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ニュースレター(機関紙)

海外メンタルヘルスの現場から(70)「海外赴任者のストレス~急な帰国辞令」
NL09020102
メンタルヘルス、海外赴任、ストレス

海外赴任者のストレス~急な帰国辞令

シンガポール日本人会クリニック
小川原 純子

世界的な金融危機の影響が、シンガポールで生活する私たち日本人にも肌を通して感じられるようになって来ました。その一つが、この春に日本に帰国する人の増加です。
2008年夏ごろまでは、好況であったアジアの市場を反映して、日本人赴任者・家族は少しずつ増加してきたような印象でした。日本人小学校に通学している息子達のクラスに新しい転入生が少しずつ増えてゆくこと・サッカースクールに新しい子ども達が参加してくること・外国人が暮らすコンドミニアムに人気が集中し、家賃が高騰していることなどが生活の中で感じられる変化でした。

ところが、2009年に入って、状況が一変。海外出張が多かったお父さん達の出張が減り、工場のお休みが増えて、時間に余裕がある様に見える人もいます。そして、予定よりもずっと短い赴任期間で日本に帰国するお友達が多くいること。海外工場が閉鎖・縮小されたり、コストの高い日本人赴任者の数を減らしたり、帯同赴任していた家族を先行帰国させたりする企業が増加している影響でしょう。

今までは、「うちは、赴任期間は大体5年かな・・・」「子供が小学校を終えるまでは、こちらにいる可能性が高いよ・・」など、企業が赴任計画を提示し、それに沿って、海外赴任者や家族が、数年先の近い将来を予測できるようなケースも多かったように思います。余力のある企業では、子供の教育状況に一定の理解を示し、滞在期間を考慮することも行われてきました。

ところが、この未曾有の金融危機以降、企業本体が計画の変更や戦略の抜本的見直しを迫られて、以前、海外赴任者と交わした約束を守りきれない状態になっています。本来、帰国したら戻るはずであった部署や工場が閉鎖してしまい、元の自宅に戻れなくなる場合もあるようです。
赴任者の多くは、「一家のお父さん」ですが、お父さんは子供と交わした約束、例えば「小学校はこちらで卒業だよ。」「中学校は、日本の地元に戻って、元の仲間と一緒に入学しよう。」「大学入学と同時に日本に帰国するつもりで頑張ろう。」を守ることが出来ません。お父さんとして、つらい立場です。

企業としても上司としても父親としても、このような急な計画変更や帰国辞令をどうやって部下や家族に伝えたらよいのでしょうか。
予定外に、このような事態になったことは、きちんと伝えられるべきであるし、必要であれば、たとえ、わが子に対してでも約束を守れなかった事実は頭を下げるべきことかもしれません。10歳より大きい子であれば、今、どんなことが世の中で起きているのか理解する力はあるものです。きちんと状況を説明すれば、理解をして、気持ちを整理する余裕をもてるでしょう。

「事実を認め、正確に情報を伝える・都合の悪い事実から逃げない・頭を下げるべきは下げる」
こんな言葉を並べると、医療の現場と重なります。どんなに努力しても、予測できず、対処し切れなかった結果や事実を、患者さんに伝えなくてはならない時、医者もそこから逃げ出したくなったり、言い訳をしたくなったり、事実を誤魔化し、有利に伝えたくなったりしてしまいます。でも、そうすることが両者に不信感を募らせ、深い溝を作ってゆくことになるのです。

部下に対しても、子供に対しても、誠意を込めて事実を伝え、向き合うことをしなければ、金融危機から立ち直った時に、大事な何かを失くしてしまっていることもあるかもしれません。不都合な事実が多くあるからこそ、皆さんの力の見せ所なのです。