• ホーム
  • 基金について
  • 海外医療情報
  • お勧めリンク集
  • よくある質問

ホーム > 海外医療情報 > ニュースレター(機関紙)

ニュースレター(機関紙)

続・話題の感染症10「食と感染症(海外渡航者を中心として)2」
NL07080103
感染症

続・話題の感染症10「食と感染症(海外渡航者を中心として)2」

海外邦人医療基金(顧問)
長崎大学熱帯医学研究所(客員教授)
日本医師会(感染症危機管理対策委員)
おおり医院 院長(神奈川県)
大利昌久


海外渡航中に健康問題が発生する頻度
海外渡航中に健康問題を発生する頻度を表6に示した。海外で病気にかかる人は、20~30%だが、そのほとんどは、表3(前号「続・話題の感染症9」参照)の中国の例のように呼吸器疾患や下痢性疾患である。
しかし、重症の人もいて、海外入院したり、手術を受けたり、死亡する人もいる。日本人の例では、毎年、生活習慣病の悪化に伴う心筋梗塞、脳血管障害の他、急性腹症、交通外傷などで約8500人が緊急に帰国し、約170~200人が海外で亡くなっている。



食中毒
食と感染症の海外での感染頻度を表7に示した。一番多いのは、細菌性によるもので、ほとんどが一般的な食中毒である。食材や水によって発病したことが、明らかな場合を食中毒という。キノコ、フグなど感染症でないものも、含まれる。
食中毒はどの国でも発生する。熱帯・亜熱帯地域では1年を通して、特に注意。秋から冬はウイルス性が多い。



食べる前に、食中毒をおこす食物かどうかを見分けるのは難しい。実は食中毒菌が増えていても、味もにおいも、色も変わらないのがふつう。「変なにおいがしないから大丈夫」「きれいな水は安全」コレが危ない。
手早く調理し、加熱してもなるべく早く食べることがポイントである。
良くある原因(食中毒)として、楽しいはずのバーベキューでカンピロバクター感染。作りおきした自家製マヨネーズでサルモネラ感染。新鮮だから大丈夫で、腸炎ビブリオ感染。炊き立てのご飯に生卵をかけ、サルモネラ感染などがある。
食中毒の主な原因菌と潜伏期間に表8に示した。サルモネラ、腸炎ビブリオでは、早いもので4~6時間で症状が出る。その臨床症状は、病原体の違いによって異なる。



便の性状による簡易診断法(細菌による便の違い)を図1に示した。しかし、確定診断には検便にて、病原体を確認することである。

(図1)



食中毒の予防対策
食材の注意と調理人の衛生教育がポイントである。生野菜は流水による洗浄を徹底し、肉類、冷凍食品は充分に加熱する。缶詰、瓶詰、真空パックの食品でも菌増殖がありうるのでチェックが必要。
調理器具の管理としては、熱沸と次亜塩素酸ナトリウムによって清潔に管理する。
調理する人の衛生教育が大切で、排便後、調理前には特に手洗いの徹底化を教える。手洗いは石けんで充分。
調理した食品は速やかに食べる。

代表的な食中毒の概要
                   
1)カンピロバクター
カンピロバクターは、鶏や牛、豚などの家畜やペットの腸管にすむ菌。なかでも鶏は保菌率が高い。
原因となりやすい食品は、生または加熱不十分な鶏肉料理。ただし、牛レバーの刺身でカンピロバクター食中毒を発症した例もある。
比較的少量の菌でも発症するので、肉類からほかの食品が汚染されても原因になる。井戸水が菌に汚染されて発症した例もある。
予防の第一は、肉類は中まで十分に加熱すること。鶏肉の場合、肉の中心が桃色から白く変色すればカンピロバクターはほぼ死滅する。
症状:腹痛、下痢、発熱(38~39度)、血便
潜伏期間:2~7日

2)サルモネラ
食中毒のなかでもとくに問題なのが、卵を原因とするサルモネラによる食中毒。毎年のように死亡例が出、日本では平成18年にも死者1人が報告されている。
原因となり易い食品は、生卵、自家製マヨネーズ、スクランブルエッグ、ババロアなど、生または半熟に加工した卵料理。
卵の殻も汚染されている可能性がある。保存状態が悪いと菌が増殖する。とくに暑い季節は卵の扱いに気をつける。なお、シンガポールではサルモネラフリーの卵が、日本から空輸され、デパートで販売されている。これだと、炊き立てのゴハンに生卵はOK。
その他、この菌はミドリガメなどのペットが保有していることも多い、ペットに触った手を洗うことも大切。
症状:腹痛、嘔吐、下痢、発熱(38~40度)
潜伏期間:4~48時間

