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ニュースレター(機関紙)

北京の街角から~中国医療現場からの報告~第13章「医療保険と保険料 その3」
NL09020104
医療情報、中国


北京の街角から~中国医療現場からの報告~第13章「医療保険と保険料 その3(1元=13円)」

北京天衛診所顧問歯科医
中華人民共和国 歯科認定医
田中健一


中国の医療保険における退職者を含む高齢者の扱いはどのようになっているのでしょうか? 私はこの問題について把握するまで「皆保険」とは、皆がどこかの保険に入っている程度の認識で皆保険について深く考えることはありませんでした。日本の制度と比較して中国の退職者に対する医療保険制度は大きな特徴が二つあります。

一つめは、男性で25年、女性で20年間勤務していない労働者は退職後 医療保険の継続はできないことです。つまり、ある年限勤務していないと退職後は無保険になってしまうのです(全額自己負担)。

日本は皆保険であるため、勤労者が退職した後は退職者医療制度に移行します(自己負担は2割か3割で全額自己負担にはならない)。

皆保険でないということは、企業が勤労世代は責任を取るが、退職後は制度が分かれる(企業がOBに対して責任を持つか、一切責任を持たず放り出すか)ということです。企業がOBにかかった医療費まで負担する場合は、企業の競争力を大きく削ぐことになります。

具体的にアメリカの自動車メーカーの業績が芳しくない理由の一つにOBに費やす医療費の大きさがあります
(Legacy costといいます)。企業サイドからいえば、定年退職1年前に入った職員の医療費まで負担するのでは、他国メーカーと同じ土俵で競争できないよ!という本音があるはずです。
かといって、日本のようにどんな方でも国民健康保険(1/2は税金)で引き受けましょう、となると国家財政に負担がかかりすぎると、中国は考えます。

このバランスを考えた時、中国が考え出した制度が、保険加入に年限を設けるということです。
男は25年、女は20年間保険料を支払った者だけが退職後も被保険者として医療保険の適応を受けることができます。こうすれば、拠出と受給がすっきりします。期間に満たない労働者が退職後も医療保険に入り続けたい場合、期間に足りない月分を払うことによって保険を継続できます。この点は日本の年金と同じ考えです。

二つめに高額療養費がないことです。高額療養費とは月の医療費の上限が80100円を超えたら、超えた分の支払いは3割負担ではなく、かかった医療費の1%の負担でよい、という制度です(日本において、70才未満で一般の所得額とされるカテゴリーの例です。)。

例えば、基準額を100万円超えた医療費の場合、患者の追加負担は1万円ですみます。この制度により、多くの患者は入院において大きな負担感を感じることがありません。
中国では外来の場合には2万元、入院では10万元と保険で給付される上限が決まっており、上限を超えたら全ての額を自己負担しなければなりません。分りやすい言葉で言えば、高額な医療費まで保険は責任を持たないということです。
誤解を恐れずに言えば、企業の互助会で宴会をする際に、居酒屋の宴会には補助を出すが、高級料亭での宴会には補助しないと考えると、制度的には整合性があると私は感じています。さらに、基準額以下であっても1%負担などと甘いことはなく、外来で70歳以下が30%、70歳以上で20%負担です。入院では5万元までは労働者における自己負担の2/3(15%程度)、5万元を超えると30%に跳ね上がります。

こういう制度だから、勤労者世代の保険料の負担を軽減できていると言えます。医療費の高騰を保険料の上昇で吸収する国が良いのか、財政健全を確保するため、高額な医療費は保険として負担せず、自己責任とするのが良いのか、当初、日本の制度を信奉していた私も最近はどちらが良いのか迷うようになりました。

後期高齢者医療制度は老人に死ねというのか、などと騒いだ政党もありましたが、中国から見ればこんな政党の主張は検討にも値しない夢物語で、自民党の政策すら、人民公社の時代に時代を引き戻す国家反逆罪に匹敵する愚策といえるのです。つまり、今は保険とは最低限の生命を保証するもの、医療の付加価値である上乗せ、横だしの部分は家族の力で、という強いメッセージがあるのです。

退職者を始めとした高齢者の医療費にどこまで保険はカバーすれば良いのか、答えのない禅問答だと私は思います。中国の退職者に対する制度を日本に導入できるでしょうか? 後期高齢者制度(高齢者の負担は1割)であってもこれだけもめたわけですから、到底無理です。中国の医療保険制度をマニフェストに折り込もうなら、今の日本では国会の議席を一議席たりとも獲得できないことは確かだと思います。政権がいとも簡単に崩壊することが必定だと思います。しかし、誤解を恐れずに断言すれば、世界の制度を基準に考えると、日本の高齢者は制度的に甘やかされています。70歳になれば誰でもが老人保険に加入し、負担以上の便益を享受でき、さらには高額療養費制度によって、上限を気にすることなく、医療を受けることができるからです。そのツケを勤労者世代が負っていることを考えると、高齢者世代にも応分の負担を求めるのは当然なのではないか、と思うのですが、皆さんは如何考えますか?

