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ニュースレター(機関紙)

子育てのこころ(10) 記憶の発達
NL07060104
小児科、発達

子育てのこころ(10) 記憶の発達

国立成育医療センター こころの診療部 発達心理科
広瀬 宏之

 前回は記憶のメカニズムのお話をしました。記憶の分類として、意味記憶とエピソード記憶、手続き記憶と陳述記憶、超短期記憶・短期記憶・長期記憶があることをお話ししました。記憶は、シナプスの伝達効率が高くなる「長期増強現象」で維持されていること、海馬-脳弓-乳頭体-視床-帯状回-海馬を結ぶパペッツ回路が記憶に大切な役割を果たしていることなどお話ししました。(図)
 今回は記憶の発達についてのお話しです。


図:海馬と記憶に関連した部位




●「いないいないばあ」
 赤ちゃんは8-9ヶ月になると、「いないいないばあ」がわかり、一度見たものを、短時間覚えることができるようになってきます。短期記憶が発達してきた証拠です。(「いないいないばあ」だけでなく、人見知りにも同じ意味があります。)つまり、「いないいない」の後に「ばあ」というようにして、ママの顔が現れることを予測する力がついてきたのです。でも、まだ目に見える物しか存在を実感できません。「いないいない」の状態のままで、ママの顔や姿が現れないと不安になって泣いたり、ママの姿を家中探したりします。トイレにまで追ってくると、さすがに、ウンザリもしますが、このような後追いは、赤ちゃんがママを一番絆の強い特別の人と認識する、アタッチメントの成長の証でもあります。そんな時は「ママはここよ」としっかり抱きしめてあげて、安心させて上げてください。
 さて、この時期は記憶力が発達するのと同時に、目に見えないものの普遍性を教えることができます。「いないいないばあ」を楽しめるようになったら、赤ちゃんがニコニコしている時にたくさんやってみて下さい。徐々に「いないいないばあ」で隠されたものをイメージできるようになり、記憶の第一歩となります。お母さんの顔以外でやる時は、「いないいないばあ」の後に、必ず隠した物の名前を教えてあげましょう。言葉と物の対応を学習していくマッチングの練習にもなります。また、「いないいないばあ」をしたぬいぐるみやおもちゃを持って、赤ちゃんの目の前で上下・左右・丸・斜めとゆっくり動かしてあげましょう。それを目で追えばスムーズな眼球運動の練習にもなります。

●探索行動と模倣の発達
 10ヶ月頃には、赤ちゃんの持っているおもちゃをおもちゃ箱の中に隠すと、箱をひっくり返してとり返そうとします。これを探索行動といい、記憶力が発達してきたもう一つの証拠です。好奇心が育つチャンスですので、危険がない限り赤ちゃんが自由に動くことを見守り、探求心の芽を伸ばしましょう。
 この時期は人まねも多くなります。模倣することで物事を観察し、身体で表現する能力を育んでいきます。何のお稽古ごとでもそうですが、「学ぶ」は「まね(真似)ぶ」に由来します。人の真似を楽しむことで、言葉や身振りを学んでいきます。さらに、絵本などのページ繰りながら、次にでてくるものを期待させ、色々な名詞を覚えていきましょう。勿論、親子で楽しむことが一番で、学習が最優先になることは避けなければいけません。

●出来事より気持ちが記憶に残りやすい
 一説によると、1歳の記憶期間は1週間-数週間、2歳で数ヶ月、3歳で1年間と言われています。4歳になると1年以上の間隔があっても覚えているようです。
 子どもの記憶の特徴は、強い感情を伴う出来事や事件、経験がよく記憶されることです。ただし、嫌な出来事では、嫌な気持ちだけが記憶に残ることがあります。なぜなら、嫌な体験を思い出すこと自体は苦痛だからです。
 同じことを何回教えても覚えてくれない、という嘆きを耳にすることがあります。子どもの記憶力自体、成人より時間的に保持が短いのでなかなか身につきません。また、同じことを繰り返し教えているときは、大人の方はカッカしていますから、感情が前面に出てしまいます。すると、子どもは「怒られた内容」よりも「怒られた事実」や「そのときの苦い気持ち」だけが記憶に残り、いつまでも「怒られた内容」が身につきません。それで大人は余計頭に来て怒るものですから、悪循環になってしまうのです。大人は、決して感情的にならず、出来るだけ冷静に、教え諭すような対応をするのがコツです。

●三つ子の魂百まで
 ヒトは通常、3歳以前の経験を思い出すことができないと言われています。これを幼児期健忘といいます。幼児期健忘の理由は、まだ完全には解明されていません。記憶の入力部位として重要な役割を果たす、海馬での神経細胞を調べると、シナプス(神経細胞の情報伝達部位)や髄鞘形成(軸索の周りの被覆)は相当初期に完成しています。海馬よりもむしろ、記憶を蓄積する部位である大脳皮質連合野の細胞の成長や回路形成の発達が遅れていることが一因のようです。
 幼児期健忘の理由として、言葉を学習していく過程で、言葉によって覚えていない記憶は脳の引き出しから捨てられる、という説もあります。新たな内容物である言葉を入れるために、脳の引き出しのスペースを空けなくてはいけないというのです。
 子どもは、記憶や学習という明瞭な意識は無いにせよ、3歳以前に言葉を覚え始めます。また、言葉によるよらないに関わらず、その場その場の状況を覚えていることも確かです。感情的な記憶はこれらと独立して、無意識に記憶として残っていきます。この幼児期健忘といわれる時期にも沢山のことを覚えるのですから、記憶をつかさどる脳のオペレーティングシステムは十分稼働しているのです。
 「三つ子の魂百まで」という言葉で表現されていることが、正に脳内で行われているのです。



:編集部より:
「子育てのこころ」は昨年8月より1年の予定で連載を開始しました。広瀬先生は、当基金の会員用相談サービスである小児掲示板相談と電話相談を長年にわたって担当していただいています。
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