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ニュースレター(機関紙)

続・話題の感染症2「旅行者下痢症」
NL06090103
感染症

続・話題の感染症2「旅行者下痢症」

(財)海外邦人医療基金(顧問)
長崎大学熱帯医学研究所(客員教授)
おおり医院(院長)
大利 昌久

旅行者下痢症とは、海外旅行者が海外滞在中に起こす下痢の総称である。旅行期間の長期、短期にかかわらず、海外旅行者の最も多い主訴がこの“下痢”、“腹痛を伴う下痢”である。特に熱帯や亜熱帯地域への旅行では、3~5日以内に30~50%以上の人々が下痢を経験する。今でも「モンテズマのたたり」(メキシコ)、「カラチ腹」(パキスタン)、「デリー胃痛」(インド)、「バクダット下痢」(イラク)は悪名高い。
 
1)下痢の原因
下痢症の多くは飲食物から感染するが、75%が非感染性の下痢であるとの報告もある。たとえば、①体調の変化(時差ぼけ、標高差、疲れなど)とストレス、②飲料水の硬度の違い、特に硬質の多い水を飲用、③脂肪分や香料、香辛料などの食物の変化、④アルコールの飲みすぎなどによる。

感染性病原体による下痢は、非感染性下痢と比較して症状は重く、起炎菌の違いにより症状が異なる。

これらの病原体に汚染された水や飲食物からの感染は“経口感染症”という。あるいは多くの病原体が排便され、その後、手指についた病原体が再び口に触れて感染することもあり、“糞口感染症”ともいう。

表1に、旅行者下痢症の主要病原体をウイルス、細菌、原虫の3つに分類し示した。そのほとんどは、ウイルスか細菌によるものが多い。しかし、現地ではなく帰国後に発症し、長時間継続する下痢に悩まされる人の多くは、ランブル鞭毛虫など、原虫の寄生を受けている。

多くは東南アジア、中東、アフリカ、中南米などの発展途上国での発病が多い。

2)下痢の診断
人は1日に飲料水として約1.2リットル、食品として約1リットルの水分を摂取している。そして、消化管では1日約10リットルの消化液が分泌され、その99%が腸粘膜によって吸収される。下痢の場合には、腸粘膜での水分吸収量が減少し、糞便として1日200ml以上が排出される。

下痢の重症度は、1日の排便回数で分類するのが実際的である。3回以内は軽症、4~9回は中等症、10回以上は重症となる。随伴症状として、感染性の下痢には、発熱、脱水、嘔気、嘔吐、腹痛などを伴う。

最終的な診断名は、血液検査と糞便検査により明らかになった病原体に応じて決定される。

3)下痢の予防
海外での感染予防対策は、以下の通りである。

① 生水を飲まず、ミネラルウォーターあるいは煮沸した水を飲用する。煮沸は100℃で20分間おこなえば、ほとんどすべてのウイルス、細菌、原虫、蠕虫を殺せる。

② 氷にも注意し、安全な水から作られたものに限って摂取する。

③ 生野菜を食べる際には、丹念に水洗いをし、サッと沸騰水に浸すくらいの慎重さが望まれる。

④ 魚介類・肉類の生食は非常に危険である。火を通すことは、塩素で死滅しないアメーバ赤痢の“のう子”まで殺すことができ、有効な手段である。

⑤ 鶏を調理する場合、糞にサルモネラが繁殖している可能性があり、細心の注意が必要になる。また、鶏卵の生食は避ける。

⑥ 加熱調理を行っても、熱帯、亜熱帯地域では、2時間以上、室内に放置したものは危険である。停電もよくあり、冷蔵庫保管も安心できない。

⑦ 排便後、調理前、食前の手洗いを励行する。手洗いは、濁りのない水でおこなう。

4)下痢への対応
旅行者下痢症には、①脱水の予防、②原因の追求、③感染治療及び拡大への対策を念頭に置かなくてはならない。
急性下痢症のほとんどは自然に治癒することが多いが、適切な水分補給が必要である。適度な糖分や電解質を含んだ飲料水が吸収されやすい。たとえば、市販のスポーツドリンク、電解質製剤(医薬品)などを用いる。このような飲料水を失われた水分量とほぼ同量、飲用することが下痢治療の基本となる。

下痢のため大量の水分が失われると、脱水が起こり、口渇、全身倦怠、脱力感、頻脈、血圧低下などの症状が現れる。さらに電解質異常により、食欲不振、頭痛、筋肉のけいれん、意識障害などが出現する場合もある。脱水が重症になると、生命に危険が及ぶので、補液療法をおこなう。

このようなケースでは、医療機関で対応する必要がある。特に1日に10リットル以上の無色の水様下痢(コレラの疑いあり)や、便に血液が付着あるいは混入(赤痢の疑いあり)では、適切な治療が必要となる。抗生物質は病原体を確認した上で、服用させる方が良い。

一般に海外旅行者の届出下痢症の60%以上から表1の病原菌が検出されている。そして、旅行者下痢症はインド亜大陸、東南アジアから75%以上が持ち込まれている。したがって、“軟便”あるいは“下痢”のある帰国者は、適切な治療及び国内での二次感染予防のため、検便などが必要となる。



表1.旅行者下痢症の主な病原体 
ウイルスロタウイルス
ノロウイルス
カリシウイルス
エンテロウイルス
細菌2類感染症赤痢菌
コレラ菌
腸チフス菌
パラチフス菌
3類感染症腸管出血性大腸菌(0157)
4類感染症
1.感染型 サルモネラ
 腸炎ビブリオ
 カンピロバクター
2.毒素型 黄色ブドウ球菌
 ボツリヌス菌
原虫ランブル鞭毛虫
赤痢アメーバ
クリプトスポリジウム
サイクロスポーラ