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ニュースレター(機関紙)

子育てのこころ(13) 子どものうつとひきこもり
NL07090105
小児科、発達

子育てのこころ(13) 子どものうつとひきこもり

国立成育医療センター こころの診療部 発達心理科
広瀬 宏之

●子どものうつ
 これまで、子どもの様々な発達について概観してきました。今回は、最近話題になり始めている子どものうつとひきこもりについて考えてみます。
 うつを簡単に言うと「こころのエネルギーが枯渇した状態」です。近年、子どものうつが思ったより多く存在することが明らかになってきました。欧米の研究からは、一般人口における子どものうつ病の有病率は児童期で0.5~2.5%、思春期・青年期では2.0~8.0%程度です。日本での頻度もほぼ同様と考えられます。(傳田健三著、子どものうつ病 金剛出版)
 子どものうつは症状が曖昧で、言葉の表現も上手にできないために見逃されることが多いのですが、社会の変化に伴い子どものうつ自体も昔より多くなっていると思われます。大人のようにやる気が出ない、何も楽しくないといった「抑うつ感」は明確には表現されません。子どもの場合、注意すべき点は(1)学校へ行き渋るようになる(2)頭痛・腹痛・微熱などが続くが原因がはっきりしない(3)眠れない、食欲がない(4)涙もろくなり自分を責めるようになる(5)好きだったことが楽しめなくなる(6)いらいらして攻撃的になる、といった点です。正確な診断は専門家に任せるべきですが、これらがあるとうつの可能性もあるということです。「さぼり」と思われて余計厳しい対応をされ、ますますエネルギーを失っていく子どもたちも見うけられます。その結果、学校に行けず家からも出られないひきこもりになってしまうこともあります。

●ひきこもりの場合
 一方、ひきこもりを主な訴えとする場合、うつ、学校でのいじめや学業不振による不適応、家庭環境、思春期では様々な精神疾患を考える必要があります。ひきこもりや不登校だけで医療機関にかかるのは抵抗があるかもしれませんが、生活の質がこれまでと違う場合や、不眠・身体の訴えなど多彩な症状がある場合、小児神経科や子どものこころの診療をしてくれる医療機関を受診してみてください。

●うつになりやすい子ども
 定型発達のお子さんより、なんらかの障害や病気を抱えている子どもの方がうつになりやすいと考えられています。また、普段と違った環境に長いこといたり、環境の変化に順応しにくい子どももうつになりやすいのです。病気で例えれば、てんかんのあるお子さんはうつや不安障害を合併しやすく、最近の米国の研究では、5~16歳のてんかんのお子さんで、うつと不安障害の合併率は33%と報告されています。一般小児と比べると格段に高い数字です。

●うつの原因
 うつの原因を一言で言うと気疲れです。うつになりやすい人は周囲に合わせるのが比較的得意です。連載一回目にお話しした過剰適応の傾向のある人がなりやすいのです。周囲に併せようとして気を使いすぎて、そのうちくたびれてしまうのです。また、まじめな人ほどうつになりやすいのです。まじめに、とことん考える人がうつになりやすく、適当に人生を過ごしている人はなりにくいのです。
 前頭葉の背外側前頭前野という部位は人間の情動発現に対して抑制的に働くと考えられています。これにより喜怒哀楽の様々な感情を「程々に」感じることができるのです。特に、悲しみの感情や否定的な感情を程よく抑制することは人間の生存に欠かせない機能です。この抑制が慢性的に欠如していると常に否定的な感情を味わうことになり、うつや不安障害になりやすいといわれています。まじめな人ほど、周囲からの刺激に一つ一つ反応して、その時の感情にさらされます。生きていると、良い感情ばかりとは限りません。嫌な感情にさらされたときに「こんなこともあるし、まあいいや」と考えることができればうつになりにくいのです。

●違いに敏感な子ども
 上で述べたように、周囲と違う状況におかれているお子さんはうつになりやすい傾向があります。特に、10歳くらいになるとどうして自分だけ違うのか、てんかんの場合ではどうして自分だけ毎日薬を飲むのか疑問を感じるようになります。この10歳という年齢はアイデンティティの確立が始まり、自分ってなんだろうと考え始める時期です。最初は自分と周りを比べ、同じであることで安心します。日本では特にそうです。同質性に安心することではじめて、他人と違うその子なりの個性を発揮することができるようになるのです。
 この年齢は周囲との違いを感じるだけではなく、違うことはいけないことだと思いこんでしまい、自分一人で悩み始める時期でもあります。うつや引きこもりが多くなるのもこの頃からです。 

●うつやひきこもりへの対応
 対応でまず大事なのは、違う状況にある場合は、それに対する説明をもう一度しっかりしてあげることです。外国にいるなど、その理由や見通しを話します。それをしないとどうなるか、例えばお父さんだけ単身赴任していたらどうなっていたかなど率直に話してみます。また、それをいつまでしないといけないかも話します。子どもの希望を聞いてあげることも大切です。希望にはそえないかもしれないけど、子どもがどうしたいのかを聞いてあげます。子どもはできないと思っていることは言いたくないし、大人もそんなこと聞きたくないかもしれませんが、言葉にして表現するだけで胸のつかえがおりることもあります。
 もう一つは、たとえ、他の人と違っていてもそれは間違っていることでも悪いことでもなんでもないとしっかり言ってあげることです。その子の人間性には何ら関係のないことで、自分が悪いわけでもなんでもないということを、その子の理解にあわせて話をしてあげてください。

●その子の対処行動と考える
 うつやひききこもり自体への本格的な対応を話すには残りのスペースが足りませんが、一番大切なことはうつやひきこもりは「その子なりの対処行動」だということです。「こころのエネルギーが枯渇している」状況を改善しようとその子なりの工夫をしているのです。こころから発せられたSOSと考えても良いかもしれません。つまり、エネルギーが枯渇したまま走り続けるとさらに具合の悪いことになってしまうからです。大人から見ると望ましい行動ではないかもしれません。でも、誰もブレーキをかけてくれないので、子どもは自分を護るためにそうするしかなかったのです。
 従って、親や周囲がうつやひきこもりを「その子なりの正当な工夫」として認めてあげること、無理して学校に行かなくてもよいと認めてあげることから治療がスタートします。休むこと、ペースダウンすることを保障してあげるのです。もちろん、「とりあえず」のことではありますが、これを認めてあげないといつまでも治療のスタートにたてません。医療の出番はその後です。



:編集部より:
「子育てのこころ」は昨年8月より連載を開始しました。広瀬先生は、当基金の会員用相談サービスである小児掲示板相談と電話相談を長年にわたって担当していただいています。
先生からは読後の感想、意見、質問などをお受けしたいとのご希望です。どうぞwebmaster@jomf.or.jp 宛にメールでお送りください。
●「子育てのこころ」索引コーナー
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●「小児医療の現場から」索引コーナー(小児相談担当医によるリレーエッセイ)
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●「2006年度 健康相談レポート」索引コーナー(広瀬先生による ジャカルタ発達・子育て相談 報告記 を掲載)
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