3)腸チフス・パラチフス
患者糞便または尿、それらに汚染された手指、食品、水から経口感染が主である。
症状:
39~40℃の高熱以外、特記すべき症状のないことが多い。
比較的徐脈。
病初期の下痢は半数程度、必ずしもみられない。
第3病週頃に腸出血、腸穿孔で、重症化することがある。
潜伏期間:3日~3ヵ月、通常1~3週間

4)コレラ
コレラ菌に汚染された飲食物を経口的に摂取して感染する。経口摂取されたコレラ菌は、通常は胃酸によって、その大部分が死滅し、発症に至らない場合もある。胃切除を受けた人や高齢者では重症になることがあり、まれに死亡する。
主症状は水様性下痢で、重症例では激しい嘔吐を繰り返す。大量の下痢便の排泄による脱水症状により、チアノーゼ、体重の減少、頻脈、血圧の低下、皮膚の乾燥や弾力性の消失、無尿、虚脱などがみられ、また低カリウム血症による腓腹筋(または大腿筋)の痙攣が起こる。重症の場合は、入院加療が必要。激しい下痢のため、コレラベッドというお尻がすっぽり入るベッドが用いられる。このベッドで寝たまま、排便が出来るのだ。

(図2) 




軽症で軟便の排泄にとどまる例も相当多く、治療をしない場合は、数時間に渡って菌を排泄する。抗菌薬の投与は、菌の排泄期間を短くし、下痢の期間も短縮させる。
鑑定診断のポイント:
コレラ毒素産生性のO1またはO139血清型のコレラ菌の下痢便よりの分離
治療のポイント:
脱水症状の改善のための経口輸液または静脈内点滴。抗菌薬の投与、第1選択薬はニューキノロン系薬剤
潜伏期間:12時間~1週間、通常3日以内
伝播可能期間:
糞便中に排菌している間、適切な抗菌薬が投与されれば2~3日、未治療の場合1~3ヵ月。     
コレラ2話(後述)参照

5)腸炎ビブリオ感染症
夏に多い腸炎ビブリオ感染症も、食中毒として非常に重要。原因菌が近海海水中に常在していて、水揚げされる魚介類を汚染すること、しかもわが国の食文化として生の魚介類を好んで食べることが、とくに夏に腸炎ビブリオ感染症が多い原因となっている。
必ず4度以下(チルド室)で保存。
症状:激しい腹痛、下痢、吐き気、嘔吐・発熱。
潜伏期間:6~24時間 
腸炎ビブリオは、「耐熱性溶血毒」という強力な毒素を産生する。この毒素は下痢の原因毒素であるばかりでなく、心臓の拍動を止める「心臓毒」であることがわかっている。そのため、年間数万人と推定される腸炎ビブリオ感染患者の中には何人か、あるいは相当数の死者が存在するはず。
海水にすむ菌で、水温が20度を超えると急激に増殖するため、夏場の魚介類はこの菌に汚染されている可能性が高まる。
真水に弱いので、魚介類は流水でよく洗うことも大切。魚介類は調理したまな板、包丁、手などを介して、野菜などが二次汚染されて食中毒をおこす例もよくある。

6)黄色ブドウ球菌食中毒
2000年初夏、某乳業会社の牛乳の汚染によって10,000人を超える患者が大阪など近畿地方を中心に発生した。北海道の工場で生産した牛乳が原因で、生産ラインが停電した際に混入した黄色ブドウ球菌が増殖し、菌の産生した「エンテロトキシン」が末端製品中に混入して大事件となった。
黄色ブドウ球菌の「エンテロトキシン」は熱に強く、100℃の加熱によっても失活しないので、多くの人が食中毒を起こした。尚、食中毒以外にこの毒素はタンポンなどを通じて、膣の壁の小さな傷から血流に入り、子宮から腹腔へ入り、「毒素性ショック症候群」をおこす恐い病気でもある。この症候群を起こすブドウ球菌のタイプはわかっているものの、何が引き金になっておこるのかはまだ解明されていない。タンポンショックも見逃せない病気である。

