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ニュースレター(機関紙)

続・話題の感染症9「食と感染症(海外渡航者を中心として)1」
NL07070103
感染症

続・話題の感染症9「食と感染症(海外渡航者を中心として)1」

海外邦人医療基金(顧問)
長崎大学熱帯医学研究所(客員教授)
日本医師会(感染症危機管理対策委員)
おおり医院 院長(神奈川県)
大利昌久

ミートホープ社の牛肉偽装事件は、あっと驚く大事件だった。その上をいったのが、段ボール肉マン事件。
幸というか、これはねつ造ということで、一件落着したものの、目の奥に焼きつかれた「あのキザンデル光景」は忘れることは出来ない。
今や、次々と報道される国内外の食の安全性の問題に目が離せない時代となった。
ここでは、食と安全性に関わる感染症について述べる。

はじめに
全世界の海外渡航者数は、1950年に5000万人だったのが、2000年には7億人を超え、2010年、15億人を超えると推定されている。
日本人の場合、私が外務省にいた1980年、400万人だったのが、20年後の2000年には、1781万人と過去最高を記録した。その後テロ、戦争、SARSの影響にて、2003年、1650万人と減ったものの、今や、海外に出かける日本人は1800万人を超え、交通手段の飛躍的な発展のおかげで、丸一日、24時間あれば、日本から遠いアフリカの大地にも飛べる時代となった。

渡航者の80%は海外旅行者、最近は、「一般の旅行」から、「冒険旅行」、「食べ歩き旅行」など旅行内容が変わりつつある。従来は、若者が旅行の主役だったが、最近、熟年者、高齢者が増えている。1990年に比べると、10年後の2000年、60歳以上の旅行者が120%増えた。実に260万人の高齢者が出かけていることになる。性別では、男性が女性より多い。

残り20%は長期の海外生活をおこなう赴任者で、最近は家族を同伴する人々も増えている。海外赴任者は、日本で味わったことのない現地の食にふれることになり、「未知のめずらしい料理」を口にする機会がふえた。そのため海外渡航者の多くが、「輸入感染症」「旅行者下痢症」として、病原体を日本に持ち帰り、大騒ぎになる。このように、食べ物、飲み水による旅行者感染症の実情予防と対策を渡航前に知っておく必要がある。海外では、他に動物や家畜によるもの。性感染など人との接触によるもの。病院にて輸血や、不潔な医療器具などでかかる医源性の恐い病気がある。

日本は、今や飽食の時代と言われる。食習慣の変化、特に生鮮食料品を食材とする料理に、人気が集中しているのが現状。生鮮食料品の低温輸送システム(コールドチェーン)の普及により、国内ばかりでなく海外からも、「とりたての新鮮な食材」が、そのまま食卓で味わうことが出来るようになった。
レストランでは「グルメ料理」、「エスニック料理」が人気を呼び、みるからに食指をそそられるものがある。
サワガニやホタルイカの生食いの他、好んで、へびの生血を吸ったり、ドジョウを生きたまま飲み込む「イカモノ食い」「ゲテモノ食い」の人もいる。
このような時代背景から、国内外の風土病的存在であった感染症、寄生虫症が散発的に見られるようになった。
ここでは、代表的な食と感染症にふれた。

食と感染症の問題点
誰でもかかるし、どの国でも発生するのが、食と感染症の特徴である。又、大規模集団発生を起こしやすい。特に水系感染では、広域に発生し、経済的影響が大となる。なお、食材の流通システムの国際化によって国内外でヒトーヒト感染を起こすものが多く、小児や高齢者などでは重症化し、時には死をまねく。

食と感染症の問題は、地球温暖化、環境破壊など、今の地球の状況と深い関係があると思われる。今や、地球は災害だらけ。隣の中国の自然災害を表1に示した。これは、中国に限らず、ロシア、米国でも同じ状況が見られる。
中国での邦人の病気は表2の通りで、食と関係の深い、急性下痢症がかなり多い。日本では僅かな回虫、顎口虫、サナダ虫など、寄生虫の感染も見られる。
1988年、上海で原因不明の肝炎が大流行。発熱と倦怠感が主な症状だった。市内だけでも30万人以上が発病し、死亡者も出た。原因は、飲料水から発生したもので、A型肝炎が主で、B型肝炎もみつかった。








上海の場合、取水源は長江で、工場排水、屠畜場排水などが流れ込んでいる。
上海に限らず、急激に人口が増加し、都市化が進んでいる。広州、上海、北京などの、飲料水に一般細菌、大腸菌が多い。これらの細菌数が多数みられることは、水道水が糞便に汚染されていると考えなければならない。