メリットとデメリットがはっきりしていて、ただ乗りは決して許されない制度設計に中国はなっています。こう考えると、日本の医療保険制度は真面目に保険料を払っていて、健康に留意している人ほど損をする制度になっていると私は感じています。


○北京の裏道から~東京までの時間の巻(1元=13円)

北京で私の行き付けレストランの一つに「斉天楼」があります。斉天楼は北京家庭料理のレストランで典型的な庶民の食堂です(ガイドブックには掲載されていない)。この店は料理が豊富(なぜか上海料理や四川料理まである)なこと、美味いこと、さらに価格も安いこと、によりいつ行っても店内は多くの市民で賑わっています。夕食でもスープに料理一品、ビール大ジョッキ1杯でしめて30元です。

店は外国人居住区でない場所にあるため、ここを訪れる外国人は滅多にいません。そのため斉天楼の店員さん(服務員という)は外国人である私を珍しがって、私に日本のことをいろいろ聞くのです。
このレストランに働いているほとんどの服務員は貧しい農村の出身です。生まれ育った地を遠く離れ、北京にでて来て働いている人も少なくありません。

勤務は過酷そのもの、朝10時から夜10時まで、昼の時間の休みを除いて一日中働きづめです。お客の注文を聞き、それを厨房に伝え、料理ができたら皿を運ぶ、お客が立ち去る時、会計のお金をもらい、お釣をもらってくる。そんな単純労働が12時間続くのです。おまけに1週間のうち休暇というものはありません、月月火水木金金の世界です。
仕事が終われば、もう深夜、一部屋10人の寮に帰りバタンキューだと思います。休みといえば春節(旧正月)の時だけです。農村では仕事がないため、北京や上海の大きい町に出稼ぎにきて故郷に仕送りをするのが一般的な服務員の姿です。そんな服務員の給与は北京で1万円前後、私にとっては女工哀史や蟹工船の世界です。

服務員達の年令はおしなべて20歳前後。彼女、彼等にとり外国人である私の存在は面白いらしいのです。なぜなら私が彼女らが見る初めての外国人だからです。(私から見れば同じ中国であっても、出身の省が違えばもう外国人といえると思っているのですが)、さかんに外国のことを私に質問してきます(私は何も世界全てのことを知っているわけではないのに、世界のことをいろいろ聞く)。先日、他愛ないおしゃべりの後、以下の質問がなされました。(それも勤務中に、日本でお客とこんな話していたらマネージャーから叱責を受けること必定ですよ)。

Q:「あんた、どこからきたの?」(私の中国語は訛りが強いからすぐ辺境出身と思われるらしい)
A:「東京」(ホントは私の出身は埼玉県なのですが、外国で埼玉県と言っても誰も理解してくれないから、東京のはずれと説明してます、東京の方、自身の産地を偽装してゴメンなさい。)

Q:「東京からは飛行機で来たのそれとも汽車できたの?」
「えー?嘘でしょ?中国と日本の間には海があるから汽車なんかないのよ」と思いましたが、言っても詮ないことなので話をぼかしました。まだまだこういうレベルの服務員はいるのです。
飛行機で来たなどといえば、羨ましがられるのがオチですから、私は「飛行機って高いからね」と相手を傷つけないような答え方をしたのです。

帰りながら、このようなことから、遅れているから教育が重要と短絡的に結び付けるのは簡単ですが、香港と上海はどちらが南に位置するか?四川省は中国大陸では東にあるか西にあるか?と中国人なら誰でも答えられる質問に対して正答できる日本人は決して多くないだろうと考えます。この服務員の名誉のために付け足すと地理に関しては関心も重要だと私は考えます。

私に質問をした服務員の彼女は、兄さんと2人で内蒙古(内モンゴル)から28時間かかって北京に上京して来たと話してくれました。やはり都会に憧れ、一獲千金を夢見て故郷を後にしてきたのかな-とも考えながら注文した四川料理に箸をつけたのです。

新聞などではこの不景気にも関わらず9%成長と、まだまだ発展が期待される中国と報道されていますが、それはこのような無垢な若人の格段に安い労働力に支えられていることが前提にあるかもしれません。私はこのような中で、医療とはなにか?について考える日々です。

cf:香港は上海の南に位置し、四川省は中国大陸では東に位置します。



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