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ニュースレター(機関紙)

ジャカルタ発達・子育て相談 報告記
NL07040104
小児科、発達

ジャカルタ発達・子育て相談 報告記


国立成育医療センター こころの診療部 発達心理科 
広瀬 宏之

 生まれて始めて赤道を超えてやってきたインドネシアの首都ジャカルタは、緑と湿度と人間の多い、どこか懐かしい感じのする街でした。ここには8000人以上の日本人が生活をし、1500人余りのお子さんが毎日を過ごしています。
 今回の発達・子育て相談では、3月3日から3日間、54人のお子さん及びそのご両親と面談をしました。身体面の問題よりも発達・子育て面での質問を主にしたため、相談内容は多岐にわたりました。普通の乳児・小児健診で聞かれるような発達上の質問から、落ち着かない・コミュニケーションが上手でない・言葉が遅いなどの発達障害を疑わせる相談、慣れない土地での子育てによってこころのエネルギー少なくなっているようなお母様まで、様々な相談を持って来てくださいました。質問の中で最も多かったのは発達に関してで16人でした。ついで、育児についてが15人、身体疾患についてが14人でした。状況に応じて1ケースに20-45分程度の時間をかけ、ご両親やお子さんが不安に思っている点について出来るだけ丁寧にお話しを伺い、コメントしました。文化も風土も全く異なる地で子育てに取り組んでいるご両親、特に、発達上の様々な問題を抱えながら子育てをしている方々には、本当に頭の下がる思いでした。

 現在、文部科学省の統計では、教育上特別の配慮を必要とする生徒は6%程度と考えられています。一方、医学的な統計では注意欠陥/多動性障害(ADHD)の頻度は3-5%、広汎性発達障害の頻度は1%と報告されています。重複を差し引いても、10%程度のお子さんが、発達上の問題を抱えていることになります。
 今回の相談でもADHDと思われるお子さんが5人、自閉症が1人、広汎性発達障害と考えられるお子さんが4人、その他の発達の遅れの人が6人いらっしゃいました。ADHDについては、ご両親の受け容れも進んでいる様子でしたが、広汎性発達障害の場合、一見するとそれほど重度ではないため、周囲の理解がもう少し必要と思われるケースが殆どでした。さすがに、ご両親の子育てが原因で発達障害になっていると考えている方は少なくなっているようですが、家庭や学校において、その子の持っている特徴や生まれ持った資質を理解してあげ、より暮らしやすい環境を整えて欲しいと感じました。
 平成17年に施行された発達障害者支援法では、発達障害者に対する援助について、以下のように規定されています(要約)。「国及び地方公共団体は、発達障害の早期発見に必要な措置を講じるとともに、状況に応じて適切に、就学前の発達支援、学校における発達支援などを行う(第3条)。国及び地方公共団体は、発達障害児が十分な教育を受けられるように、適切な教育的支援の整備などを行う(第8条)。国及び地方公共団体は、発達障害者を支援するために行う民間団体の活動の活性化を図るよう配慮する(第20条)。」異国の地に在住していても、日本国民である以上、この法律は適応されねばなりません。ジャカルタにおける“国及び地方公共団体”に相当する機関に、発達障害に対するより一層の理解と協力をお願いしたいと思います。
 今回の相談では、発達障害と思われたケースで、病名をお伝えすることが出来たのは僅かです。現時点では、発達障害に対する治療法は限られており、ジャカルタで出来ることは更に限られています。ご家庭におけるご両親の献身的な努力には、頭の下がる思いでしたが、教育や療育面での受け皿は極めて乏しいのが現状です。その状況では、病名を告げても後のフォローが出来ません。せめて、幼稚園や小学校で発達障害に対する理解があれば、そこが多少の受け皿になります。その意味で、今回、ジャカルタ日本人学校の幼稚部の先生達と気になるお子さんについて事例検討会を行うことが出来たのは、大きな第一歩だと思います。これが、小学部・中学部の先生たちにまで広がってくれることを、強く希望します。