ところで、中国内の河川は深刻な汚染状況にあると言われる。(参考資料1)
又、水道水から、クリプトスポリジウムや、ジアルジアなどが見つかることもある。(参考資料2)
食と感染症のパターンは、輸入感染症によるもの、特に旅行者下痢症が数多いその内容は、食中毒が主で、その他、日本には少ない熱帯・亜熱帯病が見られる。又、人の食習慣から、ゲテモノ・イカモノ食いによる珍しい感染症も見られる。






輸入感染症
1980年代後半から、大腸菌O157、ニパウイルス、SARS、トリインフルエンザなど、人類がかつて遭遇することのなかった新興感染症が次々と出現した。しかも、時期を同じくして、コレラ、赤痢、デング熱などの古典的な感染症が世界中に拡大、再興感染症として大きな問題となっている。

このように人類を取り巻く感染症の状況は激変、この新興・再興感染症対策が世界各国の保健、医療分野で緊急の優先課題となってきた。
本来、わが国に常在しない感染症が、人や輸入ペット、輸入食品、さらに輸入医薬品製剤などによって、国内に持ち込まれる場合を「輸入感染症」という。
渡航者が日本に持ち帰る輸入感染症は減少しておらず、一般に、細菌性赤痢、腸チフス、ウイルス性肝炎、アメーバ赤痢、寄生虫疾患など、主として食に関わる輸入感染症が日常的に問題となっている。
輸入感染症は、本人ばかりでなく、国内での二次感染の危険性もあり、深刻な対策が必要となってきた。

輸入食品からの感染
ウイルスに汚染された輸入食品から発症することもある。その多くは魚介類で、急性肝炎を起こすA型肝炎ウイルス、ウイルス性下痢症の原因であるノロウイルスなどがこれに該当する。
生鮮食品の輸入食品からのコレラも散発的に見られる。

1)ノロウイルスの食中毒
ノロウイルスは人の腸の中で増殖。増殖したウイルスは、便やおう吐物と一緒に体の中から排出され、下水道などを通り、海に流れ込み、カキなどの2枚貝の中に蓄積される。下痢便やおう吐物にいる、ノロウイルスは、トイレ、ドアノブやタオルに付着し、他の人に感染する。乾燥した便やおう吐物の飛沫が、空気中に舞い上がることでも、感染する。
このようにノロウイルスによる二次感染の原因は、生ガキを調理した手指、調理器具との接触。患者が使用したドアノブ、便座との接触。それに、患者のおう吐物、便などに触れることである

2)A型肝炎
A型肝炎は、海外での感染、施設での集団感染、家族内感染がみられる。
熱帯・亜熱帯地域では洪水後に爆発的に流行することがある。
A型肝炎は、中国の法定伝染病に指示されており、表3のように肝炎による死亡者も多い。



中国内でA型肝炎にかかると、予防防疫センターへの報告義務があり、最低3週間入院が原則。日本人でも、A型肝炎にかかると、伝染病専門病院に強制収容になるが、設備が劣悪な問題である。
中国で働く場合、年1回のA型肝炎の抗体検査が義務付けられている。
2005年、中国の丹東(北朝鮮国境付近)の日系企業人に肝炎が流行し、医療相談が入った。結果は、A型肝炎とE型肝炎の両方がみられ、幸いにも大流行にはいたらなかった。中国国内では、どこでもウイルス性肝炎が、発生する可能性があると考えられる。

3)E型肝炎
 アジアやアフリカへ旅行した人が現地で感染し、帰国後に発症。いわゆる「輸入感染症」と思われていたE型肝炎。数年前からの積極的な調査によって、輸入感染症を上回る頻度で国内感染も見られることがわかった。
特に、イノシシ、シカ、ブタが主な感染源。動物由来感染(zoonosis)の重要性が、世界に先駆けて日本で認知された。
E型肝炎は、その起因ウイルスであるHEVのゲノムRNAがクローニングされた1990年になって初めて診断可能になった。

1990年以前の症例でも保存血清(あるいは糞便)等の検体のレトロスペクティブ診断にて、1970ー80年代にインド(1978)、ナミビア(1983)、パキスタン(1983&1986)、ボツワナ(1985)、中国(1986)、メキシコ(1986)、インドネシア(1987)、エチオピア(1988)、ミャンマー(1989)、ソマリア(1989)で発生した大規模な集団発生肝炎がE型肝炎ウイルスによるものであったことが解った。同様の集団発生E型肝炎は、1990年以降もインドネシア(1991)、モロッコ(1994)、ベトナム(1994)、ネパール(1995)等でも発生した。
表4にA型肝炎・E型肝炎をまとめた。



