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ニュースレター(機関紙)

海外メンタルヘルスの現場から(51)「シンガポール在留邦人のメンタルヘルス~女性の対人不安」
NL07030102
メンタルヘルス、海外赴任、ストレス

シンガポール在留邦人のメンタルヘルス~女性の対人不安

シンガポール日本人会診療所
小川原 純子

皆さん、ご自身の性格はどんな特徴がありますか?
楽天的で朗らかな方・新しいことに挑戦して、前向きな人・おせっかいで世話好きな人・先々のことを考えてしまう心配症な人。血液型で、性格を分類することもありますよね。色々な人が、密接に関係して生活するシンガポールの日本人社会で、在留邦人女性がどんな不安を抱えやすいのか・・・今回、お伝えしたいと思います。

外来で、患者さんが最もよく訴える典型的な不安は、日本人に対する人間関係での不安です。「お友達に話したことばが、気になってしまう。悪いように受け取られてないかしら・・・」「自分が発言したことを、家に帰ってから反省したり、後悔したりしてしまう。皆さんに嫌われたくないから・・」こんな気持ちが強まってしまい、考え事が増えて、家事をやる手が止まってしまったり、寝付けなくなってしまったり、大人数の集まりに出かけるときに、過剰に緊張してしまったりと、生活のペースを狂わされるほどになることもあります。

この対人不安は「周りの人達の気持ちが優先で、自分は後回し。」「もめるくらいなら、自分が我慢。」といった過剰な自己犠牲や、「人が楽しんでくれたり、その場の雰囲気が和やかに保たれたりするのなら、話題を提供。」など他人への過剰な奉仕になってしまうこともあります。会話が止まってしまうと、気詰まりだから、わざわざ、話題を2~3考えてから、外出するという方もいらっしゃいました。

同席した皆さんに楽しんでもらいたいので、誰かが話題に参加できないと、調和を取るような会話を心掛けてしまいます。皆さんの周りに、こんなスーパーウーマンが居たら、会食のときには、一声掛けて参加していただきたくなりますよね。だから、とても沢山の方から、お誘いが掛かります。【誘われると、断れない】これも、一つの特徴でしょう。折角誘ってくださったのだから・・・・と相手の気持ちを考え、つい、うれしそうにお誘いを受けてしまうのです。楽しい集まりでも、自己犠牲をして、周囲と調和するので、精神的に著しく疲労することは間違いなしです。

シンガポールは、四季のない単調な生活なので、女性も男性も、自ら楽しい会食やイベントを企画することが多い社会です。もし、すべてのお誘いを引き受けると、完全にやりすぎになってしまいます。連日外出が続くと、疲労がたまり、会に参加する直前になると、大変、気が重くなってしまいます。
気遣いは十分なので、周囲の友人からは、往々にして最初は好かれます。「Aさんは、優しくて穏やかで、いいわ。」と言われますが、実は、どんなに長く付き合っても、なかなか相手にAさんの本音が見えないので、人間関係が深まりません。相手に本音をみせないのではなく、「自己主張や自分の本音の気持ち」を表出する習慣がAさんにはないのです。Aさん自身は、こんな性格は優柔不断で好きではありません。

皆が楽しそうにこなしている日々のことを、自分がこんなに精神的に負担に思ってしまうことが、自己嫌悪になります。「自分が弱いから、こんなことで悩んでいて・・・」「どうして、私だけ・・・」
そうは言っても、優先順位を付けて、選別することは非常に難しいのです。何故なら、この狭い日本人社会では、Xという会に出席したことも、Yという会に欠席したことも、皆が情報を交換する可能性があるからです。シンガポールでは、日本人が多く居住する地域やコンドミニアムが決まっています。行動範囲も夫の仕事関係も複雑に絡まった日本人社会。こんな、地理的な狭さ・社会の狭さが、「気遣いする性格の人」をさらに苦しくさせています。

「そんなに気にしなくていいのに・・・。」と友人に言われるし、客観的に考えると自分は、経済的にも社会的にも、安定していて、何も心配が要らないはずです。自分でも、何故、そんな心配になるのか?「こんな性格は、自分のせい?」自己嫌悪が強く、どうしてよいか分からないかもしれません。自分への自信がないと、他人がどんどん侵入してくる感覚があり、生活しづらくなるのです。この不安感が著しくなると、不安障害やうつ病に繋がることもあります。

自分が育った環境や今までの人間関係が、Aさんの行動パターンに大きく影響していることが多いのです。海外赴任が決まったとき、自分の意見を少しは言えるような訓練期間だと考えて頂けるとよいかもしれません。少しだけ自分を表現してみる、心が進まないときには上手に遠慮してみる、平等に付き合うのではなく、好きな人・相性の合わない人を少し意識してみるなど、ちょっとした意識の持ち方を変える必要があるかもしれません。