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ニュースレター(機関紙)

海外メンタルヘルスの現場から(69)「海外赴任者のストレス~こどもの行動範囲と自立」
NL09010102
メンタルヘルス、海外赴任、ストレス

海外赴任者のストレス~こどもの行動範囲と自立

シンガポール日本人会クリニック
小川原 純子

日本では小学校に登校するようになると、放課後のそろばん教室や習い事やサッカーの練習などには、徐々に一人で通うようになるのではないでしょうか。
私自身が、長い間日本を離れているので、子ども達の行動範囲というものにすっかり疎くなってしまいましたが、自分が小学校4~5年生頃には、母から簡単な買い物を頼まれて、自転車で近所まで出かけたものです。この間、東京の地下鉄で、放課後に一人で塾に向かう子ども達に出会いました。小学校5年生くらいのようでしたが、車内で、終わっていない宿題をせっせと解いている姿が微笑ましくもありました。

比較的治安が良いと言われているシンガポールですが、当地では、日本人のこどもが一人歩きする姿はほとんど目にしません。自転車で出かける姿は、全く目にすることは無いかもしれません。(地元の子ども達も、自転車を交通手段にすることは、ほとんどありません。)小学校高学年になると、公共バスを使って、慣れ親しんだ近所の友人宅に出掛けたり、数人の子供が一緒にサッカー・テニス・塾などに向かったりすることもあるようですが、1名の大人が同行していたり、事前に親が連絡を取り合い、到着や帰宅を確認し合っています。

南アジアの他の赴任地では、安全面の理由から、居住しているコンドミニアム内以外は、こどもの単独行動は全く出来ない地域も多いようです。もっと治安や交通事情が悪ければ、公共交通機関を使用して移動することは出来ず、家族の外出も、すべて専属の運転手さんに連れて行ってもらわなくてはなりません。「運転手つきの生活」等と聞くと、「さぞや素敵な・・・」と誤解してしまいますが、それ位、窮屈な生活であるということです。

こどもの習い事にすべて同行する親は、時にヘトヘトになってしまいます。「今日は、下の子のバレエ教室」「明日は、お兄ちゃんのサッカースクール」「明後日は、バスに乗って公文」など、連日、夕方に外出をしているお母さんもあるほどです。シンガポールでは、こんな親の体力的負担を考慮して、習い事に送迎バスが付いていることも珍しくありません。
日本人小中学校・インターナショナルスクールの登下校も、ほとんどの生徒がスクールバスを利用しているので、自分で歩き、寄り道したり、探検したり、途中下車して行動範囲を広げたりする機会は、かなり少ないと感じます。こどもが行動するためには、親に依存するしかなく、どうしても、こどもの自立が遅れがちになるもの、海外赴任中の特徴かもしれません。

そのことが、よい方向に働いた事例もありました。
日本で、かなり精神的に荒れた中学時代をすごしていた中学2年生女子。親に注意され、面白くないことがあると、かなり激しい親子喧嘩となり、折り合いが付きませんでした。その度に、彼女は家を飛び出し、何日も‘先輩’の家に寝泊りし、帰宅しない日が頻繁にあったそうです。

そんな彼女が、お父さんの海外赴任について、「日本では、お金が無いから仕方無し」に南アジアで生活することになりました。赴任当初は、「私を日本に返して!!」と親に食って掛かる毎日でしたが、治安の悪い地域ですから、家から飛び出してゆくわけにもゆきません。勢いで外に出ることはありましたが、どこにも行くところが無く、家に戻って来るしかなかったそうです。日本の友達とは、初めから、長電話をしていましたが、実生活での生活体験が少しずつズレルにつれて、話が合わなくなったと感じるようになったそうです。それよりは、日々の生活を共にしている、母親の方が、話をしていて共感できる部分が多くなったことも感じてきていました。
そんなこんなで、2年余り掛かりましたが、今では、以前より、ずっと疎通性の良い親子関係になっています。


一方で、このような親子の依存関係が、親の支配・子供への過集中・過干渉を助長し、こどもに息苦しさを与えていたり、こどもが窮屈さを「怒り」として家庭内で発散するようになったりするケースにも出会います。家族がどうやって上手い距離を取り、こどもに自由を与えながら、自立を促すのか?海外生活では、難しい問題です。