7)病原性大腸菌
人や動物の腸管、下水などに存在。多くの種類があり、とくに病原性の強い腸管出血性大腸菌O157もその一つ。
病原性大腸菌O157の汚染の大もとは、ウシの腸管である。O157は、ウシに病原性がほとんどないため、言うなれば健康なウシでもO157を保菌していると考えてよい。
そのO157が製品としての牛肉を汚染し、大掛かりな流通機構を通して多くの患者の発生につながると考えられる。その他、飲料水、生牛乳、野菜から感染している。
O157は1982年、アメリカのオレゴン州とミシガン州で、ハンバーガーが原因菌として、世界で初めて発見された。その後、ヨーロッパやオーストラリア、南米、アジア、アフリカなど世界各地で確認されている。アメリカでは、過去10年間にO157による大規模な集団食中毒が11回以上発生した。
日本では、1996年、大阪府堺市で学校給食による集団食中毒で、3人の死者と100人の重症者を含む、約9500人の感染者が出た。カイワレダイコンが原因。しかも米国から輸入したカイワレダイコンの種がO157に汚染されていたのだ。この年は、堺市のみならず、全国的にO157による被害が広がり、1年間に1万322人の患者、12人の死者を数えた。ひとつの原因菌による食中毒としては、世界的にみても、過去に例がないほどの最大規模の食中毒となった。食材の国際的な流通が現在では常識になっているので、今後のO157の制御対策は、根本的に考え直す必要がある。 WHO(世界保健機構)は、この日本での大流行を取り上げ、「桁違いの記録的な患者数」とコメントした。
病原性大腸菌O157感染症では、10~30%で「溶血性尿毒症症候群(HUS)」や脳症を合併し、特に乳幼児や、小児、老齢者では死亡することがある。病原性大腸菌O157感染症は、食中毒の中でも極めて重要な疾患といえる。 表9に、大腸菌群の食中毒をまとめた。O157ばかりでないことを知って欲しい。
下痢、腹痛、発熱、嘔吐が主で、病原大腸菌の種類によって異なるが、血便が出る場合もある。




 8)そのほかの食中毒菌
その他に問題となる食中毒を表10に示した。




コレラ2話

●バリ島のコレラ事件
1995年、インドネシアのバリ島帰りの日本人旅行者から、200人以上のコレラ発症者が出た。しかし、日本人以外の外国人旅行者には1人も、コレラは、出なかった。なぜか、誰もが首をかしげ、インドネシア政府は、なにかの間違いか、謀略ではないかと日本の旅行業者に抗議した。
当然、コレラ菌に汚染された食材を食べたからだと思い込んだ専門家が現地に入り、宿泊先のホテルの食材を調べたものの、これといった原因は発見されなかった。しかし、バリ島の住人の話では、日本人は何も知らずにホテル街の川水が流れ込む海水附近で、泳ぐのだという。
つまり、コレラ菌を含む生活雑排水が、濃厚に流れ込む危険な海域で、日本人が泳ぐことが、原因だと言うのだ。後日、その海域で取れた、貝類、魚類からコレラ菌が発見された。これを機会に旅行添乗員への渡航医学の教育が必要だと痛感した。
これは、マラリアの恐怖を知らず、無防備なアフリカに入る日本人の無知に通じるものがある。

●日本人はサシミ人
海外でもサシミを求めて旅行する人が多い。私もその一人、1992年、中国広東省の医療機関の調査を終わり、広州市内に入った私と担当官はやはり、中華料理に飽きてしまい、日本料理屋に入った。サシミを注文したところ、今、隣の仙山市(後のSARS発生地)でコレラが流行し、「生もの禁止令」が出ているので駄目だという。がっかりした顔をすると、その中国人、私たちを呼んでヒソヒソ。
「だんな方、こういう方法がありますよ。サシミはありますから、出しましょう。ただし、コンロと熱湯を準備しますので、しゃぶしゃぶ風に食べるようにしてください。衛生局の役人にふみこまれたら、営業停止になりますので、よろしくお願いします」と言うので、思わず私たちは納得。店長のしたたかさに感動し、せっかくのサシミをしゃぶしゃぶ風でなく、醤油とわさびでサシミを食べたのである。
これ実は、渡航医学を説く立場の者としては、内緒の話。
中国は広い国、「なんでもあり」私たちも臨機応変に対応したのだ。


おわりに

最近の新聞報道から、身近な食の安全性の問題が深刻になっていることがわかる。
ここでは代表的な食と感染症について述べたが、食の安全性にも強い関心を払わなければ生命に関わるという時代になった。
すべての食材は国境をこえてどんどん入って来る。
国の規制だけに頼ることなく、自己防衛も必要な今頃である。
(食と感染症3「寄生虫編」に続く)