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ニュースレター(機関紙)

子育てのこころ(9) 記憶のメカニズム
NL07050104
小児科、発達

子育てのこころ(9) 記憶のメカニズム

国立成育医療センター こころの診療部 発達心理科
広瀬 宏之

ある学会に参加してきました。学会は年に一回、ほぼ同じ時期に開催されます。最近は参加するたびに、一年経ったことを痛感します。脳の神経細胞は150億個以上ありますが、20歳を過ぎると1日に10万個以上減少していきます。これが脳の老化のはじまりで、やがて脳の委縮につながります。一年で自分がどう成長したのか、あるいは、変化がないのか、学会が一つの指標になります。こんなことを考えながら参加してきました。
 さて、前回は言葉の発達についてお話ししました。今回と次回は記憶についてです。
 記憶は学習に欠かせない脳のメカニズムです。学習をしても記憶という形で定着しなければ何も残りません。皆さんは記憶というと何を連想するでしょうか。筆者は英単語の記憶に四苦八苦したこと、医師国家試験の前に膨大な知識を詰め込んだことなどを思い出します。義務感で覚えるとなかなか頭に残りませんが、趣味のことなどの好きなことは努力しなくても頭に残ります。「好きこそものの上手なれ」とはよく言ったものですが、同じ記憶なのに好き嫌いで左右されるのは不思議な気もします。

●記憶の分類
 記憶にはいくつかの分類方法があります。(1)意味記憶:言葉の意味や世界の有り様についての記憶です。例えば、辞書に載っているような「医者とは病人を治し、病気を予見し、病気をなくすことに生涯を傾ける人」といったような、言葉や事柄の意味を説明する記憶です。
(2)エピソード記憶:体験や出来事についての記憶です。「去年盲腸で入院して手術をしたけど、痛くてたまらなかった」などという記憶や思い出のことです。
(3)手続き記憶:物事を行うときの手順についての記憶です。 職場までの道順を、無意識に毎日繰り返しているといった、身体で覚え身体で表現するような記憶です。
(4)陳述記憶:言葉で表現できる記憶です。職場まで初めて来る人に、道順を説明するときの記憶です。いつも自分では無意識に行っていることでも、いざ人に説明するとなると存外、難しいものです。

●超短期記憶・短期記憶・長期記憶
 これまでは記憶の再現方法による分類方法でした。次にお話しする分類は、記憶が維持される時間によるものです。
(1)超短期記憶:感覚情報貯蔵とも呼ばれ、一瞬、感覚器官に保持される記憶です。視覚では1秒弱、聴覚では約4秒間保持されます。保持される情報はかなり多く、テレビや映画の映像や会話などを連続して認識できるのはこれによります。
(2)短期記憶;約20秒間保持される記憶です。数で言うと5~9桁の情報を保持できます。電話番号を、その場でそらで覚えたりするのがこれです。意識や注意によって、脳の中で超短期記憶から短期記憶に記憶が転送されますが、短期記憶の容量は小さいので、転送の際にかなりの記憶が棄却されます。また、言語的記憶は音声的な形態に変換されることがあります。つまり、文字で書かれた言葉の記憶が、音として聞こえる言葉の記憶に変換されます。
(3)長期記憶:これ以上の時間、脳内に残る記憶を言います。例えば、初対面の人に名前を聞いても、印象に残らない限りすぐに忘れてしまいます。これに対して、大事な人の名前はしっかりと頭に刻み込まれ、記憶として長期間保持されます。これが長期記憶です。短期記憶としてインプットされた情報が、何度か繰り返されることで長期記憶として定着していくのです。

●記憶をつかさどる脳の仕組み
 記憶はどのような仕組みで脳に定着するのでしょうか。近年、記憶の定着の際には、シナプス間の、情報伝達効率の変化が生じることがわかってきました。シナプスとは、脳の神経細胞間をつないでいる、情報伝達メカニズムです(図1)。



 ある神経回路のシステムを一時的に高頻度で刺激すると、シナプス間の反応が大きくなり、そのシステムの情報伝達が盛んになります。その結果、その後しばらく神経細胞間の伝導が起こりやすい状態が続きます。シナプスの伝達効率が一時的に高くなるこの現象を、シナプスの長期増強と言い、海馬(図2)をはじめ大脳皮質の各所に見られます。この長期増強現象が短期記憶の本質です。長期増強現象なのに、短期記憶と言うのは、用語の使い方としては少しおかしい気もします。これは、短期記憶という名前がつけられたのが心理学の分野で、長期増強現象は神経科学の分野なので、このような矛盾になっているのです。
 一方、さらに長い長期記憶は、シナプス間の増強現象だけではなく、新たな遺伝子発現と、新しいタンパク質の合成によると考えられています。

●記憶をつかさどる脳の部位
 記憶をつかさどる脳内の部位としては、海馬傍回、海馬、脳弓、視床、視床下部などが重要であると考えられています。また、海馬-脳弓・乳頭体-視床-帯状回-海馬を結ぶ回路をパペッツの回路と呼び、先に述べたエピソード記憶に深く関連していると考えられています(図2)。
図2:パペッツの回路



 
 これとは別に感情的な事柄に関しては、扁桃体という脳内部位を中心とした記憶回路があると言われています。
 今回は少し難しいお話になってしまいました。次回は記憶の発達についてです。


:編集部より:
「子育てのこころ」は昨年8月より1年の予定で連載を開始しました。広瀬先生は、当基金の会員用相談サービスである小児掲示板相談と電話相談を長年にわたって担当していただいています。
先生からは読後の感想、意見、質問などをお受けしたいとのご希望です。どうぞwebmaster@jomf.or.jp 宛にメールでお送りください。
●「子育てのこころ」索引コーナー
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