 さて、ジャカルタの生活での一つの特徴は、屋外で遊んだり出かけたりすることが、他の都市より困難であるということです。公共交通機関が発達していないため、外出は自家用車になります。それも、自分で運転してではなく、殆どが雇っている運転手さんを利用するのです。治安の面での懸念もあり、気軽に外に出かけるということが困難な状況です。このことは、子育てにおいて、大きな障壁となります。子どもは外で走り回ることで、エネルギーを消費し友達との付き合いを覚えていきます。お母様は、ちょっとした買い物などの外出が子育ての中での息抜きになります。これらが簡単には出来ない環境にあるため、親子双方にストレスが蓄積されます。たまの日曜日でも、ゴルフや仕事などで車を使ってしまうと、残された家族は外出すら出来ないということになるのです。
 この、目に見えない閉塞感は、子育て中のお母様に少なからずストレスを与えていると感じられました。実際、お母様の心理面でサポートが必要と思われる方が3人いらっしゃいました。こころの余裕が少なくなっていると、エネルギーのあり余っている子どもに対応するのも難しくなります。特に、1歳半から4歳くらいまでの、自我の芽生えと行動の拡大による反抗期の子どもにつきあうのは大変なことです。お母様に余裕が無くなると怒りっぽくなり、子どもは不安を強くしていきます。不安が強くなると行動が乱暴になり、益々母親から注意されると言う悪循環に陥るのです。また、母親の鬱状態が、子どもの発達にどれくらい深刻な影響を及ぼすかも、はっきりと統計的データが出ています。
 もう一つ、限られた日本人社会で生活することも閉塞感を強める一因です。狭い日本人社会に於いては対人関係に人一倍気配りが必要です。ご主人の職場の上下関係なども母親同士のおつきあいに影響していきます。子どものことで相談したくても、ついつい遠慮してしまうと言ったようになります。また、ともすると、自分の子どもの発達を周囲と比較して、発達がゆっくりの方は焦燥感を強めていきます。すると、子どもへのプレッシャーが強くなります。それを感じて母親からの期待に応えようとしても、発達する力の強くない子どもは上手く行きません。親子共々焦燥感と落胆に苛まれることになるのです。一方、もともと自力のある子どもの場合は何とかプレッシャーに応えようとして、精一杯背伸びをします。しかし、無理な背伸びは長続きせず、途中で息切れしてくるのです。いずれにせよ、子育て真最中のお母様に対するサポートは、必要不可欠であり、ジャカルタのお母様たちへの支援が更に確立していくことを強く望まれます。

 障害のある子は日本にとどまるべきだ、という声があります。しかし、子どもの10%に特別な配慮が必要な時代です。そういう子どもが全て日本にとどまるべきだと言うのは、もはや現実的ではありません。敷衍すれば、子どもは全て、それぞれに個別の配慮が必要なのです。
 今回の相談会は、ジャカルタ・カウンセリングの柴田真紀さんと徳丸真理子さんの、文字通り献身的な努力で成立しました。お二人のご尽力にこころから敬意を表するとともに、滞在中の心尽くしに御礼申し上げます。最後になりますが、ジャカルタに暮らしている全ての親子の方々がよりよい生活を送れるようお祈りして、御報告とさせて頂きます。ありがとうございました。


統計

主訴(含む重複)人数
発達に関して16人
育児について15人
身体疾患について14人
行動の問題について8人
発育について4人
お母様の不安3人


診断(疑いを含む) 
自閉症1人
特定不能の広汎性発達障害4人
ADHD5人
その他の発達の問題6人
  
夜尿症4人
爪かみ3人
吃音1人
  
てんかん1人
トゥレット障害1人
  
強迫性障害1人
全般性不安障害1人
  
お母様が  うつ傾向1人
お母様が  不安が強い1人
お母様が  感情の起伏が激しい1人


幼稚部でのケース検討 
自慰行為1人
場面緘黙1人
指しゃぶり2人
精神発達遅滞1人





:編集部より:
今月は「子育てのこころ」シリーズにかわり、本年3月にジャカルタで行われた小児の健康相談のレポートを掲載致します。
読後の感想、意見、質問などはwebmaster@jomf.or.jp 宛にメールでお送りください。
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