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ニュースレター(機関紙)

随想○北京の裏道から~オリンピック狂想曲 ボランティア事情の巻
NL08090104
医療情報、中国


随想○北京の裏道から~オリンピック狂想曲 ボランティア事情の巻


北京天衛診所顧問歯科医
中華人民共和国 歯科認定医 田中健一

8月8日に始まったオリンピック、それに続くパラリンピックは9月17日成功裡に終了しました。9月18日付け当地の新聞は「史上最も偉大なパラリンピック」という見出しを使って大会を総括しました。


観客席にてのひとこま(中国の応援団)


その競技の模様はこれまでもメディアで多くが報じられていますので、今回は大会を裏方として支えた多くのボランティアに焦点をあてて紹介します。オリンピック、パラリンピックを通じ多くのボランティアが大会運営に携わりました。新聞報道によると、競技場での運営、鳥の巣の内外における観客の誘導はもちろんのこと、空港および市内での通訳、道案内、競技場に続く地下鉄での身体検査などなど大会に関係したボランティアの数は100万人を超えるとのことでした。競技場付近にたくさんのボランティアが配置されている光景は、私も合点がいくのですが、私の病院のある地区(観光地には程遠い住宅地)など会場から20kmも離れたところにまで、ほぼ2kmおきにボランティアスタンドが建ち、数名のスタッフが常駐しているのには、感嘆に値すると共に何がここまで中国人をボランティアに突き動かすのかと私は考えたのです。


市内に設置されたボランティアスタンド(パンフレットの配付、道案内、通訳を行う)


今回、多くの中国人病院スタッフと意見交換し、なぜ100万人を超す人々がオリンピック、パラリンピックのボランティアに参加したかについて私が出した結論は「オリンピック、パラリンピックを開催することは先進国への仲間入りを意味すること」という考えを多くの中国人が共有していることです。「国家100年の夢」「国際社会において認められる」こともよく聞きました。そして、自分がボランティアとしてオリンピックに携わることが、国家の先進国入りに寄与することになると多くの人が信じている節があるのです。だからこそ、国家に奉仕するため多くの大学生が夏休みにも関わらずボランティアに参加したのです。

大会期間中、選手村の食品衛生管理スタッフとして携わった柳先生(専門は婦人科)は、選手食堂では多くの大学生のボランティアが食器の洗い物に従事している、普段なら洗い物など決してしない学生達(一人っ子政策のもと、北京の子供は基本的に甘やかされて育てられている)が率先して選手の使った食器の洗い物をしている、と私に話してくれました。さらに、これらの学生は選抜された学生であり、一般のボランティアとは異なり、選手村に配属されること自体が名誉なことであり光栄と思っている、と私に教えてくれたのです。さらに、柳先生は今回の大会は中国国民が団結したから開催ができたと私に興奮して言いました。私は、まあなんて大袈裟な、そんな単純でわかりやすい理屈でオリンピック、パラリンピックを総括してしまって良いのだろうかと思うのですが、大多数の中国人は柳先生と同じ考えであることを感じます。

国家の発展のため人民が国家に奉仕し、個人の不便を受け入れるのは当然である、この考えは中国ではコンセンサスを得ていると感じています。なぜなら、交通渋滞を緩和するため車両のナンバープレートによって北京を通行できる車を制限する(車は月の半分は運転できない)ことも問題なくできました、病院の外来時間が短縮になっても公には問題にはなりませんでした、工場も大気汚染緩和のため操業を中止しました(現に空気は大いにきれいになった)、学校の新学期も変更されました(入学試験の日まで変更された)などなど。オリンピック、パラリンピックを成功させることが全てに優先される。

こう考えた時、私はこれじゃあ、現代版「文化大革命」じゃないかと思ったのです。1960年代、多くの若者は毛沢東の唱える「為人民服務」を達成するため夢を持って農村に出向いた(それを下放という)、誰もが自分が革命の一翼を担っていると信じていました。毛沢東の時代は奉仕する場所が地方の農村でしたが、現代は村は村でも北京のオリンピック村にです。昔は服務する対象が農民でしたが、今はその対象が外国人です、皆がオリンピック、パラリンピックを遂行することに酔っているという点で、過去を破壊することに酔っていた文化大革命と大きな違いはあるのだろうか?と、物事を斜からみる私は考えるに至ったのです。

歴史的な大事業に当事者として携わっていることで自分も幸せになれる。その幸せになる機会をボランティアは提供してくれるのです。私のような外国人からみてもオリンピック、パラリンピックにボランティアとして携わっている人は輝いて見えるのです。


鳥の巣の内部の模様(陸上競技)


日本にも人々が輝いていた時代がありました。もっと働けばもっと豊かになれる、今日より明日はもっと発展している、それを日本国民が盲目に信じていた時代(20代の人は信じられないかもしれませんが)もあったのです。今回、自分もこうして輝いている人を冷めた目でみながらも、どこかで私も輝ける何かをしたいと時間が発つにつれ思うようになりました。こうなると私も毛沢東に謁見した近衛兵の1人になったのかもしれませんが、皆さんも自身が輝ける何かを探し求めてみませんか? 今の日本はオリンピック、パラリンピックなどという国家行事でなくとも個人が輝ける舞台は至る所に備わっていると私は信じています。


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●「北京の街角から~中国医療現場からの報告」「随想○北京の裏道から」索引コーナー
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