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ニュースレター(機関紙)

子育てのこころ(12) 嗅覚と触覚と味覚の発達
NL07080105
小児科、発達

子育てのこころ(12) 嗅覚と触覚と味覚の発達

国立成育医療センター こころの診療部 発達心理科
広瀬 宏之

 今回は五感の残りの三つ、嗅覚、触覚、味覚のお話しです。

●嗅覚
 嗅覚は、五感の中でも独特な位置が与えられている感覚で、根源的な性質を持っていると考えられます。五感のうちで、感覚情報が感覚器官からダイレクトに処理器官に直行するのは、嗅覚だけだからです。
 臭いは、香りの分子が鼻の臭粘膜から臭神経を通って、脳の深部、辺縁系と呼ばれる部位にある臭中枢に到達します。
 嗅覚以外の感覚の情報は、いったん視床という中継基地を経由してから、それぞれの最終目的地へ運ばれます。視覚や聴覚で得られる情報は複雑で、あいまいな状況では誤解が生じやすいので、脳は判断を下す前に念入りに詳細を見きわめようとしているのです。
 嗅覚中枢のある辺縁系は、人間の脳の中でも原始的な部位です。原始的というのは、発生学的に昔から存在する動物にも共通に見られる、ということです。つまり、脳に直結した嗅覚の伝導路は進化の初期の名残と解釈することも出来ます。太古の昔、動物が生き残っていくには臭いをかぎ、快・不快や安全・危険を即断することが不可欠だったのです。 
 また、辺縁系の嗅覚野の近くには、扁桃体という情動や感情に関わる中枢があります。臭いが人の感情に強い影響を与えるのももっともなことと考えられます。
 赤ちゃんにとって、母乳を口にできるかどうかは、生存に関わる大問題です。野生の動物並みとはいかないものの、母乳やお母さんの臭いをかぎ分けられるように、生まれたての赤ちゃんでも、嗅覚は十分に発達しています。赤ちゃんの嗅覚は大人以上に優れているとも考えられています。

●触覚
 触覚は、正確には皮膚感覚(触覚、温度覚、痛覚、圧覚)の中の一つです。この皮膚感覚はいずれも、赤ちゃんでも十分に発達しています。やはり、触覚からの情報が生存に直結するからなのでしょう。
 赤ちゃんを抱いたりなでたりするときには泣かないのに、採血をするときに針を刺せば痛みを感じて泣きます。また、温かいお風呂に入っている時には気持ちよさそうにしているのに、冷たい水に手足をつけるとビクッとして泣き出します。このように、赤ちゃんは生まれたときからすでに十分な触覚の機能を持っています。
 触覚は皮膚ばかりでなく、舌にもあります。赤ちゃんは5-6カ月になると、口に入れて舐めることで物の質感を感じ取ろうとします。舐めると同時に、唇や口の周りの皮膚からの触感、物を持っている手の情報もあわせて、その物を認識しようとしているのです。
 生まれたての赤ちゃんの足の裏をこすると、その足を引っ込めようとし、反対の足でこすった手を払いのけようとする反射が見られます。この段階は、くすぐったいから払いのけてやろうという意識的なものではなく、生後すぐに見られる原始反射の一つでしかありません。本当にくすぐったいと感じるようになるのは5-7カ月頃からになります。
 赤ちゃんは、周囲の温度の変化をしっかり感じ取っています。ママの乳首周辺は他の場所よりも体温が高いため、温度を感じ取る力も使って乳首を探し当てているのです。ただし、自分で体温を調節することは苦手なので、衣類や布団、室温の調整で体温を調節してあげて下さい。

●味覚
 嗅覚や触覚と違い、味覚に関しては生まれつきの要素は少ないと考えられています。
 3-5カ月頃になり、原始反射が消失すると、何を食べさせても次第に受け入れるようになります。この時期から、いろいろな食物を摂取して味を体験し、記憶することによって、段々と味覚が発達し、味の好みが育っていくと考えられています。例えば、離乳期の頃から塩辛いものを食べ続けると、大人になってからも塩辛いものを好むようになります。離乳期の食生活は、味覚だけでなく大人になってからの食生活、健康にも影響を与えます。  
 一般に赤ちゃんは甘いものが好きで、苦いものや酸っぱいものを拒絶します。同時に、乳児は個人間に好き嫌いの差があり、好き嫌いは育った環境の影響を受けて発達します。
 フランスとアメリカの子どもを比較した研究では、油っぽい食べ物や甘い食べ物が好きで、野菜が嫌いな点が共通していることがわかりました。一方、アメリカでは牛乳がより好まれ、子どもも若者も食事のときに定期的に牛乳を飲みます。一方、フランスでは牛乳はあまり好まれませんでした。また、フランスとインドのように文化が大きく異なる国を比較すると、より大きな違いがあることがわかりました。
 好き嫌いの代表選手は野菜です。野菜には苦みがあります。子どもが嫌がるのはこの苦みなのです。自然界の有害物質に対する祖先の恐怖を蘇らせるために苦みが好まれないという、社会学的な説明もあります。また、単純に、野菜ではお腹がいっぱいになりません。当然、子供は空腹を満たしたいのです。
 子どもは野菜のほかに、鶏のレバーや動物の臓物、またニンニクやタマネギ、オリーブなど大人が好んで食べるような、味や食感に癖のあるものが嫌いです。
 味覚の性差はどうでしょう。思春期までは大きな違いはありません。女の子は思春期から、野菜や甘いものを好むようになります。一方、男の子は、動物性食品(肉やバター、牛乳など)を好むようになります。外見を気にするかどうか、性ホルモン分泌の違い、エネルギー摂取の必要度合い、などが影響すると考えられます。

●五感を大切に!
 乳児検診などで、赤ちゃんをお風呂に入れるのには何度くらいがいいですか、と聞かれることがあります。毎回お湯の温度を計測して、一定の温度にしてから入れているお母さんも、一人ならずいらっしゃいました。赤ちゃんに限らず、お風呂の温度は季節、体調、その日の機嫌、時間帯など、様々な要素によって左右されます。自分でお湯に手をつけてみて一番心地よい温度、もしくは赤ちゃんを入れたときにご機嫌な温度にしてあげるのが一番です。五感を信じて、自分の感覚を大切にして欲しいと思います。




:編集部より:
「子育てのこころ」は昨年8月より1年の予定で連載を開始しました。広瀬先生は、当基金の会員用相談サービスである小児掲示板相談と電話相談を長年にわたって担当していただいています。
先生からは読後の感想、意見、質問などをお受けしたいとのご希望です。どうぞwebmaster@jomf.or.jp 宛にメールでお送りください。
●「子育てのこころ」索引コーナー
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●「小児医療の現場から」索引コーナー(小児相談担当医によるリレーエッセイ)
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●「2006年度 健康相談レポート」索引コーナー(広瀬先生による ジャカルタ発達・子育て相談 報告記 を掲載)
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