• ホーム
  • 基金について
  • 海外医療情報
  • お勧めリンク集
  • よくある質問

ホーム > 海外医療情報 > ニュースレター(機関紙)

ニュースレター(機関紙)

子育てのこころ(3)「育てる」と「育つ」
NL06100104
小児科

子育てのこころ(3)「育てる」と「育つ」


国立成育医療センター こころの診療部 発達心理科
広瀬 宏之

 二回にわたって、子育ての基本的なコツをお話ししました。そこには、子どもに関わる専門家の一人として、子どもの本来もっている「育つ力」を信じて、伸ばしていってほしいと言う希望も込められています。
 そこで、今回は子どものもっている「育つ力」について考えてみたいと思います。

●子どもを「育てる」
 人間は生物学的にも社会的にも早産だと言われています。お母さんのおなかに一年もいて生まれてくるのに、生まれたばかりの赤ちゃんは生存に必要な周囲との関わりを自分の力だけではできません。ほ乳類の多くの動物たち、例えば馬や牛などは生まれてすぐに歩くことができます。これは自分の足でお母さんのおっぱいのところまでたどりつける、何かあれば移動して逃げることができるということです。ほ乳類の大半はそういうことができるようになってから生まれてくるのです。
 ところが人間は生まれてからすぐには歩けません。多くの赤ちゃんは歩けるようになるまでさらに一年を要します。お母さんあるいはその役割をする人がいて、その人がおっぱいをあげる、危険から守る、ということを前提に生まれてくるのです。どうしてこういうことになっているのでしょうか。それは人間の脳が、早期に適切な刺激を受ければきちんと発達するようにできているからです。逆にいうと、適切な刺激を与えて育てなければ何一つ身につかないということでもあります。
 人間の赤ちゃんはおなかがすいても、独力ではおっぱいにたどり着けません。そのかわりに泣きます。それをお母さんが聞いておっぱいをあげる、すると赤ちゃんは泣き止みます。時には空腹ではなく「おむつをかえて!」の泣き声かもしれません。おっぱいをあげても泣きやまない時は、おむつを見てあげるわけです。そうして発せられた泣き声というサインに周りが適切に反応する。そこで赤ちゃんはお腹がすいたら泣けばいいということを学習するのです。空腹時だけでなく何か要求したいときには泣く、するとお母さんが要求を満たしてくれる、そして精神的にも安心させてくれるとわかるのです。
 このように、周りが適切に関わることが前提で、一人では何もできない状態で人間は生まれてきます。関わる事で成長して行く、その意味で子どもは「育てる」存在だということができます。

●子どもは「育つ」
 その一方で子どもは「育つ」という言い方もできます。大人になってから脳に損傷を受けて障害がでた場合、それをとり戻すには多くの努力が必要で、自然回復することはほとんどありません。しかし子どもはそうではありません。子どもには「育つ力」が生まれつき備わっています。脳の一部が障害をうけても、他の場所がその機能を補って代償することがあります。あとから地道に学習することで身につくこともあります。
 歩く事や話す事など、色々な機能に関して子どもには生来の「育つ力」が備わっています。大人になってから英語を学ぶのは大変なことです。でも英語圏に産まれた赤ちゃんは自然に英語を身につけます。英語に限らずどの赤ちゃんでも、育つ場所の言語を容易に身につけるのです。このように、子どもには大人にはない「育つ力」が与えられています。その力を妨げないようにすることも大人の大事な役割です。
 発達がゆっくりのお子さんもいらっしゃると思います。そんなお子さんにも「育つ力」は必ず備わっています。本来持っているその力を十分に生かせるよう、病気だからこそ、持っている実力を十分に出せるようにしてあげることが重要なのです。
 生まれる40週前に出会った精子と卵子が、胎内で育って、小さな芽を出すのが出生の瞬間です。その芽に水をあげ、太陽の光をあてるとすくすくと伸びていきます。ほどよい肥料をあげたり、外敵から小さい存在を守ったりする必要もあるかもしれません。しかし、水や光や肥料をあげすぎても、早く伸びろと引っ張っても枯れてしまいます。守りすぎても豊かな結実への妨げになります。
 人間の発達も同じです。適切な時期に適切な関わりをすること、子どもの「育つ力」を十分に生かすこと、「育てる」と「育つ」のバランスを上手にとっていくことが大切です。
 このようなことを考えつつ、次回から子どもの発達や、子育ての具体的なテーマについて考え、お話ししていこうと思います。


:編集部より:
「子育てのこころ」は先月より1年の予定で連載を開始しました。広瀬先生は、当基金の会員用相談サービスである小児掲示板相談と電話相談を長年にわたって担当していただいています。
先生からは読後の感想、意見、質問などをお受けしたいとのご希望です。どうぞwebmaster@jomf.or.jp 宛にメールでお送りください。
●「子育てのこころ」索引コーナー
http://www.jomf.or.jp/jyouhou/jigyou_iryou2/jigyou_iryou2_4.html#q
●「小児医療の現場から」索引コーナー(小児相談担当医によるリレーエッセイ)
http://www.jomf.or.jp/jyouhou/jigyou_iryou2/jigyou_iryou2_4.html#o