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ニュースレター(機関紙)

海外メンタルヘルスの現場から(59)「海外赴任者のストレス~好調企業の中にみる‘うつ’」
NL07120102
メンタルヘルス、海外赴任、ストレス

海外赴任者のストレス~好調企業の中にみる‘うつ’

シンガポール日本人クリニック
小川原 純子

シンガポールは、多くの企業にとって、南アジアの重要な拠点である。シンガポール支社が、アジアの統括拠点であるという企業も少なくない。ある大規模製造業社のシンガポール支社長さんは、世界を4分割して、自分は「アフリカ・インド・東南アジア・オセアニア」を担当しているとおっしゃっていた。出張で各拠点に出向き、トラブルがあれば常に対応できるように準備しておくと、「本当に身がもたない」そうだ。余程信頼できる部下としっかりした組織がなくては、この広範囲の業務は支えられない。

こういった「組織の頂点」に立つ方々の孤独感・孤立感は、メンタルヘルスの大きな関心事項である。海外赴任地ならではの独特な苦労・リーダーとしての本音や弱音。リーダーこそ精神的不調になる条件が揃っていそうだが、実際に、不調になられる方はそう多くない。一つは、家庭での発散が非常に上手く機能している方が多いように感じる。夫婦関係が良好なのである。会社の中で、部下に見せにくい私的な面は、家庭で上手に発散している。また、リーダー同士の横のつながりを大切にし、立場的な共通点がある人同士で発散していることもある。こういった「発散の上手さ」もリーダーの素質の一つであろう。

若い世代には、どんな苦労があるのだろう。最近、「景気が好調で、ビジネスが拡大傾向にある企業の若い人」に、過労を基にしたうつ病を見出すことが多い。


ある30代後半の男性は、こんな話をして下さった。「自分は、日本では、1つの工場の経理を担当していました。ところが、当地では、経理だけやっているというわけにはいきません。営業と技術の担当者のサポート、地元部下の管理、時には接待といった対外的な業務まで入ってきます。日本から個別に来る本社社員の接待もかなりの時間をとられますし・・。最近は、在星が長くなってきたので、営業も一部やって欲しいと言われていますが・・・。全部引き受けていたら一体どこまでやればいいのでしょう?」身体的に移動距離はないものの、一人が分担する職務範囲が広すぎるというもの海外独特の悩みである。

30代前半の男性は、日本企業でディーリングの仕事を行っている。彼は、なんと休暇中のリゾートでも、飲み会中でも携帯電話とコンピューターがあれば仕事が出来てしまう。「世界中、どこかで必ず市場が開いていますから、仕事をしようと思えば、24時間365日頭の片隅から仕事は消えません。」日本勤務の時には、周囲の仲間もあり、それなりに上手に息抜きをしてきていたが、シンガポールで3人の事業所・しかもかなり仕事熱心な上司の元についてしまってから、仕事への緊張感が抜けなくなってしまった。

部品製造業に従事する20代後半の男性は、異例の昇進で当地の責任者になった。以前は、自分の上司として40代前半の上司が居たが、日本への昇進人事で自分がこの職務を引き継ぐことになった。この異動があって半年は、ただひたすら目の前の仕事をこなそうと必死で働いた。平日は夜遅くまで、休日も返上で、とにかく仕事を処理することを考えていた。ある時、自分の判断ミスで納品に遅れが出るというトラブルが2~3件続いてしまった。このトラブルで、ここまでやっとのことで回っていた判断能力が、完全に燃え尽きてしまった。思考が停止し、気持ちは焦るけれども、どうしてよいのかただただ不安だけが駆け巡った。

企業戦略として、海外拠点が成功を収めているところでは、仕事がどんどん増加の傾向にある。一方では、コスト削減に伴い日本人赴任者を増やさずに、優秀な社員への負担が増加する傾向にある。個人が自分の職責を果たすのに精一杯で、同僚・上司と共に、仕事や問題の共有が出来ずに、個人が問題を抱え込む傾向にある。大きな問題が発生した時や休暇をとってほんの数日仕事から離れたい時でも、「その担当者にしか分からない事項」が多すぎて、他人に任せるわけにはいかないようだ。
企業の成長速度が速すぎて、人材育成が追いつかないと、以前の担当者よりも若い世代の方々に仕事が任されることもある。経験が少なく、自己の判断に確信を持てない事柄においては、適切なアドバイザーが欠かせない。重大な局面で孤立させないことが、若い赴任者の精神的疲労を軽減させる。

海外の好調企業には、「過労によるうつ」の罹患者が少なくない。大事なことは、問題を一人だけに背負わせないこと・一時的になら誰かが肩代わりできる状況にしておくこと・相談者をつくることではないだろうか。大きな仕事・重大な仕事であればあるほど、チームで対応に当たるという取り組み方が重要である。そして、そのチームの中に、現地の従業員をどのように配置してゆくのかなど、バランス感覚を必要とする大切な課題が隠されている。