旅行者下痢症、日本人旅行者の問題点
日本人の海外旅行を欧米諸国の外国人たちと比べると、随分違うと言われる。特に、健康に関する意識の低さや配慮の欠如は、よく指摘されるところ。どのような問題点が特にあるのかを表5にまとめた。なかでも、日本の食生活を海外に平気で持ち込む点が問題である。



最もよく遭遇する輸入感染症、それは「旅行者下痢症」である。目的地到着後、ほぼ5日以内に発症するような下痢は、「旅行者下痢症」と言う。海外旅行者の30~50%がかかる。滞在期間が短い場合は、帰国後に発症する場合もある。

海外旅行で下痢をおこすには、さまざまな原因がある。下痢症の75%は非感染性の下痢といわれ、旅行の準備、長時間のフライトなど、疲労による体調の低下や、旅先での不安やストレスなどからくる精神的なもので下痢をおこすことがある。体調の変化やストレスによるものは、原因を取り除くことが出来れば比較的、すぐに回復する。

旅先の飲食物による下痢で多いのは、日本との水や食べ物の違いによるもの。海外ではミネラル分の多い硬水が多く、下痢をおこしやすい。海外の料理では、香辛料や脂肪分のとりすぎも下痢の原因になる。

しかし、もっとも問題なのは、ウイルスや細菌、寄生虫などによる下痢。先進国でも発生するが、衛生管理の十分でない発展途上国、とくに東南アジア、アフリカ、中南米などの熱帯・亜熱帯地域への旅行では、到着して3~5日以内に30~50%以上の人々が下痢を経験する。昔からそうだが、今でも「モンテズマのたたり」(メキシコ)「カラチ腹」(パキスタン)「デリー胃痛」(インド)「バクダッド下痢」(イラク)が悪名高い存在。

このように、熱帯・亜熱帯の発展途上国からの帰国者に、「旅行者下痢症」が比較的高率にみられる。原因微生物としては、国内でも多く経験される大腸菌(特に毒素性大腸菌)、サルモネラ、カンピロバクター。腸炎ビブリオ等、食中毒関係が多い。
国内で遭遇することが稀な赤痢菌、コレラ菌等の細菌や、ランブル鞭毛虫、クリプトスポリジウム、サイクロスポーラ。赤痢アメーバ等の原虫が原因であることも稀ではない。

臨床症状は、病原体の違いによって異なる。例えば、コレラの典型的重症例は発熱を呈さないことが多い。また、コレラ菌、毒素性大腸菌、クリプトスポリジウムの感染では水様便を呈することが多く、赤痢菌や赤痢アメーバの感染では粘血便を呈することが多い。しかし、非典型例も少なくなく、臨床症状から病原体を特定することは問題である。
診断のために最も重要なのは、抗菌薬投与開始前の便の細菌培養である。


特に注意したい飲食物
旅行者下痢症にならないために、特に注意したい飲食物を以下に示した。

◆生水
加熱処理されていない水のことで、病原体がいる可能性がある。このような水でつくった氷や、水や氷を入れたジュースなどの飲み物にも注意が必要。
海外の水道水や井戸水は、石灰やマグネシウムなどのミネラルが含まれる硬水である場合が多く、ミネラルの少ない軟水を飲みなれている日本人が飲むと下痢を起こすことがある。
◆乳製品
ヨーグルトやアイスクリームなどの乳製品は、牛乳の滅菌基準が日本よりゆるやかな国が多く、滅菌されていない絞りたての牛乳を使っている場合もあり、要注意。
◆生野菜やカットフルーツ
下肥で育てていたり、洗うための水に病原体がいることもある。また、野菜や果物を切る包丁やまな板が病原体に汚染されている場合もある。
◆生の魚介類
細菌や原虫がいることもある。川魚には、寄生虫が多いので、特に注意が必要。
◆生肉
ウイルスや細菌がついていることがある。

飲食物以外の原因
飲食物からの経口感染以外に、以下のような原因で下痢が起こる場合がある。

◆冷え
ホテルやレストランの冷房が効きすぎでおなかが冷えて、下痢を起こすことがある。
◆ストレス
海外旅行では、不安や緊張感を抱きがち。また、過密スケジュールで時間に追われることもある。このようなストレスで下痢になることもある。
◆暴飲暴食
ついつい食べ過ぎたり、アルコールの過飲により下痢をおこすことが多い。

(次号へ続く)