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ニュースレター(機関紙)

海外メンタルヘルスの現場から(57)「海外赴任者のストレス~「場の空気」を読む力と海外赴任」
NL07100102
メンタルヘルス、海外赴任、ストレス

海外赴任者のストレス~「場の空気」を読む力と海外赴任

シンガポール日本人会クリニック
小川原 純子

「場の空気」というとても抽象的な表現ですが、人間が集団として生活し、周囲の人と協調して生きてゆくためには、「その場面、場面の雰囲気を感じる能力」が必要とされます。
感覚的に察知した場面の雰囲気に応じて、経験から学んだルールや教育から習ったルールに照らし合わせて、人間は無意識に声のトーンを調整したり、表情を選んだりしているのです。
例えば「お葬式」。この場面では、日本の社会通念上、笑ったり、背伸びをしたり、スキップをしたり、口笛を吹いたりしてはいけません。通常、顎をやや引いて、視線を若干下方に落とし、肩は張らずに歩きます。
誰がルールを作ったわけでもないのに、大方の人が同じように振舞います。子ども達でも、誰に強制されなくとも、周囲の様子を真似しながら、自然とそれらしく振舞えるようになるのですから、人間は「場に合わせる」というスキルを自然と獲得できるようになっているようです。

Oさんは、学歴の非常に高い会社員です。「『さようですか。』と相槌を打つと、相手に対して丁寧語になり、お客様に対して失礼がない。」と新入社員研修で教育されました。Oさんは、真面目な方なので、早速実践です。どんな時でも、きちんと「さようですか。かしこまりました。」と繰り返します。最初の数回の会話のやり取りでは、お客さんにも好印象ですが、数分もしないうちにOさんの評価は下がり、契約に到りません。「君の返答は、他人事なんだよ。もっと、お客様の気持ちになって。」と上司からは何度も叱られたり、時には、怒鳴られたりする時もあります。Oさんは、本当にお客様に喜んでもらいたいのに、自分のどこがいけないのか、上司が自分に注意しているポイントが分かりません。

Aさんは、実妹が結婚するので、大変嬉しく思っていました。結婚式の当日、妹から両親への感謝状が読まれると、Aさんは共に育ってきた間の色々なことを思い出し、涙が溢れて来てしまいました。そして、沢山の涙を流しました。ここまで書くと、とっても普通のお話ですが、Aさんの「泣き方」に問題がありました。本来、期待される泣き方は、「妹を祝福しながら、でも感動で涙が流れている」という情景です。ところが、Aさんはシクシクと、涙・涙になってしまい、「あの泣き方だとお葬式でも参列しているみたいだ」とか「余程の苦難を乗り越えて、やっとこの結婚式を迎えられたんだな~」と周囲が勝手の想像を膨らませてしまうほどです。そう指摘されたAさんは、一体、自分のどこがどうおかしかったのか分かりません。自分の気持ちどおりに行動したことが、他人に不快を与えてしまったことのほうがショックです。

Mさんは、とても勤勉な方です。仕事上は何も問題はありませんが、Mさんの問題は、仕事の後の私的な飲み会にあります。給料日前の後輩を、少し高めの居酒屋に誘っては、割り勘にしてしまいます。だから、後輩は、Mさんが嫌いなのではないのですが、飲みに誘われるのを避けるようになりました。職場の雰囲気を良くする為には、「後輩と一緒に飲みに行くことも必要だ!」と信じているMさんには、自分が、何故疎まれているのか分かりません。最近は「もっと、若い人が好みそうなお店を研究しようかな・・・」と思ったりしています。

皆さんの周りにも、いらっしゃいませんか、こんな方。悪い人じゃないんですが、ほんの少しだけ「場の空気を読み違えている」あるいは「取り出した答えが、ほんの少し常識の範囲からずれている」方々です。ご本人たちも、何となく自分はその場の空気に合わせて生活できないと、感じているので、余計に周囲を気にしているケースがあります。気付きの早い人では、中学生ぐらいから「同年代・特に同性のグループには居場所がないなあ。」と感じ始めています。そして、時には、自分が周囲から浮かないように、いつもビクビクし、他人の顔色を見ながら生活するようになってしまうのです。

日本人の『場の空気』をぴったりと読みきれず、居心地の悪さを感じて、海外に職場を求める人もいらっしゃいます。また、当の本人は、「自分の何がズレているのか」察知することが出来ず、一緒に仕事をする仲間のほうが違和感を感じ、その人を疎外していってしまうケースがあります。極端ではありますが、優秀であるけれども、日本ではチームの和を乱すために海外赴任を命じられるケースもあるようです。

Oさんは、「シンガポールの友人の中では、気楽であるけれども、日本本社や日本人上司との関わりは緊張し、苦痛である」と表現していました。
外国人として、母国語以外でコミュニケーションするという特殊な状況が、コミュニケーションのズレを目立たなくさせるのです。また、文化的背景がちがうという了解が根底にあるために、「常識的に許容される行動」の範囲が広がるということもあるでしょう。こういったことから、外国に居場所を見つけて、長期滞在する人もあるのです。