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ニュースレター(機関紙)

海外メンタルヘルスの現場から(66)「海外赴任者のストレス~若い独身赴任者たちの悩み」
NL08090102
メンタルヘルス、海外赴任、ストレス

海外赴任者のストレス~若い独身赴任者たちの悩み

シンガポール日本人会クリニック
小川原 純子

企業の国際進出に伴い、日本企業の若い人材が、海外に赴任される機会も増えてきているようです。海外での勤務を希望し、転職後、1年未満で海外部門に配属されたり、新卒で入社後、初めての配属が海外支社である方にも出会います。また、シンガポールでは、独身女性の赴任者も少数ながらいらっしゃいます。

日頃の診療を通して、「若い海外勤務者には、ある類似点があるのではないかな~」と思うことがあります。元々、体力・健康には自信がある。異なる環境に適応することを負担には思わず、楽しめる。選り好みせず、何でも食べられる。どこでも寝られる。バランスの取れた人格で、肯定的な自己像を持っている人が少なくないように思います。さらに、忍耐力も持ち合わせている方が、赴任者として選ばれているようです。なので、自分が心身の不調に陥った時、一番、驚きショックを受けているのは、ご本人のことが多いようです。「いや~、自分は大丈夫と思っていたんですが・・・」こんな言葉をよく伺います。
では、一体、どんな問題点が潜んでいるのでしょう。

【苦労を分かち合う仲間の欠如】

「若いうちの苦労は、買ってでもしろ」といわれますが、365日苦労のし通しでは、人間の精神はへこたれ易くなるでしょう。特に、自分一人だけが、苦労の連続であるという状況では、精神的に大変不健康です。「別の会社・別の部署だけど、同期入社や大学の友人たちもそれぞれ、一人前の社会人になるために苦労しているんだよな!」という暗黙の社会の連帯感が、若い人を疲労から守ってくれていることもあります。

海外での職場は、国内と比較すると規模が小さく、若い世代の海外勤務者にとっては、同年代の交流が著しく減少し、苦労を分かち合う機会が絶たれてしまいます。今は、メールや携帯電話などで、気軽に海外からでも日本の仲間と連絡が取れるでしょう。ただ、海外勤務という環境は、日本で働く仲間には分かりにくく、心から苦労を共有することが難しいのです。

【今更、家族には相談できない】

大学も卒業し、社会人として一歩を踏み出したのですから、どんなに孤独で苦しくても、親に泣きつくことはしたくないという、意地があります。自分の弱みを見せられる恋人が日本にいたとしても、休日を共に過ごし、リフレッシュすることは出来ません。恋人のいない人は、当地で仲間を探したいと願っていますが、慣れない仕事に全力投球なので、週末に新しいことに挑戦するエネルギーはなく、疲れた体を癒すだけで終わってしまいます。特に、精神的孤独感を感じるのは、連休です。3連休を誰とも口を利かずに過ごしたら・・・本当の休息にはならないでしょう。

【海外勤務の職責の大きさと経験不足】

皆さんは、企業に所属して、どれくらいの時間をかけて、ある程度の仕事がこなせるようになりましたか?
1年目は、与えられた課題ですらこなし切れない。2年目は、1年間の流れが分かって少し余裕が出てきますが、まだまだ、自分の時間を仕事のやりくりをするほどにはなりません。やはり、3年掛けると、やっと、自分で工夫したり、挑戦したり、ある時には時間のやりくりをして、週末の個人的な飲み会にも参加できるようになるかもしれません。こんな風に、社会人としては、まだまだ半人前の時期に、海外赴任を仰せつかると、職責と実力のアンバランスに押しつぶされてしまうこともあるようです。

海外部門が急速な発展を遂げていたり、業務を拡張している企業の場合には、今まで30代中半の人がこなしてきていた仕事が、20代後半の人に引き継がれることも少なくありません。海外では、個人に掛かる判断や職責が、国内勤務よりも数段に大きいようです。経験がまだ不十分なのに、大きな責任を負わされることというアンバランスで、体調を崩す人は少なくありません。

【自分の人生設計が立たない】

20代の若い時期から海外赴任し、アジアや海外の専門として実力を買われると、5~6年経ても、依然として海外赴任に出ているという場合も少なくありません。時には「海外専門」「アジア専門」という様に何となく周囲から認識され、日本に帰国する機会も居場所も逸してしまう場合もあります。

こんな場合には、結婚や家庭作りといった『自分の人生』の大切な時間が国外で過ぎてしまい、30代に入って、やっと出来たゆとりの中で、自分の人生を考え、強い焦りを覚え始めるようです。ある人事専門家の方が、「若い世代に、いかに仕事に集中できる環境を与えるかも、人事の仕事です。」と、新聞に書かれていましたが、若い世代が、安心して、自分の人生を企業と共に歩みぬけるような環境提供も考える必要があるでしょう。仕事以外の余分な不安を減らすことが、結局は、仕事の質を上げることになるのです。


これから、企業の国際化と共に、多くの若い世代が海外赴任を経験するようになるでしょう。定期的に日本国内の研修を開催したり、出張ベースで日本での居場所を確認したり、また、日本の若い世代を海外に研修に出したりなど、世代をつなげる努力も必要になってくるかもしれません。