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ニュースレター(機関紙)

子育てのこころ(5) 母子関係の発達・その2
NL06120104
小児科

子育てのこころ(5) 母子関係の発達・その2
国立成育医療センター こころの診療部 発達心理科
広瀬 宏之

 前回は、赤ちゃんと母親の関係発達の第一回目として、生後1-2ヶ月に形成される「基本的安心感」と、8ヶ月前後の「アタッチメント形成(愛着形成)」についてお話ししました。
 「基本的安心感」は、この世は安全で、周りの人間は自分に害を及ぼさない信頼できる存在だという感覚であり、それを赤ちゃんは母親を通して学ぶのです。これは周りの世界に満ちている不安なことがらを乗り越えて生きていくための原動力として不可欠です。    
 一方、「アタッチメント」は母親を自分にとって一番重要な、かけがえのない存在だと認識することです。アタッチメントが形成されることで、母親は子どもにとって「心の安全基地」になります。そして、子どもが自分の不安をしずめ、好奇心を持って外界にチャレンジしていく基盤が出来上がるのです。
 お気づきの方もいらっしゃると思いますが、前回のお話しはマーガレット・マーラーという、子どもの発達を研究した精神科医の発達理論に多くをよっています。こんにち、専門的な立場からはマーラーの理論は議論の分かれる部分があるようですが、母子関係の一面は鮮やかにとらえられていると思いますので、今回も彼女の発達理論にそって母子関係の続きを見ていきたいと思います。

●分離不安の芽生え(生後9-18ヶ月)
 この時期、身体面で直立歩行ができるようになると共に、自己の世界を拡大して外界を探索し始めます。精神面でも母親へのアタッチメントが形成されていると、母親を安全基地にして、外界と母親との間を行き来できるようになります。本格的に外界に出て行く第一段階、いわば「路上教習」のような時期です。
 さて、アタッチメントの成立と共に、母親から離れる不安(分離不安)を示すようになります。かけがえのない存在であるからこそ、離れると強く不安を覚え、ちょっとでも母親が見えないと大泣きしたりするのです。この時期には、母親から離れて周囲のおもちゃを楽しんでいるかと思うと、ふと不安になって母親の元に戻ってきて抱っこをせがみ、またおもちゃの所に戻って行くといった往復が目立ちます。母なる港で「心のエネルギー」を補給し、再び外海に出て行く、そんな母子関係を発達させる時期です。
 この時期にはまた、指しゃぶりをしたり、おもちゃや毛布をなめたりして自分を安心させる行為が見られます。これらを「移行対象」といいます。赤ちゃんにとっては、「良い母親」替わりのお守りのような存在で、母親なしでも自分の心を安定させるための、大切な存在となっていきます。
 分離不安が強くなる一方で、運動面での発達も進みます。歩行が上手になり、外界への関心と行動範囲がより大きくなります。分離不安が適切に対応されることで、母親への愛着と絆の形成がさらに深まり、母との豊かな情緒応答をエネルギーにして、外界と母との間を活発に行き来するようになります。

●分離不安が高まる(生後18-24ヶ月)
 一人歩きが出来るようになった子どもの心の中には、次第に今まで母親との間に感じていた一体感に疑問を抱くような、母親と自分は違う存在だという意識がはっきりしてきます。また、身体を自分の思うように自由に動かすことのできる喜びにより、母親との心理的・身体的距離は拡がりますが、一方で、自分の事を一人でできる能力がまだ身についていないために、かえって母親と離れることを強く意識するようになります。
 遊んでいても、少し親が離れただけでパニックを起こして泣き叫んだり、一時、人見知りが激しくなったりします。大人にとっては些細な事であっても、子どもにとってコトは深刻で、分離不安が最も高まる時期です。そのため、ここで改めて母親を依存対象として要求し、親密な関係を強く求めます。
 また、母親から満たされないと見捨てられたように感じて深く傷つき、逆に怒りを生じさせ母親像の分裂を引き起こします。分裂とは同じ母親を良い母親と悪い母親という全く違う物として成立させてしまうことです。これを「再接近危機」と言います。
 この時期は、今楽しく遊んでいたかと思うと、お母さんの所に泣いてやってきて、数分でけろっとして遊びに戻るといったように、子どもの行動は一見矛盾しているように見えます。しかし、それに振り回されず一貫した対応と豊かな愛情を注ぐことが大切です。一貫した対応をとることで、子どもの中で母親像が一人の人間として、分裂せずに像を結ぶのです。

●一人でも大丈夫!(生後25-36ヶ月)
 再接近危機を乗り越え、現実を見る能力や言葉が発達し、母親以外の大人や子どもと遊びを通して関わる事ができるようになると、母親との分離にも耐えられるようになります。愛情対象としての母親イメージが心の中に持てるようになり、母親がその場にいなくなって自分に欲求不満を与えても、その母親イメージが壊れる事はなくなります。つまり、心の中に自分を支えてくれる母親像を持てるようになります。これを「情緒的対象恒常性の確立」といいます。
 この情緒的対象恒常性の確立により、安心して母親から離れて、自発的に子ども同士の遊び等に参加していけるようになるのです。また、分裂していた母親の良いイメージと悪いイメージが統合されるようになります。
 こうして、おおむね3歳迄には母親との関係を安定させて、外界に一人で出て行くためのこころの準備が整うのです。


:編集部より:
「子育てのこころ」は先月より1年の予定で連載を開始しました。広瀬先生は、当基金の会員用相談サービスである小児掲示板相談と電話相談を長年にわたって担当していただいています。
先生からは読後の感想、意見、質問などをお受けしたいとのご希望です。どうぞwebmaster@jomf.or.jp 宛にメールでお送りください。
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