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ニュースレター(機関紙)

続・話題の感染症6「消滅した(?)天然痘とニパウイルス、SARS」
NL07040103
感染症

続・話題の感染症6「消滅した(?)天然痘とニパウイルス、SARS」
  
                       

海外邦人医療基金(顧問)
長崎大学熱帯医学研究所(客員教授)
日本医師会(感染症危機管理対策委員)
おおり医院 院長(神奈川県)
大利昌久

私が、外務省医務官としてアフリカのケニア(ナイロビ)に駐在したのが1979年。当時、天然痘撲滅作戦が国を挙げて展開中だった。首都ナイロビ市内はもちろん、遠い地方でも天然痘患者の「あばた顔」写真があちこちに貼られていた。このような顔の人を見つけたら、ケニア政府が懸賞金7500ケニアシリングを支払うというもの。当時のお金で1000ドル。ケニア人が20年間のんびり暮らせる大金だった。まさにWANTED。人権配慮など、どこ吹く風。人類を脅かす病気を撲滅するために、お尋ね者を探すような作戦など、なんでもありという訳。
平和な日本で育った私は、なんともすごいことをするもんだと、びっくりした。

この陣頭指揮をとったのが、SARSでも活躍したドナルド・ヘンダーソン博士(WHO)、日本人の代表は蟻田功先生だった。そしてついに、人類は天然痘との戦いに勝利し、1980年、5月8日「天然痘撲滅宣言」(WHO)を発したのである。この日、世界中に流れた、自信にあふれたヘンダーソン博士の顔は、忘れられない。この天然痘を皮切りに、人類を苦しめてきた感染症は「次々に姿を消す」ものと誰もが思ったものだ。しかし、実際はどうだったのか。

消えたはずの天然痘は、今や生物兵器として温存され、テロの強力な武器として使われる危険性をはらんでいる。それに、2002年6月、アメリカ中西南部でサル痘に33人が感染した。これは、天然痘と同類の感染症である。人から人への感染でないが、サルから人への感染、つまり、種を超えて感染する点は、トリインフルエンザの発生をみるまでもなく、ゾッとする現実である。

1970年以降、ロタウイルス、クリプトスポリジウム、エボラウイルス、レジオネラ、エイズなど、多くの新しい感染症が登場した。
WHOは、これらを新興感染症(Emerging infectious disease)と呼んだ。

この新しい感染症の大半はウイルスが原因。そのほとんどは、野生動物が自然宿主なので、「動物由来感染症」あるいは、「人獣共通感染症」(ズーノシス)とも呼ばれる。WHOは「脊椎動物と人との間で自然に移行する全ての病気または感染症」と定義している。
動物を宿主とするウイルスは、本来、その動物と共存することが望ましく、たいていはウイルスがあっても病気を起こさないか、非常に軽い。しかし、このウイルスが人に感染すると毒性が非常に高く致死率があがり、いわゆる「キラーウイルス」に変身する。

その背景
何故、今時「動物由来感染症」が登場するのか? それは、人類の社会変化と行動の多様化にあると考える。熱帯病の宝庫で、野生動物の生息地でもある、アフリカの奥地から、その日のうちに文明を謳歌するヨーロッパに出ることもできる時代。このような目覚しい交通手段の発展に伴い、膨大な人と物の移動が可能になった点があげられる。その他、人口の都市集中に伴う都市の疲弊化。絶え間ない森林、土地開発に伴う活力化の低下。「骨なし魚」に象徴されるような「ファーストフード」展開に伴う動物性食品の多量生産化。野生動物のペット化などがあげられる。

21世紀前後に多くの動物が奇妙な死を遂げた。1991年及び1995年、河口の魚が死ぬ(フィステリア)(米国)、1999年、カラスの大量死(ニューヨーク)、2003年、 大量の養殖のコイが死ぬ(ヘルペスウイルス)(日本)、2003年、空から雨のように小鳥が死んで降ってくる(トリインフルエンザ?ウエストナイル?)(中国)。これは何を意味するのだろう。恐らく、地球温暖化に象徴されるように、地球は病んできたにちがいない。ただ一つ言えることは、「動物に罪はなく、その原因は人類のエゴにある」と思われる。

このような背景から、今までに人にかかることがなかった「未知なる感染症」が、人前に現われたのだ。その登場は、人類のおごった気持ちをあざ笑うかのような印象である。
1998年、突然マレーシアに登場した「ニパ・ウイルス」もそうだが、2003年は、まさに「謎の肺炎SARS」の年だった。SARSでは人から人への感染がみられ、次々と死亡者が出た。未だ有効な治療法は開発されていない。そして今、インフルエンザウイルスA(H5N1)のトリでの流行が世界的規模で発生し、人への感染がみられるにつれ、この新型インフルエンザウイルスによるパンデミックを警戒する必要性が高まった。今は、こんな時代なのだ。

「ニパ・ウイルス」の出現
1998年の10月から1999年の春にかけて、マレーシアの首都クアラルンプール周辺の養豚家を中心に、40度を超える急激な発熱のあと、昏睡に陥り死亡する脳炎が出現した。当初、マレーシア政府は過去25年間で最大の日本脳炎の流行と報じ、日本政府にもヘルプの要請があった。感染者は250人を超え、うち、110人が死亡、死亡率は44%と高かった。すぐに養豚中の100万頭の豚が、機関銃と毒薬で屠殺処分された。

