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ニュースレター(機関紙)

子育てのこころ(4) 母子関係の発達・その1
NL06110104
小児科

子育てのこころ(4) 母子関係の発達・その1


国立成育医療センター こころの診療部 発達心理科
広瀬 宏之

 前回は、どの子も生まれつき必ず持っている「育つ力」と、周囲が教え、本人が学んでいくという「育てる」面のお話しをしました。この二つのバランスを上手に保っていくことが大切です。
 「育つ」「育てる」に関して、興味深い本をご紹介します。「<育てられる者>から<育てる者>へー関係発達の視点から」(鯨岡峻著、NHKブックス)です。ここでは、それまで親に「育てられてきた」男女が、子どもを授かることで新米ママやパパになり、「育てる」立場に変わっていくプロセスが記されています。「育つ」「育てる」という視点に加え、人間は「育てられる」存在で始まり、「育てる」存在に変わるという視点は、言われてみればその通りなのですが、大変新鮮に感じられました。興味のある方は是非お読みいただければと思います。
 さて、今回と次回はお母さんと子どもの関係の発達についてお話しします。お母さんと子どもの間に、基本的な安心感が育まれていくことは育児の基本中の基本で、その子の一生を左右する非常に大事なことです。月齢ごとに見ていきましょう。

●基本的安心感の形成(生後1-2ヶ月)
 この時期の子どもは、主に原始的な反射の中に生きています。つまり、本能的に母親の乳房や哺乳瓶に吸い付き、栄養を得ようとします。母親もそれに応えて授乳を行い、頼ってくる子どもに没頭します。また、おむつが濡れれば赤ちゃんは泣くことでそれを表現し、母親から新しいおむつに取り替えてもらいます。
 このようにして、赤ちゃんにとって最も大切な「母子一体感」が生まれます。この時期の赤ちゃんにとって、世界の全ては母親であり、或いは母親の乳房であり、常に満足させられることによって、世界は全て思い通りになるという万能感を母親から得るのです。
 この万能感は、基本的な信頼感や安心感と言い換えてもいいでしょう。赤ちゃんの産声は、脅威に満ちた世の中へ対する不安感の現れだと言う説を聞いたことがあります。幾分大袈裟とも思えますが、この世は安全であり、周りの人間は自分に害を及ぼさない信頼できる存在なのだということを、人生で最初の相手である母親から学ぶこと、それがその後のその子の一生涯において欠かす事の出来ないことなのです。
 勿論、現実の世の中は安心なことだけではありません。だからこそ、周囲に満ちている不安なことがらを乗り越えて生きていくための一番の原動力として、この「基本的安心感」は不可欠なのです。

●良い経験と悪い経験とがバラバラに認識される時期(生後3-5ヶ月)
 基本的に母子一体感は維持されますが、運動面の発達も影響して一体感は少し緩んできます。この時期、実は、赤ちゃんはまだ自分の母親を「母親」という感覚では完全に認識できてはいません。自分とは違う何か心地よい存在が自分を満足させてくれる、という感覚なのです。そして、その存在が常に自分の欲求を満してくれる経験を繰り返し積むことによって、「良い母親像」を形成していきます。
 もっとも、現実世界では自分の欲求が全て母親によって満足させられるわけではありません。やむを得ず、母親から不快な経験を受けることもあります。しかしこの時期は、同じ母親から不快な経験を受けても、子供は良い経験だけを取り入れ、母親が自分に不快な経験を及ぼしたということは取り入れていきません。同じ1人の母親が良いことも不快なこともする、というようには理解しない(できない)のです。「心地よいことをしてくれる素晴らしい母親」の像をひたすら作り上げていく時期なのです。

●アタッチメントの形成(生後6-8ヶ月)
 脳の発達に伴い、良い経験も悪い経験もいずれも自分の経験として受け入れ、両方の体験を与えてくれる母親を、同一の人物である考える認識が形成されていきます。そして、この特別な体験を与えてくれる母親を、自分にとって、他の人とは違うかけがいのない存在であるとして認識するようになります。これをアタッチメント(愛着)形成といいます。
 アタッチメントの一つの現れが、7-8ヶ月頃に顕著になる人見知りです。人見知りが出てきたと言うことは、お母さんや身近にいて世話をしてくれる人と、そうでない人との区別がつき始めていることを意味します。
 アタッチメントは基本的安心感と同様に、重要な母子関係のマイルストーンです。アタッチメントが形成されることで、安心感が更に裏打ちされ、好奇心が育まれ、未知の外界へチャレンジしていく勇気を身につける素地ができるのです。 何故なら、アタッチメントが形成されたことによって、母親が「子どもにとっての安全基地」の役割を果たすからなのです。
 またこの時期には、母子の身体的密着状態が変化し、一方的に抱っこされるだけでなく、赤ちゃんの方からも姿勢を変えたりして、微妙な身体シグナルが発せられます。それを母親がキャッチする事で相互関係が進化し、赤ちゃんからの母親に対する働きかけをさらに発達させる結果になります。
 このあと、一歳頃に赤ちゃんは一人で歩けるようになり、いよいよ外の世界に第一歩を踏み出します。見るもの聞くもの全て新鮮な体験で、不安もまた大きくなります。次回はそれ以降の母子関係の発達を見て行きましょう。


:編集部より:
「子育てのこころ」は先月より1年の予定で連載を開始しました。広瀬先生は、当基金の会員用相談サービスである小児掲示板相談と電話相談を長年にわたって担当していただいています。
先生からは読後の感想、意見、質問などをお受けしたいとのご希望です。どうぞwebmaster@jomf.or.jp 宛にメールでお送りください。
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