• ホーム
  • 基金について
  • 海外医療情報
  • お勧めリンク集
  • よくある質問

ホーム > 海外医療情報 > ニュースレター(機関紙)

ニュースレター(機関紙)

海外メンタルヘルスの現場から(68)「海外赴任者のストレス~夫の浮気」
NL08110102
メンタルヘルス、海外赴任、ストレス

海外赴任者のストレス~夫の浮気

シンガポール日本人会クリニック
小川原 純子

シンガポールの心療内科では、夫婦の相談・家族の相談を受けることは少なくありません。
その中で、最も多いのは、パートナーの浮気。特に、土地柄でしょうか、ご主人の浮気から生じる家族の心身不調の相談が、多く寄せられます。「夫の浮気」という現実は、海外で家庭を守ろうとしている奥さんにかなり大きな衝撃を与えるようです。
私自身は、浮気相談の専門家ではありませんが、心の傷が広がって、お互いの信頼感が回復できずに、家族関係の破綻に発展するケースが目に付きます。

Aさん夫婦は、結婚14年目をシンガポールで迎えました。中学生と小学校の高学年の子供二人に恵まれ、日常生活の中で、ささやかなもめ事があっても、基本的には幸せで、順調な生活を送ってきていました。ご主人は、元々、温厚で家庭を大事にするタイプの方。シンガポールに来てからの4年半は、海外出張や深夜までの会食が増え、家庭を空けることが頻繁でしたが、折を見ては、家族との買い物や子供の習い事にも同伴し、家庭的な方でした。
そんなある日、1本の電話から、ご主人に3年来のアジア人彼女がいることが発覚。
それからが、大変な騒ぎになりました。奥さんは、発覚した事実に混乱し、泣いたり、怒ったり、責めたりと、大きな感情の変化が続きました。食欲も低下し、家事をこなすのがやっとの状態です。連日、深夜まで話し合いが続きます。「どうしてそうなったのか?」「どんな付き合い方をしていたのか?」「何をしていたのか?」など徹底的に追及。ご主人は、誠意を持って説明し、「俺が悪かった。二度とこういうことはしないから。」となりますが、二人の距離は平行線のままです。

シンガポールの日本人社会は大変狭く、よほど信頼できる友人でもいなければ、他人に相談に乗って貰うわけにもいきません。また、自分の親や親戚も、遠く離れすぎているため、「相談しても心配をかけるばかりだから・・」と、難しい問題ほど、相談しづらいそうです。

結局、この問題は、夫婦のみで解決するという選択をすることが多いようです。夫が仕事をしている間、奥さんは一日中、「どんな彼女だったのか?」「いつ頃からの関係だったのか?」「どんな展開を夫と彼女が繰り広げていたのか?」「夫の言動の、どこまでが嘘で自分が騙されていたのか?」など、ジーっと考える羽目になってしまいます。シンガポールは、子供達が登校してしまうと、考える時間がやたらと長く持てる国ですので、それが、裏目に出ます。考えが煮詰まった頃に、ご主人が帰ってくるので、またまた、衝突・話し合いとなるようです。憔悴し、前向きな結論を出せない日々が続き、精神的にも追い詰められて、心療内科の外来にご夫婦で受診に見える方が、シンガポールでは、年に10件近くあります。

意外なことに、家庭が上手くいっている夫婦の浮気は、思いの他、深い心の溝を残します。関係がギクシャクしていた夫婦ほど、「パートナーの理不尽な行動は、自分にも原因があったのだから・・・」と、関係修復が早くなる事もあるのです。
ある奥さんから「自分は何で悲しかったのか、何であんなに涙が出たのか考えてみたら、『あの人を愛していて、その人を奪われたことが哀しかった』わけではないのです。『自分のプライド』を傷つけられたことが許せなかった。」「何年間も、騙され続けていた自分が悲しかった。」これは、なかなか意味深長な言葉です。この自己愛の傷つきが、最終的な問題解決の鍵になるようです。奥さんの心は、ご主人がいくら謝っても、すぐには許してくれませんし、信用を取り戻すには、かなりの時間が必要です。一番短くても、3ヶ月。長ければ関係修復に2年以上掛かります。

アジアという土地柄か、心療内科の外来には、こういった夫婦の相談はこれからも続いてありそうです。ある夫婦は、1年半も掛かりましたが、関係が修復され、前を向いて二人で進んでいます。ある夫婦は、別居という選択をし、奥さんと子ども達が日本で生活することになりました。また、ある夫婦は、離婚という選択をしています。

一つの典型例を紹介しましたが、他の家庭の事情を知ることで、『浮気』という出来事が、家族全員の人生に大きな影を落とすことを想像してみることは、将来のリスクを回避するストッパーになるかもしれません。