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ニュースレター(機関紙)

海外メンタルヘルスの現場から(53)「 海外赴任者のストレス~心のギャップ2 」
NL07050102
メンタルヘルス、海外赴任、ストレス

海外赴任者のストレス~心のギャップ2

シンガポール日本人会診療所
小川原 純子

日本で育った自分が、シンガポールで初めて生活した頃、色々なことが新鮮でした。「心のギャップ」という観点でも、シンガポールの文化から、新鮮な刺激を受けたように思います。例えば、タクシーの運転手さん。乗客の指定した行き先が自分の知らない場所であると、「はあー?もう一回言って。」と少々むっとしたトーンで聞き返えします。シンガポールに着たばかりの頃は、その聞き返され方に、乗客である自分の方が動揺し、「まずい。私の英語がそんなに聞き取りにくいんだ・・」と、ショックを受けたり、自責の念に駆られたりしたものです。
しばらくシンガポールで生活するうちに、これが、特別なことではないと知るようになりました。嬉しい時は、とても嬉しそうに話し、困惑した時は、困ったように、迷惑そうに話しているだけなのです。
シンガポール人の友人は、こんな運転手さんにすかさず言い返します。「あら、知らないの?○○の近くよ。」

前回まとめたように、心のギャップを作らないためには、「自分の本音を、はっきりと言葉にすること」が大切です。日本的教育の中には、自分の感情をあからさまに表出しないことを美徳とする面があります。「武士は食わねど、高楊枝」と言うように、昼食を食べていなかろうが、少々辛かろうが、そんな私的な苦しさは飲み込んで、平然と仕事をこなせる人が、尊敬を受ける文化であるように思います。シンガポールのコミュニケーションは、もっとずっと直接話法的です。昼食を食べる時間のなかったタクシー運転手さんは、乗客が持ち込んだお弁当にすぐに反応します。「いい香だね。私は、まだお昼を食べられていないんですよ。」「それは、大変でしたね~」「そのお弁当は、どこで買ったの?」「△デパートですよ。」「シンガポールでは、どこの日本食屋がおいしいの?」と、話が続く時もあります。

自分の本音がすぐに言葉として出るようになるには、その人の性格と育った文化と会話をしている状況や社会的人間関係のバックグラウンド(社内の上司・客先など)など、たくさんの要因が絡まっているようです。本音を溜め過ぎて、「心のギャップ」が広がりすぎて疲れている人は、これだけは、やってみましょう。

1:納得していないのに相槌をうたない。
・ 同意できない意見に、相槌をうたない。
・ 「なるほど」というが、「そうですね」と同意はしない。
・ 「○○さんは、そう感じられたのですね」とその人の意見を、その人に限定する。決して、「そうなんですか・・」と感心して聞かない。
こんな会話術は、家族・親戚の中でも使えます。例えば、子育てに対して、義理のお母さんが持論を展開。
(義理母)「私は、3歳の子には・・・・と思うのよ。そうでしょう?」と言われたら、どうしますか?必ずしも、自分はお母さんの意見に賛成しかねるなあと思った時に、「そうですね。そうか~あ。」と返答してしますと、これは、「お母さんの意見は、納得できる。私も、そうしてみたい。」という意味になってしまいます。「なるほど、なるほど。お母さんの世代の方は、そんな風にお考えなのですね。」と返答してみると、少しですが、自分とお母さんの感覚に距離が出来て、違いがあることが伝わります。コミュニケーション上手な人は、「私たちの世代とは、ちがいますねえ~。」と穏やかに付け足してみると、より効果的です。

2:自分の本音と顔の表情を一致させる。無理に笑顔は作らない。
言葉では、「なるほど」と調子を合わせますが、不快な時は、笑顔を作らないことも大切です。感情と自分の表情が、大きく解離している時も、心に負担が大きく掛かるものですから。「そうはいっても、納得した表情を作らないと、執拗な上司の指導・注意が終わらないんです。」という職場での悩みを伺うこともあります。仕事熱心というか、指導好きな上司となると、1時間半以上にわたって、部下に、事細かに指導・熱弁をふるってしまう方もあるようです。

もちろん、場合にもよりますが、あまりにも長時間の指導は、パワーハラスメントに当たる可能性もありますから、上司の方も、注意が必要です。聞き手が、納得したような上辺の返事を繰り返すことは、話し手を助長させ、「ほら、私が話していることが、すべて受け入れられている。」という全能感から、話をエスカレートさせてしまいます。上司の話に意見することは勇気が要りますが、「私は、こう考えて、この様に対応しました。」と言う自信があれば、きちんと伝えることが、大切です。この方法で、上司の直々の指導から距離が出来た人が大勢いらっしゃるので、間違いないでしょう。

3:自分が不快に思う相手の態度をそのままそっくりやり返す
相手に不快な感情を与える会話を、知ってか知らずか、執拗に繰り返す人がいます。不愉快そうに、「Ah? Say again.」と毎日同僚から言われたら、どうしますか?タイミングを見計らって、こちらも同じフレーズを、同じように使いましょう。ポイントは、声のトーン・顔の表情も、同じにすること。「そんな、レベルの低いところに合わせたら、自分が自己嫌悪になりそうです。」という方もいらっしゃいますが、自分は50回も言われて、1回も言い返さないなんて、正しく「心のギャップ」になってしまいます。

不快なことを受け入れ、自己の中で感情を処理することが得意な人は、本当に、成熟した心の機能を持ち主です。ですが、心にも「抱える限界があること」そして、時には、「自分の心を守ってあげる」努力をすることを考えてみてください。「自分」を守ることは、決して悪いことでも、ずるいことでも、弱いことでもないのです。