• ホーム
  • 基金について
  • 海外医療情報
  • お勧めリンク集
  • よくある質問

ホーム > 海外医療情報 > ニュースレター(機関紙)

ニュースレター(機関紙)

海外メンタルヘルスの現場から(56)「海外赴任者のストレス~中学生・高校生のうつ病」
NL07090102
メンタルヘルス、海外赴任、ストレス

海外赴任者のストレス~中学生・高校生のうつ病

シンガポール日本人会クリニック
小川原 純子

ある大規模調査で、中学生の中には、抑うつ状態を疑われるケースが少なくないと発表された。
乳幼児にも抑うつ反応と考えられる症状を示すこともあると言われている。
うつは、大人だけのものではない。

シンガポールの心療内科の外来には、子ども達の受診もある。比率とすると、大人の受診のほうが圧倒的に多いのだが、これからまだまだ成長してゆく子ども達の診察には、こちらも自ずと力が入ってしまう。

高校1年生(15歳)のA君は、6月頃に、担任の先生に付き添われて心療内科に来てくれた。実は、ここ4日間登校ができていないということだ。「勉強が出来ない」「宿題が終わらない」「夜中に急に胸が苦しくなり、息が出来ない」A君のご両親は、別の外国に海外赴任中で、A君は高校入学と同時にシンガポールで寮生活を始めていた。学校では友人も出来、寮生活も落ち着きを持って出来るようになった6月の夜、A君は初めて、呼吸の苦しさを覚え、不安で一睡も出来ない夜を過ごしたのだ。
そして、夜が明けてきた頃に、疲労と安心で深い眠りに落ち、次の朝は起きることができずに学校を休んでしまった。そこから睡眠のリズムがすっかり崩れ、登校する時間におきられなくなっている。

高校生2年生のB君は、8歳から両親とシンガポールで生活し、高校からインターナショナルスクールに入学した。最初は、授業についてゆくことで精一杯であったが、すこし精神的余裕が出てくると、自分の高校生活、特に友人関係が全然楽しくないことに気付いた。「楽しくない・・・」だけど、勉強はどんどん大変になってゆくので、学校中心の生活は変えられない。どうやって、気分転換したらよいか分からない。友達がやっている「夜遊び」について行きたいとも思わない。もやもやとしているうちに、どんどん食事量が増え、体重が1年間で20Kgも増加してしまった。そんな時、急に動悸を覚え、息苦しさを自覚するようになった。内科でいくら調べても、「異常なし」。「異常なし」と言われても、症状はあるし、何故か嬉しくない。こんな状況で心療内科を受診してくれたようだ。

中学生のC子さんは、夫婦仲の悪い両親と生活することにうんざりしている中学3年生。友達とワイワイすること・学校で盛り上がること、そして、高校受験をして寮がある高校に合格して親から自立することを目標にしている。中学3年生になって、学校から塾に直行する毎日だったが、5~7月は順調だった。親も、C子さんの激しい反抗期が終わり、この順調さにホッとしていたところもあったようだ。8月夏期講習で成績も上がり、安心し始めた矢先に、9月の実力テストで期待したとおりの結果が出なかったC子さんは、親の前で涙を見せるようになった。「緊張すると急にお腹が痛くなる・・・」「お腹が痛くなると、テストに集中できない。」「こんなんじゃ、私、ダメかも。」今までは、反抗的で手に負えなかったC子さんの変化に、親のほうもすっかり戸惑ってしまったそうだ。親の口から出た言葉は、「自分で決めた目標でしょ。」「今投げ出してどうするの・・・」強気のC子さんが弱くなればなるほど、親は不安になり、叱咤激励してしまう。すっかり元気がなくなったC子さんは、親に不安すら言わなくなってしまい、弱り果てたお母さんが心療内科受診を勧めてくれたそうである。

中学生・高校生にも、年齢にあった色々な悩みが存在する。大人から見ると、「もっとこう考えれば、簡単なのに・・・」と思うことでも、彼らにとっては重大な悩みだ。「長い人生で考えれば、あと数ヶ月我慢すれば、上手くいくのに・・」と説得されたって、10代の彼らにとっては、「日々」が大切なのだから数カ月先・数年先のために、今の時間を妥協することは難しい。

外来で、中学生・高校生と接していると、彼らの精神力はまだまだ発達途中なんだな~と実感する。感情は常にストレートで、そして脆くもある。些細なきっかけで、あっという間に「登校したくない。」「生きていたくない。」と言うこともあれば、友達の一言でさっと立ち直っていることもある。だから、上手に支えてあげると立ち直りも早い。
子供は、親以外・家族以外の依存対象を求める。親への依存を断ち切り、本当の自立に向けて、他の依存対象を探すのだ。その対象との関係が上手く行っているときは本当に生き生き出来るのかもしれない。中学生で考えると、同学年の友人・親以外の大人、例えば、塾の先生などが一時的に、大きな信頼感を獲得することが、この一例である。シンガポールでは心療内科の医者が相談相手になる事もある。

一番難しいケースは、この依存関係が急速に崩れたり、年齢にあった適切な依存関係を形成できなかったりする場合である。C子さんの場合は、典型的な例である。居場所がない家庭から外の世界に居場所を求めようとしていたが、その不安に負けそうになってしまったのだ。
20年先を考えれば、A君もB君もC子さんも、必ず、親から自立し自分の人生を歩んでいるだろう。その時に、「中学生の頃・高校生の頃、自分は辛かったけど、あの時、自分の人生を投げ出さなくて良かった。」「あの時の自分の苦労があってよかった。」と思ってもらえるようなそんな診療でありたいと思う。