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ニュースレター(機関紙)

北京の街角から~特別編 餃子中毒事件~
NL08020104
医療情報、中国


北京の街角から~特別編 餃子中毒事件~



北京天衛診所顧問歯科医
中華人民共和国 歯科認定医 田中健一

 この原稿が皆さんのお手元に届く頃には、北京はすでに春節(旧正月)を終え、日常の活気を取り戻していることでしょう。中国では多くの人が旧正月に実家に帰り親族と共に時間を過ごし、新年を祝います。そのため、大都市を出発する飛行機、列車、バスは軒並み超満員になります。旧正月はまさに国民大移動という言葉がぴったりの年中行事です。この時に食卓を囲んで食べるのが餃子です。

 一方、日本人にとって関心のあることは、今回、農薬の混入によってひき起こされた冷凍餃子問題です。

 北京からほど遠くない河北省にある天洋食品が製造・出荷した冷凍餃子を食べた幼児を含む複数の人が下痢やめまい等の中毒症状を訴えた、と1/31の朝刊各紙は第一報として報じました。その後、日本では禁止になっている農薬であるメタミドホス(医療関係者ですらこの名前を知っていた人は多くないはずです)が検出され、続いてその毒物の混入が餃子の製造中なのか、流通中なのか、さらに、1ミリ大の穴が開けられた跡があることから、故意によるものなのかどうかについて焦点が移ってきたのです。事件報道が加熱を帯びるにつれて、冷凍製品の店頭からの撤去、餃子離れへと流れていきました。あげくの果ては、スーパーで買った漬け物が国内産だったのですが、その桶が中国製であったため、私の知人は漬け物を返却した、など過剰とも言える反応を示す人間も出るに至ったのです。


今回は(2月11日現在)、事件は収束していませんが、今まで明らかになったことを元に、この問題について検証してみたいと思います。

論点1 事件が報じられた後、輸入元であるJTフーズが記者会見をして謝罪したのに対し、製造元の天洋食品が謝罪の態度を一切みせていない(2/10現在)姿勢に合理性はあるのか?

この素朴な疑問に対して、多くの日本人はなぜ天洋食品は謝罪をしないのだろう(するべきだ)と違和感を感じているはずです。私はまさにこの点が日中の間に横たわる文化の違いだと経験しています。
つまり、日本の場合、結果が出た(つまり故意にしろ過失にしろ不正がバレた)場合、言い逃れをすることはさらに心証を害する、ということを経験で知っています。だから、慇懃無礼と分かっていても平身低頭で謝罪します。
一方、私の北京での経験によると、中国では同じことが起こってもまっ先に謝罪することは100%ありません。なんだかんだ理屈をつけては言い逃れをする、謝罪をしない文化なのです。そして、少しでも自分に有利なように交渉をできる人間が有能だと評価されるようです。医療現場においても仮に医療ミスが起こった場合、まず謝るなんてことはありません。この違いを理解してもらうことに、如何に日本人スタッフは苦労させられるか、そして、中国のこの点を理解できない日本人が多すぎるのです。非常に根が深い問題です。


論点2 事件に至った背景とは 過激な分子による犯行だけに帰着して考えて良いのか?

 前回、1月のレポートで、私が今の中国において最も大きな問題は、労働者の間の大きすぎる給与格差であること、を紹介しました。

いみじくも前回の報告で私が指摘したことが、今回、食の現場で起こったといえます。経済成長につれて、給与がアップすればそれなりに工場労働者の満足もあるのですが、実際の労働現場では、日本の蟹工船や女工哀史の世界も今の中国にないわけではありません。特に理不尽な理由で労働者が解雇されたり、労働条件が改善されない場合には、労働者が日本人にとって過激と映る行動に出たとしても決しておかしくないのです。日本においても戦後過激な労働争議があったことを顧みてもわかります。迂闊な推測は慎んでいるつもりですが、このままの流れでは過激な労働者が餃子の中に農薬を入れた、あたりに当局は落ち着かせたいのではないかと私は考えます。日本でも愛社精神なる言葉が普及したのは雇用が安定した高度経済成長以降であったと、この分野の研究者は結論づけています。

 結局、今回の事件は社会的背景など複雑な経緯を経てひき起こされており、過激な分子による犯行だけであるとはいえないだろうと私は考えます。

論点3 食の安全は自分で作る路線に回帰できるか?

 中国産は危険だから、国産食料でとか、自宅で作る、という論調もあります。しかし、カロリー換算で39%の食料自給率しか持たない国がどうやって国産だけでやっていけるのか、国産というだけでホントに安全か、と思います。輸入依存の食生活を見直せ、食料を他国に委ねると危険や無駄が生じる、などスローガンとしては理解できますが、実際には耕作放棄地が増えている現状に対しては効果的な手段が講じられていません。

 現地では餃子1斤(500g=通常50個)の価格は10元程で(1元=16円)、日本とは価格が全く異なっています。こんな事件にならなければ、安ければそれで良い、という消費者心理も少なからずあります。消費者にとり、食品のトレーサビリティーを厳格に運用しなければならないこと、その結果、製品コストは上昇すること、が今回の事件から得られた教訓でしょう。そして、安くて安全とは神話・虚構であるということを身をもって理解できた人だけが、自分の目と足で安全な食を求めると思います。とすると、食の世界でも安ければという層と安心のためコストを負担する層の二極化が起こり、俗にいう格差社会が到来していると言えます。

論点4 実際中国の駐在員に対し餃子を食べるなと言えるか? 言えないとすると企業として何ができるか、現地駐在員としてできること

 近年、日本では報道されていないだけで、中国では様々な食にまつわる事件が発生しています。例えば、鶏の飼料に色粉を混ぜて卵の黄味を紅くしていること、鶏に多量の成長ホルモンが投与されているため、鶏肉を食べると成長が加速されること(初潮が早まる)、があります。このような中、餃子を食べるな、とは指示しにくいのが現状です(じゃあ、何を食べれば良いのだ、となる)。

 言えることは、食の安全も企業による危機管理ととらえ、現地のマスコミ報道をまとめる、そして、一社単独ではなくなんらかの形で企業の連合体として情報収集、共有することが必要な時期にきています。

 日本から食の安全確保を調査する専門家を常駐させるという意見も出ています。今後、現地の日系医療機関は日本でいう保健所が行っているような機能を専門家と協力しながら、行う時期にきているのではないか、との事件を通じて思います。

結論

 今回の事件で私が学んだのは、日本は信頼関係でなりたっており、一度信頼を失うと消費者からそっぽを向かれ、その信頼を取り戻すには莫大な労力がかかること、を中国側にどう理解してもらうことが今求められていることです。中国では見た目が良くなければならない、という考えが有りがちです。この人達に、見た目は悪くても中身が安全である商品を購入したいと考える成熟した消費者が日本には多い、ということをわかってもらうべく、我々も中国に情報発信しなければならないでしょう。
「中国だから信用がおけない」ではなく、安心感のある製品提供は中国にもメリットがあることを伝えるWin-Winの関係作りこそがまさに今求められていることが、今回マスコミの報じない今回の教訓だと私は考えています。なぜなら、今の日本の貿易を考えるに、中国なしではやっていけない関係になってしまっているのですから。



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