。なぜか妙に言い当てています。

この事件のことで私が奨学金を提供している高校の責任者である高 主任に感想を聞いてみると、高 主任はこう言いました。今の中国には以下のようなことわざがあるというのです。

年齢是个宝

文凭不能小

能力是参考

関係最重要

(年齢=先輩は貴重、学歴も小さくない、能力も参考にする、しかし、最も重要なのは、その人と良好な関係があるかどうかだ)。

関係があれば非合法が合法になるんだよ。それに続けて同僚の李先生も、高校の前のビルは狭い土地にもかかわらず高い建物になっている、どうみても許可がおりない建造物であるのに建築許可がなされている。これなんか開発業者から監督当局にお金が流れている証拠じゃないか、と。

誘惑に負ける行政官が悪いのか、接待攻勢をかける企業が悪いのか、いずれにせよ、今の中国の一面を物語る事件でした。動く金の規模の違いに、さすが中国、人口も多いが金もでかい、とみるか、発展途上国にみられる不可避の構図と見るかは皆さんにお任せします。

この報道では、獄中で周 良洛元区長は「権力観=私物化したこと」、「金銭観=金銭の虜になったこと」、「社交観=誤った人間と交友したこと」、「生活観=堕落した生活に陥ったこと」、「誠実観=快楽に浸ったこと」がなかったと懺悔していると報じ、記事を結んでいました。

もらうことよりもその使い道がひどかったから、告発の対象になったのであり、もっと大きな行政区の区や省ではもっと腐敗の規模が大きいのではないか、と思ったのは決して私だけではないはずです。


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●「北京の街角から~中国医療現場からの報告」索引コーナー
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