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ニュースレター(機関紙)

海外メンタルヘルスの現場から(58)「海外赴任者のストレス~海外勤務:上司と一体感」
NL07110102
メンタルヘルス、海外赴任、ストレス

海外赴任者のストレス~海外勤務:上司と一体感

シンガポール日本人会クリニック
小川原 純子

パニック障害で長年悩んでいた30代男性が、シンガポール赴任を命じられ、日本から来星しました。来星後、しばらくの間は、パニック発作が著しく悪化し、発作止めの抗不安薬を頻用していましたが、ある時期を境に、パニック発作の回数が徐々に減少し、それ以降、半年の間に心療内科の処方薬は半減しました。
仕事は、年々忙しくなり、責任も上がっているのに・・・。この方のパニック障害改善のきっかけは「直属の上司の交代」でした。

職場の人間関係は、就業者のメンタルヘルスに大きな影響を与えています。上司との人間関係がストレスとなり体調を崩して心療内科を受診することになった人や、直属部下からの攻撃で体調を崩してしまった人もいらっしゃいます。

「社会で働く=人間集団に所属し、役割を果たす」ということになるでしょう。

日本社会において、非常に重要な存在の「上司」。上司と「仕事の呼吸」が合うと、多少辛い仕事でも、力を合わせて乗り切ることが出来ます。そして、その過程からお互いに一定の達成感を共有できる良好な関係が築けると仕事への意欲ややりがいも増してゆきます。
上司との呼吸が合わないと、次第に職場で「呼吸をすること」「共に存在すること」が苦しくなるのです。

・ 呼吸が合うということ
職場では、1つの目標に向かって複数の人が努力を重ねてゆきます。皆が目指している目標ややるべき事項の優先順位が明確になり、一定の価値観やルールが固定された中で作業を進められているとき、全員の呼吸が合ってくるのではないでしょうか。
・こんな例
年に一度開催されている社内の海外経営戦略会議をシンガポール支店が開催することになりました。出席者は、会社の重役など失敗が許されない人たちです。日程調整・宿泊手配・会議の進行・当地でのゴルフの手配など、細部にわたり色々な事項を決めていかなくてはなりません。
直属上司は、細部にこだわる傾向があります。大事な事項が決まる前に、「昼食の席順はどうしようか?考えてあるかい?」「移動は、誰と誰を一緒にしようか?」と細かな状況設定に時間を掛けすぎで話が前に進みません。部下は、内心「席順より、今はもっと本筋の重要事項を決定しなくていいの・・・」と思いつつ、適当に相槌を打っています。こんなことに何時間も費やし、夕方になると、「君、会議全体の進行表はまだ出来ていないの?遅いよ。」と不機嫌な上司。部下は、「は~!!午前中、自分が席順などに時間を費やすから、こんなことになっているのに・・なんで、こっちが責められるんだ!」と怒り一杯で夜中まで残業をすることになりました。

この様なちぐはぐな雰囲気では、遅かれ早かれ、どちらかが不満で一杯になりそうですね。

・上司が求める一体感
上司は、時に部下に一体感を求めます。「君、どうしてこれをやってないの?」「君のやり方は間違っている。どうしてこう考えないの?」など、自分の考えや思い付きや考えを、部下にぴったり分かって欲しいと熱望する上司は、難しいタイプです。そして、最も難しいのは、「君には期待している。だから、君を鍛え直す。」「君のためを思って注意している。」と部下に覆いかぶさるような一体感を表出してくる上司です。
最初は、上司のこの気持ちは、「部下としての自分への期待の表れ」と感じ、期待に応えようとする方も多いのですが、上司の思うとおりに動かないと満足してもらえない関係に違和感を覚えるようになります。

一体感が強い上司は、自分の考えどおりに部下が動かないと、著しく落胆し、「君は期待はずれだった。」「君は努力が足りない。」「君は能力がない。」と部下の攻撃に転じるケースも少なくありません。時には、エスカレートして、部下の今までの経歴や能力や人格まで否定するような発言になってしまいます。
「こんなことも気付かないのか?」と細かい点を叱責されても、上司と全く同じ脳細胞を持っているわけではないので、全く同じには想像できないのです。実は、この様な「一体感」を期待する方が人間関係の中では、間違っています。
この上司の一体感に応えようとしすぎると、正しく「滅私奉公」自分らしさや自分の意見を押し殺して、上司と思考を一体にするしかありません。時には、これに価する上司に出会える人もあるでしょう。また、こういった立場を好んで出来る人もあるかもしれません。ですが、多くの人は、自分らしさを表現しながら、より自分を高める指導を受けたいと感じるのではないでしょうか?

・ 海外勤務と一体感
海外赴任や海外生活では、この「他人に求める一体感」が強く反映されます。シンガポールに来たばかりの赴任者とその家族は、大人でありながら、当地の社会的ルールにも明るくなく援助が必要です。「○○さんのために・・・」と他人が心理的に急接近してきます。
上司と仕事も一緒、食事も一緒、ゴルフも一緒、家族ぐるみでバーベキューをしたりと大接近。そして、仕事上では、現地のスタッフに求めにくい「日本人だからこそ、言わなくても分かるでしょう・・・」という期待感も加わります。
この、一体感と上手に心理的距離を保つことが海外勤務では重要です。
先ほどの例でいえば、「午前中のうちに大事な会議の進行表を作らせてください。これが済んだら、昼食の席順表に取り掛かります。」と宣言をし、自分のペースを相手に了承させること。相手が心配な事柄でも、自分にはそれ程重要に思えないとやんわりと伝えることは、「あなたと一心同体になれない」と主張することになります。会社関係とは別の人間関係を充実させ、上司が関われない自分の時間を持っていることを示すことも役立つかもしれません。
異文化の中で仕事をするからこそ生まれる、「日本人だから分かるでしょう。」という期待には海外職場での心理葛藤のリスクをはらんでいるようです。