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ニュースレター(機関紙)

渡航医学のABC その4 航空機と新型インフルエンザ
NL08110105
医療情報、海外渡航


渡航医学のABC その4 航空機と新型インフルエンザ

渡航医学センター 西新橋クリニック 院長
日本渡航医学会 副理事長
元日本航空インターナショナル 主席医師
大越裕文

いま、新型インフルエンザによる世界的流行(パンデミック)が発生するのではないかと心配されています。そこで、気になるのが、航空機内での感染です。数年前、SARSが流行した際、機内で感染するのではないかと、多くの乗客の方がマスクを着用して搭乗されました。新型インフルエンザが発生した場合、海外から帰国される予定の方々にとって、機内の感染は特に気になる問題のはずです。
しかし、意外なことに航空機内では、感染症にかかるリスクは決して高くはありません。

航空機内での感染
機内で感染症患者さんが搭乗した場合、ほかの乗客の方々にどのくらい感染を起すのかについて、いくつかの報告があります。インフルエンザに関しては、参考になりそうな最近の報告がありませんので、SARSと麻疹の報告を紹介いたします。

1)SARSの場合
2002年から2003年のSARS流行期間中に、世界中で40のフライトにSARSに感染した患者さんが搭乗しました。その後の調査で、他の乗客に感染をさせたのはわずかに5つのフライトだけで、機内で感染した方の数は37人であることが判明しました。感染させた患者さんは、いずれも咳などの症状がある方ばかりで、感染した乗客の方は、その殆どが患者さんの前後に着席していました。また、空港での体温チェックなどによる検疫強化後は、機内で感染した方は発生していません。

2)麻疹の場合
感染力が最も強い感染症といえば、麻疹で、その感染経路は空気感染(飛沫核感染)、飛沫感染や接触感染です。麻疹の感染力の強さを簡単に説明しますと、麻疹の免疫がない人たちの中に1人の患者さんがいたとすると、12~14人の人があっという間に感染するほどです (インフルエンザの場合は1~2人)。航空機内に麻疹の患者さんが搭乗されることがありますが、ほかの人に感染させるケースは極めて少ないようです。例えば、2004年に日本からハワイの7時間のフライト(307名搭乗)で麻疹患者が搭乗しました。しかし、機内感染は1例も起こりませんでした。

以上の報告をみると、航空機内では、感染症が蔓延する危険は小さいようです。その理由はいくつかありますが、最大の理由は、航空機内には、空気感染や飛沫感染を抑止する働きをもった換気システムが存在していることです。その他、事前に感染症患者を搭乗制限させていることや機内で感染症の疑いがある人への対応がとられていることがあげられます。

機内の換気システム
まず、機内の空気は約3分毎に交換されています(50%は再換気です)。次に、 空気は上から下に流れ、前後には流れないようになっていますので、飛沫は前後に広がらず、すぐに落下してしまいます。 さらに再換気される空気は、再び機内に入る前に高性能HEPAフィルターを通って来るため、ウイルスや細菌が殆ど除去されます。 すなわち、換気システムが正常に作動していれば、感染症が蔓延するリスクはそれほど大きくはないといえます。

逆に、この換気システムが止まってしまうと、感染症が蔓延します。かなり以前の話になりますが、アラスカで数時間出発が遅れた飛行機の機内にいた乗客の72%がインフルエンザにかかっていた一人の乗客から感染してしまったという事例がありました。このとき、機内の換気システムは止められていました。

感染症疑い患者が発生した際の乗務員の対応
IATA(International Air Transportation Association)は、感染症の疑い患者さんが機内で発生した場合、他の乗客への感染リスクをできるだけ少なくするように対応ガイドラインを出しています。航空会社間で多少の違いがあるものの、客室乗務員は、このガイドラインに従った対応を取るように教育されています。
1.出来るだけほかの乗客から離す。
2.対応する乗務員は一人とする。患者に接する場合は、手袋などを着用。
3.できれば、トイレの限定 。
4.咳をしている方には、外科マスクの着用を頼む
5.同行者に症状を確認。
6.機長に状況を報告し、機長より管制官に連絡。

機内での対策
新型インフルエンザは、まだ発生していませんが、通常のインフルエンザと同様に飛沫感染と接触感染が主な感染経路と考えられています。新型インフルエンザが流行した場合には、検疫も強化されますので、航空機内で感染するリスクはより小さくなると思いますが、機内で発病するケースも想定されます。近距離からの飛沫感染(くしゃみなどによる飛沫)と接触感染は避けられませんので、手洗い・うがいに心掛け、マスクくらいはいつも用意しておきましょう。また、空港までの移動や空港内での感染リスクは、機内よりも高いかもしれませんので、同様の注意と可能な限り人と距離を保つように心がけてください。



編集部より:8月より渡航医学の専門家によるシリーズを開始しました。ご執筆頂く大越裕文先生は航空医学の専門家でもあります。今回は航空機とインフルエンザがテーマです。
読後の感想、意見、質問および今後取り上げて欲しい話題のリクエストなどを受け付けます。webmaster@jomf.or.jp 宛にメールでお送りください。
著者のサイト:渡航医学センター 西新橋クリニック
http://www.tramedic.com
「渡航医学のABC」索引コーナー
http://www.jomf.or.jp/jyouhou/jigyou_iryou2/jigyou_iryou2_4.html#abc