ちょうど現地入りしていた、松本慶蔵博士(長崎大学名誉教授)と私は、日本から日本脳炎ワクチンの緊急輸入と日本脳炎の専門家を日本から呼び寄せることを、在マレーシア日本大使館に進言した。すぐあとでわかったのだが、実は、この熱病は日本脳炎ではなく、全く新しい感染症だったのだ。「なぜ小児に感染しないのか」、「なぜ養豚家の中国人だけしか発症しないのか?」理屈にあわない、いくつかの点で、2人で首をかしげたのも事実。「ひょっとしたら新しい感染症かも・・・」という考えも浮かんだが、「緊急ワクチン輸入」のほうに頭がまわってしまったのだ。これは私たちの大きな誤りだった。しかし、負け惜しみをいえば、ニパウイルスに混じって、日本脳炎感染症も数名出ていたことで少しは安堵したものだ。

その後、マラヤ大学のチュア博士が中国系マレーシア人の遺体から、新しいウイルスを分離した。そのウイルスは5年前にオーストラリアから発見されたヘンドラウイルスに似ていた。そして、被害者が出たニパ地域の名をとり、「ニパウイルス」と命名された。このウイルスは、実はジャングルの洞窟内にいた、オオコウモリが宿主で、ジャングルを切り開いた新興養豚地域のブタに感染し、ブタと接触した人を中心に感染が広がったものだった。幸い、感染経路が早目にわかったことで、「ウイルス封じ込め作戦」は成功し、ニパウイルスは今やその姿を消してしまったのである。
しかし、自然宿主のコウモリは今でも夜空を舞っているのである。

SARSの登場
謎の肺炎は、中国広東省の古都仏山市で発生した。仏山市は、毎年、コレラ、日本脳炎が発生する亜熱帯地域。市内の40代の農協職員が肺炎となり、2002年10月、仏山市第一人民病院に入院。この人は回復。2番目の感染者は20代の調理師(広東省の深セン市)。彼が野生動物のジャコウネコ(ハクビシン)を食材にスープを作っていて、感染したことがわかり、病原体の宿主が野生動物ではないかと専門家は考えた。そのあとになって、広東省広州市内の野生動物を扱う市場の従業員508人のうち66人(約12%)にウイルス抗体反応が陽性と出た。

広東省は「食の広州」とも言われ、食材が豊富な地域だ。中国では「飛ぶものは飛行機以外、四本足は机以外、何でも食べる」といわれている。市場ではニワトリ、アヒル、ハト、野鳥、カエル、ウサギ、ネズミ、蛇、リス、タヌキ、犬、イタチ、ジャコウネコなど多くの野生動物が生きたまま食材として売られている。
これらの野生動物を扱っている業者は、時にはうっかりして動物に咬まれることがあるという。これらの動物の持つウイルスが、この咬み傷を通して人間に感染することは充分考えられることだ。

この2人の症状は全くインフルエンザの肺炎症状と全く同じであった。その後、医師を含めた医療関係者の間で、インフルエンザ様の院内感染がはじまり死亡したことで、「謎の肺炎」との報道が世界を駆け巡った。

2003年1月下旬に、広東省の省都広州市内でも流行がはじまり、2月上中旬にピークをむかえた。WHOは、「非典型肺炎の患者が305人発生、うち5人が死亡した」と報道。当時、台湾ではH5N1型の新型インフルエンザが出現しており、中国側もWHO側も混乱を極めた。
その後、香港、ベトナムで次々と死者が出、カナダ、シンガポール、ドイツにも感染が拡大することをうけたWHOは、「重症急性呼吸器症候群、SARS」と名付け、世界中にその現状を流した。ほぼ同時に、世界90カ国、11施設で病原体の特定と分離培養がはじまった。

当初、中国衛生局は「クラミジア」と発表し、香港大学グループが3月20日「パラミクソウイルス」とのべた。4月16日、WHOは非典型肺炎でなく「コロナウイルス」が原因と発表し、このウイルスを「SARSコロナウイルス」と命名し、インターネットを通じ電子顕微鏡によるウイルスの姿を世界中に流したのである。
同日、香港大学の研究チームが「食用にされている野生動物からの感染」の可能性を指摘し、5月に入り、ジャコウネコ(ハクビシン)からSARSウイルスに似たウイルスを分離したことから、大騒ぎとなった。中国ではハクビシンは結婚式のお祝いに出る、高級食材の代表だったのである。

コロナウイルスももともと、豚の感染性胃腸炎や、鳥の気管支炎をひきおこす「なんでもないウイルス」なのだ。その日を境にし、ハクビシン撲滅作戦がとられ、あっという間に、世界一を誇る広東省の野生動物市場、新源市場から、ハクビシンはその愛らしい姿を消してしまった。
しかし、本当にハクビシンがSARSの感染源だっただろうか、その他にあるのではないか、研究室でつくられた人工ウイルスではないか・・・。私には疑問が残る。