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ニュースレター(機関紙)

北京の街角から~中国医療現場からの報告~第3章 人材事情
NL08010104
医療情報、中国


北京の街角から~中国医療現場からの報告~第3章 人材事情


北京天衛診所顧問歯科医
中華人民共和国 歯科認定医 田中健一

 春の足音が駆け足で聞かれるこの時期に、北京に来た日本人は黄砂(黄河より飛来する砂)の多さに驚きます。北京など華北と呼ばれる地域では、黄砂が目に入るとちくちくと痛いので、めがねをかけたり顔がすっぽりとかぶさるスカーフをして外出します。日本でいうところの日本晴れは少なく、どこか空がどんよりしている、そんな言葉がぴったりの街が今の北京です。ひどい時には黄砂によって太陽がすっかり隠れる日もあります。
  しかし、そんな気候の厳しさにもかかわらず、中国での滞在が長くなった日本人は、気候の問題よりもっと大きな問題があると考えているはずです。私が北京に勤務して以来、多くの日本人と話している間に共通した認識があることに気がつきました。多くの日本人がこの国の仕組みにおいて、最も大きな問題であると考えているのは、労働者の間に横たわる歴然とした給与格差のことです。

 私が属するスタッフの総勢が100名に及ばない病院を考えても、日本では信じられないくらい給与に違いがあります。その差は一桁どころか実に二桁になるのです。これは私のような日本の制度に慣れてきた人間にとって天文学的な違いと考えてしまうのです。私がいただいている月給が一部のスタッフにとっては年収以上のものであることがわかった時、驚きを通り越してショックでもありました(こう書くと破格な待遇を得ているのではと誤解されますが、そんなことはありませんよ・・・)。
 それでも業務能力に圧倒的な違いがあれば、それはそれで納得できるのですが、一桁も違いがあるのかと自問自答すると自分自身に自信がなくなってしまいます。実際、事務職にとどまらず看護など医療スタッフを見渡しても日本スタッフより中国スタッフの方が中国の医療に精通しています。また外国人が参画している外資系病院では入職するに際し何段階にもわたる試験が行われ選抜してますから、技術において遜色はないというのが私の判断です(大きな違いは何かについては別章でコメントします)。

 今日は中国の医療の一端を理解してもらう目的で、中国スタッフで看護師をしている張さんのことを紹介しましょう。張看護師は中国で看護師の資格を取得後、難関といわれる留学試験をパスし、日本で6年にわたり苦労して勉学しました。小学校の子供を上の学校で勉強させる学費を稼ぐために片道1時間以上もかけこの病院に通ってきます。1時間というと日本では決して遠いと思わない距離ですが、北京では、なにもまあそんな遠いところから・・・と言われるくらいの遠さにあたります。
 彼女は看護師としての仕事の他、通訳など他の業務もこなしてくれています。さらに中国の医療現場に不慣れな私達をいつも叱咤激励してくれます。ある程度気心がわかるようになった頃、張看護師は私に「今度家が開発のために取り潰されてしまう、その見返りにはスズメの涙ほどしか保証金が貰えない」こと、また「実父が脳梗塞のため倒れて仕事の後は看病が必要なこと」を話してくれくれました。 自分がいただく給与が日本人スタッフどころか、新しく入ったスタッフより低いことを張看護師は知っています。しかし、誰か必ず自分を評価してくれると信じている張看護師は決して自分から給与を上げてくれとは言いませんでした(今の北京では自分の昇給は交渉により勝ち取るもの)。そして、私は彼女の気持ちがわからないまま、そして中国側の給与体系まで口をはさむのは越権行為だと考え、この点に触れないままにし時間が経過してしまったのです。

 はからずも彼女の実力に目をつけたのは他の外資系病院でした。彼女くらいの実力があれば給与として倍だしてももとが十分とれるとこの外資系診療所は考えたのです。診療所にとって必要な人材であれば昇給という形で報いることが経済成長率10%をこえる今の北京で必要なことなのです。そして、現地スタッフの昇給を執行部に具申することは、越権行為などではなく、自分がしなければならないことだと理解したのは、彼女がこの外資系診療所に移ってしまった後だったのです。昇給がないことにより、私はこの診療所から必要とされていないと解釈されたようだと、人づてに聞きました。有能なスタッフを失うという手痛い経験をして私は、0%成長に慣れた日本人はまだまだこの10%成長というものが表す意味が理解できていないことを学んだのです。



北京の病院の外来に出されていた表示より。写真の中国語は「患者に対し質と量を第一にしています」という意味です。質とはサービス、量とは人材と医療機材を意味しています。




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